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孤高の戦士

魔物対策本部の一室、大きな円卓と巨大な壁掛けモニター。そして複数のパソコンや機械の置かれたこの部屋は、施設の司令部だ。現在は10人程の職員が作業をしたり、どこかと連絡を取ったりしている。また、モニターの画面はには戦闘区域の至る所の様子が映っている。

「ここが我々の司令部、この施設の脳だ。」

部屋の隅のドアから誠一と詩音が入室する。

昨日の戦闘から一夜開け、詩音は初めてこの部屋に入った。

「戦闘区域内のレーダーに魔力反応をがあるとモニターに表示されて、それを職員が分析する。そして、魔物だと判断されると警報が鳴るんだ。そしたら我々魔道士はここに来て指示を仰ぐ。次からはそうしてくれ。」

「はい。分かりました。」

誠一は椅子に座っている1人の職員に声をかけた。彼がパソコンで何かの操作をすると、モニターの一部の映像が切り替わり、赤い球体が映し出される。

「なんですか、これ?」

それが何なのか、詩音には見当も付かなかった。球体の表面では何かの模様がゆっくりと動いている。

「膨大な魔力の塊だよ。ここより深い、地下にある。」

誠一は画面を指さした。

「何に使うんですか?」

「ああ。この魔力の塊で奴らを引き付け、戦闘区域に閉じ込めているんだ。」

「……………」

「奴らは魔道士を優先的に狙う。魔力を吸収する為にね。」

「だからこんな物が…………」

詩音は合点が行った。

「しかし、これが地下にあると分かれば、魔物は外へと向かう。だから、なんとしても戦闘区域内で倒さねばならないのだ。」

彼は力強く言い切った。

「さて、こんなとこだろう。後は自由だ。射撃訓練する時は、私に連絡を取ってくれ。」

一通りの説明が終わったようだ。とりあえずは、宿舎に戻ろう。そんな事を考えながら、司令部から立ち去った。


「覚える事が多すぎる……」

詩音は個室のベッドの上に仰向けに寝転び、読んでいた資料を軽く投げた。性格ゆえ、何度も資料を読み返していた。円形の蛍光灯と白い天井が目に入る。ベッドの他に机と椅子、テレビと小さな冷蔵庫、そして本棚がある。由莉の行った通り、狭いが良い部屋だ。床の上には、荷物の入った段ボールがいくつか置いてある。忙しかったのでまだ半分も終わっていない。

ふと、彼女は起き上がった。何となくシャワーを浴びたくなったのだ。絨毯の上を歩き、シャワールームのドアを開ける。履いていたズボンのベルトを外そうとした瞬間、

大音量で警報が鳴り響いた。

「わっ!!」

油断し切っていた彼女は小さく飛び上がってしまった。

『戦闘区域内に魔力反応を確認!職員は直ちに戦闘配置!職員は直ちに戦闘配置!』

タイミングを恨みながらも、慌ててベルトを締め直し、靴を履いて廊下に出た。

「詩音!行くよ!」

靴をしっかりと履き込んでいると、隣のドアが勢いよく開いき、由莉が飛び出して来た。

「あっ、待って!」

彼女は詩音の手を取り、走り出した。目指すは司令部だ。途中で銃を持ち何処かへ走る職員を何人も見かけ、物々しい雰囲気が嫌でも感じられた。


「4人か……まあ、仕方ないな。」

2人が司令部に到着すると、既に誠一はそこに居た。迷彩服を着て、由莉の物より長い狙撃銃を持っている。

その隣に、無表情な少年が立っていた。上下黒の戦闘服を着て、その上にポーチの付いたベストを装備している。

「今回詩音には彼、古山勇介と行動して貰う。何事も経験だからな。」

「わかりました。えっと、よろしくね。」

詩音は勇介の方に体を向けた。しかし

「それで、作戦は?」

彼は詩音を無視して、円卓上の地図を見ている。

「…………君達2人は反応のあった近く、第5エレベーターから上昇して貰う。私と由莉は第7から出撃、ここのビルから狙い撃つ。いいか?」

「はい。」「イエッサー!」「……」

3人はそれぞれの反応で応答した。


エレベーターに向かって、詩音と勇介は歩いていた。戦闘配置で人のいない廊下は静かすぎる。

「勇介君のは、何て銃なの?」

どうにか話題を切り出した彼女。

「…………M 16。アンタと同じ口径だ。」

彼はスリングで自動小銃を吊っていた。照準機を兼ねた取手と、銃剣が装着されている。

だが、それきり会話は無かった。気まずい雰囲気のまま、他よりも簡素なエレベーターに乗り込む。

「出たらすぐに切り込む。邪魔だけはするなよ。」

ドアの方を見たまま勇介が言った。数秒後にエレベーターは停止、静かにドアが開く。完全に開き切る前に、勇介は外に飛び出した。靴音、ガチャガチャという装備の擦れる音を鳴らしながら、高速で前に進む。

