暗闇の中へ
今回もよろしくお願いします。
ところで、ここってどんな事書けば良いんですかね。
「こんな夜に何だろう………」
「ホントだよ。せっかくゲームしてたのに。」
突然の召集に詩音と由莉は、疑問と文句を言いながら廊下を歩いていた。現在は19時頃。先程放送があって、魔道士は司令室に来るよう伝えられた。
「警報が鳴ってないから魔物じゃ無いと思うけど……」
由莉が司令室のドアを開ける。
そこには、魔物対策本部の最高指揮官、早水高志が椅子に座って彼女らを待っていた。
「えっと、今晩は。」
由莉が曖昧な挨拶をして、詩音もその後から頭を下げた。一気に緊張が走り、体が硬直する。
「後の3人も………来たようだな。」
彼は別のドアから誠一、六花、勇介が部屋に入って来るのを確認した。
「これで、ここの支部の魔道士は全員だな。」
「あれ、ここって魔物対策本部だよね?さっき支部って言ってたけど……」
「通称はね。あくまでここは支部の1つだよ。」
詩音は小声で由莉に聞いた。前から本部と支部の呼称があり、気になっていたのだ。
「魔道士諸君らには、これから戦術的な訓練を受けて貰う。目的としては、より効率的な魔物の殲滅、軍事組織との連携作戦への………」
高志は集まった魔道士達に説明を始めた。
「そして、その訓練の中で諸君らには今晩『ベッドキーパー』を撃破して貰いたい。」
「『ベッドキーパー』ですか。確かに、この人数なら……」
「いい具合に役割も分担出来るしね。」
誠一と六花は訓練とその内容に納得しているようだ。勇介は無表情のままだが、これは彼の性分なのだろう。
「何か質問は?」
締め括りとして、高志が口を開いた。
「えっと、『ベッドキーパー』とは、何ですか?」
詩音は控えめに挙手した。
「ああ、君はまだ知らないんだったな。」
「じゃあ、ずっとそこに居たって事?」
「そうみたいね。大体一年くらい。」
作戦の詳細な説明が終わり、詩音は装備を整えながら、由莉から『ベッドキーパー』について教えてもらっていた。
それは、戦闘区域内の廃墟に住み着いた魔物だという。その場所が端の方にある事もあり、警報が鳴って魔道士が駆け付けた時には既に建物を倒壊させ、自身の寝ぐらに変えていたそうだ。暗闇を縦横無人に駆け回る為、正確な容は捉えられず、今日まで放置されて来たのだ。そして自身の住処から移動しない事から『ベッドキーパー』と呼ばれるようになったという。
「そんなの、倒せるのかな……」
「作戦立てればいけるんじゃ無いの?あ、今の取り消しね。失敗するかもだから。」
由莉は既に準備を完了していた。M 14をスリングで担ぎ、チェストリグと呼ばれる胴体に付ける物を装備、背中に大きなバックを背負っている。
詩音も同様の物を装備していた。
「重い……」
そして、その重さに顔をしかめていた。
「勇介くん、バッグは?」
ふと、近くで準備していた勇介の装備を見て、詩音は首を傾げた。彼は、マガジンポーチの付いたベストを装着していたが、背中には何も背負っていなかった。
「…………俺は、こう言う役回りだそうだ。戦いに参加するだけで価値があるんだろ?」
彼は一瞬遅れてから応答した。先日詩音によって、植え付けられた信念を破壊されたばかりだ。その事から気まづさを感じていたのだろう。
「準備を完了だな。………………六花は?」
準備を終え、詩音達を見渡した誠一。だが、彼は六花の不在を確認した。彼女の軽機関銃とその他装備は床に置いてある。
「六花さんならヘアスタイル整えてますよー。」
「またか……そこが無ければ優秀な戦士なんだが………」
「魔道士は戦士じゃ無いからさ。しょうがないと思いますけど。」
誠一は少し呆れたようだった。
「お待たせ。それじゃ、行きましょ。」
噂をすればなんとやら。彼女は素早く装備品を背負い、機関銃を持ってエレベーターへと歩き出した。
魔物対策本部は広い地下通路を持っている。なので、遠くのエレベーターへの移動は、レールの上を走る台車の様な物で移動する。詩音はコレに乗るのは初めてだ。4人乗りだが、荷物があるので今回は2人づつ乗る。そして、流れで六花と一緒に乗ることになった。乗り物動作音の中、六花が話しかける。
「どう?ここには慣れた?」
「まだです。覚える事、やる事が多すぎて。」
「そう。あなたかわいいし、私の妹にならない?姉として指導してあげるわよ。」
「妹?」
詩音は首を傾げた。
「まあ、気分的なものね。ちなみに、由莉ちゃんは即行でOKしたわよ。」
由莉ならあり得なくも無い話だ。
「えっと、じゃあ、保留で。」
「いつでも歓迎するわよ。」
彼女達の乗る乗り物は、歩くよりマシだが、決して速くは無い。椅子と荷物置きだけの乗り物なので、元々速度は出せないのだ。
「六花さんは、戦う事が怖く無いんですか?」
詩音は鼻歌を歌いながら機関銃の銃身を指で叩いてリズムを刻んでいた六花に話かけた。
