戦意途絶えることなく、その姿鬼神のごとし 2-9
尾久利の目に映る光景は、地獄そのものだ。
確かに迫撃砲の効果は凄まじいものだった。
それにより数両の敵戦車の足を止めることができた。
その炸裂音の轟音により数人の敵兵士の歩みを止めることができた。
しかし、それでも足りなかった。
尾久利の目に映る光景は、地獄そのものだ。
確かに中隊130人による統制された銃撃の効果は凄まじいものだった。
それにより命を懸けた対戦車地雷による特攻は見事に成功した。
その破壊力と行動により数人の敵兵士の歩みを止めることができた。
しかし、それでも足りなかった。
尾久利の目に映る光景は、地獄そのものだ。
ソ連軍は戦車を盾に歩みを続け、戦車砲を前に尾久利たち日本軍の損害は急増していく。
先ほど敵兵士の銃を共に奪いに行った兵士はもう息絶えている。
迫撃砲の音はもう聞こえない。射撃音は途切れ途切れに森林に響き、とても統制されているとはいえない。
――あれは中隊長か……。
ソ連軍兵士による激しい銃撃の中、地雷を抱えソ連軍へ猛進する中隊長の姿が見える。数人の兵士がそれを援護しようと引き金を引くが、ソ連軍の戦車砲が中隊長を文字どおりバラバラにした。
これが、彼なりの責任の取り方だったのだろうか。あるいは、彼が望んだ結末だったのだろうか。どちらにせよ、中隊長は猛烈な戦死を遂げられた。
尾久利の目に映る光景は、地獄そのものだ。
胸から流れる赤い液体は止まることを知らず、徐々に両腕の力が入らなくなっている。
武器を奪いに進み、戦車を発見した後は隊列まで戻り、中隊長の号令の下引き金を引き、そして多くの戦友と共に銃弾に倒れた。
塹壕の中で背を預け倒れ込む尾久利に、もう戦う力は残っていない。いや、もはや壊滅より全滅したと表現するほうが正しいこの部隊にどれだけの戦力が残っているのだろうか。だって、目の前に立つソ連兵がこちらに銃口を向けているというのに……。