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戦意途絶えることなく、その姿鬼神のごとし 2-6

 後方で38式を構え援護していた中隊の目には、全身に軽機関銃を抱きかかえた3人が全力でこちらに走ってくる様子が映る。

中隊長はすぐさま戦闘準備を命令し、部隊は休むことなく次の戦闘に備える。


「敵戦車が来るぞぉぉぉーーーー!!!」

 尾久利は自分が何と情けない声を出しているのかと感じる余裕もないほど全力で中隊へ走っていた。木の根を飛び越えると同時に、強力な射撃音が木々を貫き、轟音が響く。

 そもそも尾久利は朝鮮の防衛部隊に所属していたため、戦車からの攻撃を受けたのは初めての事だった。だから、敵戦車からの攻撃がどれほど恐怖を与えるものなのか想像したこともない。


 ちなみに、この時尾久利が戦車がと言ったのはBT-7と呼ばれるソ連軍の快速戦車の事だ。独ソ戦においてドイツ戦車には全く勝ち目がない事が判明した小型戦車はすぐに後方にまわされ、満州付近のソ連軍に配備されることとなった。

 BTシリーズと呼ばれるこれらは、欧州の戦争において明確に時代遅れの後方品である。

 それでも、その主砲は45mm口径の榴弾を最大4,400m飛ばすことができるのだから、今の日本軍にとっては大問題に違いない。


「対戦地雷は!?」

 中隊長が小隊長を捕まえて問う。小隊長はすぐさま部下に地雷の設置を命じ、数名が前進する。その一方で中隊が戦車と共に来るであろうソ連兵に対応するために銃を構えなおす。

「迫撃砲攻撃用意!地雷設置を援護せよ」

 89式重擲弾筒は670mもの有効射程距離を持つ軽迫撃砲である。今現在、部隊には6門の軽迫撃砲があるが、弾薬数に関しては満足いくものではなかった。

 しかし、有効半径10mという攻撃力の高さと野砲並みの破裂音は迫ってくる敵兵士を大いに怯ませることができる。敵兵力の完全な破壊を目的としていない現状においては、進撃速度を遅らせるだけでも日本軍にとってはありがたい事だった。


 攻撃準備よしという返事と共に、合計6発の榴弾が筒から放たれる。その榴弾は放物線を描いてソ連軍がいると思われる方向へと向かっていく。


「第2射攻撃準備!目標そのまま」

 迫撃砲の着弾まで少し時間がかかる。さらに、この深い森の中では木々に当たり誤爆する可能性の方が高い。実際、市街戦ではかなりの誤爆があったと報告が上がっていたそうだ。

 ――それでも、少しでも進撃速度を遅らせることができれば。

 たったそれだけが彼らの望みであった。


 残念ながら、この望みが叶うことは無い。

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