「そうねぇ……怖い時もあるけど、興奮が勝るかしらねぇ………」
思い出す様な口調で彼女は答えた。
「興奮…………?」
「退屈な人生、不安な将来、1番と無縁な自分…………そんな物から抜け出すには、最高の仕事よ。」
「そんな気持ちで戦っていいのかな………?」
詩音は暫くの間考え込んだ。ただ単調な、乗り物の作動音だけが響いた。
「理由なんてどうでもいいんじゃ無いの?大切な人のため、自分のため、国のため、お金のため、趣味……………………結果として魔物が倒せれば、それでいいと私は思うわ。」
やがて目的地に到着し、2人は乗り物から降りた。
「考えるだけ無駄な事。ほら、行きなさい。」
詩音の考えている表情から察した六花は、彼女の背中を押して、先に到着していた由莉と勇介に合流させた。
「私が最後か。…………では、作戦開始だ。」
少し遅れて、誠一が到着。それぞれ2台のエレベーターに乗り込み、地上へと上昇した。
事前に説明された作戦として、詩音、由莉、勇介が先に夜の街へと向かった。
『こちらフォレスト。これよりコードネームの確認を行う。ウルフ、全員いるか?』
無線機から高志の声が聞こえる。フォレストは司令部を現す言葉だ。
「はい。3人揃ってます。」
ウルフとは詩音達3人に割り当てられた名前だ。この作戦の主力となっている。
『次にコブラ。』
『ええ。これから建物に向かいます。』
誠一が応答した。彼は自動小銃に暗視スコープを搭載して、詩音達とは別で移動している。
『最後にイーグル、どうだ?』
『ヴァルキリーじゃダメかしら?』
魔法で浮遊し、離れた位置から詩音達を追跡する役目を六花は任されていた。だが、彼女はイーグルという名前に反対した。
『…………了解した。イーグルをヴァルキリーに変更。作戦を続けろ。』
高志の声を最後に通信は終了した。
夜の戦闘区域は昼間以上に静かで、気味が悪い。しかも、これから開く先にはベッドキーパーによって無残に破壊された廃墟が、真っ暗な口を空けていた。ぼんやりと見える影から、大型の施設だったと考えられる。
「ここ、前に来た事ある。」
由莉は、歪んだ建物の輪郭を見て呟いた。
「魔物との戦いで?」
「戦闘区域になる前。お母さんと。メロンソーダ買って貰った。」
彼女は足元の小石を爪先で蹴飛ばした。
「羨ましいよ、全く。」
拗ねような口調で勇介が真っ先に廃墟へと向かった。彼からしたら羨ましいだろう。母親と、同級生に恵まれ無かった彼には。詩音は、どうにかして彼の友人になろうと思っていた。勇介は、現時点で詩音をどう見ているのか分からない。
「こちらウルフ。これより、中に入る。」
勇介は無線機で連絡をし、廃墟の中へ向かって行った。
「寒い……」
詩音は自らの肩を摩った。廃墟の中は散々荒らされていた。至る所に瓦礫や、倒れた棚などが散乱している。崩れた天井からの月明かりが幸いだ。
「こんな夜になんやくてもいいのに。」
「司令官が夜しか空いてないんだと。」
由莉が愚痴を溢し、勇介はため息をついた。
『ヴァルキリーよ。これから中に入って、室内を上の方から監視する。』
『こちらコブラ。2階には居ないようだ。』
無線機から六花と誠一の交信が聞こえて来た。
「この寒さ…………近くにいるかな?」
由莉がレバーを引いて弾丸を装填した。高い金属音が嫌に大きく響く。1階の散策は殆ど終わった。ベッドキーパーは大型との報告があるので、トイレや、狭い空間は捜索していない。由莉が辺りを見渡している。魔物の気配を感じるとは言え、正確な位置までは分からない。
「この暗がりの先とか?」
詩音は闇に包まれた角の店らしき所を指した。
「気配はするな。」
勇介が安全装置を解除した。
『ヴァルキリーからウルフへ。今、そちらの上に居るわ。』
六花からの通信があり、詩音は天井を見上げた。月光な照らされながら、彼女は手を振った。
『見た所、通路には居なそうね。となると、そこかしら?』
『ウルフ、そこにいるのか?私は裏口から回り込む。奴はすぐ近くだ。』
ベテランの2人が位置を特定したようだ。詩音達のすぐ先の暗がりに、魔物は居るようだ。
『はい。これから探索に向かいます。』
『立花さん、照明お願いできる?』
由莉は六花に支援を頼んだ。ヴァルキリーでは無く、彼女の名前で。
『コードネームじゃ無いと司令に怒られるわよ…………あと、気付かれるかもだから、あなたの炎で照らしなさい。』
後半、彼女の声は直接聞こえた。詩音達と合流して床に伏せ、機関銃を2脚で固定した六花。
「何かあったらすぐ掃射するわ。逃げる時は壁沿いに逃げなさい。」
『ウルフからフォレストへ。これより探索開始。』
由莉が本部をに連絡を取り、暗闇の中へと進んで行く。
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