「あ、待って!」

慌てて後を追いかける詩音。しかし、彼に追いつく事はできなかった。彼の走りは陸上の選手に相当する、そのレベルだったからだ。

『詩音、聞こえる?』

勇介が角を曲がって見えなくなった。その時無線機から由莉の声が聞こえた。

『ええ。聞こえるわ。』

『ターゲットは工場跡地に入ったみたい。かなりデカいから、気を付けてね。』

『エレベーター出たところなんだけど、どう行けばいいの?』

『えっと……………………真っ直ぐ進んで、2つ目の角を右だって。』

『わかった。ありがとね。』

由莉との通信を終え、小走りで目標点に向かう。彼女の言っていた角は、勇介が曲がった所だった。


目標の工場はすぐに見えた。広大な敷地にコンクリート製の四角い建物が3つある。

「どこだろう……」

建物が3つあるとは予想して居なかった。どれから入るか考えていると、1番端のシャッターが半開きになっている建物の中から銃声が聞こえて来た。感覚からして、連射しているのだろう。

詩音はすぐに反応し、その中に入る。


勇介、そして魔物はそこに居た。

魔物の体は全身が黒く、形状から鎧を着ている事が分かる。4メートル程で縦にも横にも威圧感がある。角が付いた兜、そして右手の両刃の斧は、北欧のヴァイキングを連想させた。

その魔物の前で、勇介は姿勢を低くし、魔物の眼を睨んでいた。

「ーーーーッ!!」

魔物は唸りながら斧を振り上げ、勇介に襲いかかる。彼は後ろに跳んで射程から逃れ、フルオートで発砲する。野外よりも喧しく銃声が響き、銃口から出る火が薄暗い室内を眩しく照らす。しかし、魔物は怯む事なく距離を詰める。

「チッ!」

勇介は思い切り跳躍し強烈な横振りを避け、魔物の後ろに回り込む。

驚異的な身体能力、詩音はこれが彼の魔法だと気付いた。地上に出た時の走りも、現在起こっている戦い方もそうだ。

勇介は銃剣で魔物を刺突し、時に斬りつけ、攻撃と離脱を繰り返している。詩音は加勢仕様にも、その苛烈な戦場に踏み込めずにいた。素早く魔物の周りを動く勇介を間違えて撃つ事を恐れていた。

素早さと、豪快な火力が互いにぶつかる。勇介は魔物攻撃を避け、今の所は無傷だ。対する魔物は、彼の攻撃が効いていない様にも見える。

一際大きく下がり、素早く弾倉を交換、射撃を再開する。

「ッ!!」

魔物は弾丸を正面から受けながらも、彼に肉薄、巨大な斧を豪快に振るった。

「ぐあっ!!」

間一髪、M 16で斧を防ぎ、体が真っ二つとはならなかった。それでも、巨体から繰り出されて一撃をモロに受け、衝撃で大きく吹き飛ばすされた。

「がっ……!あっ…!」

その勢いのまま金属製の走りにぶつかり、鈍い音を立て、受け身も取れず痛々しい悲鳴を上げた。

彼が立ち上がる前に、魔物は再び距離を詰める。斧を縦に振り、トドメを刺すつもりだ。大股で歩いて近づくのは、余裕からだろうか。

「く……そが………!!!」

再起出来ず、魔物を睨む事しか出来ない彼は荒い息の中、血と罵声を吐き捨てた。


詩音は撃った。狙いなどあまり付けずに、めちゃくちゃに連射した。手負いの彼の命を断とうとしていた魔物が、その獲物を下ろし、振り返る。炎の様な真っ赤な瞳と目が合う。邪魔をするなと言う様に詩音に近づく。彼女は弾倉を交換し、その顔を睨み返した。

「いい加減に……………死にやがれぇぇぇぇぇ!!!」

叫び声を上げ、勇介は飛び上がった。彼は両手で鉄パイプの様な物を持ち、渾身の力で魔物の首に後ろから突き刺した。ドス黒く濡れた先端が、詩音の側からも見えた。

「ーーーー!?」

驚いた様な唸り声を上げる魔物。

「でやああああああああ!!!」

吠える様に彼は魔物に突進する。今度はM 16を持っていた。銃身を槍の様に持ち、刺突する。魔物が反応する前に、何度も、何度も刺突し、全身を魔物の体液で汚す。

「コイツで、終わりだ!!!」

一際深く、それこそバレルが埋まる程で突き刺す。

「ーーー……………」

最期に唸り声を上げ、魔物は沈黙、すぐに光の粒となった。

「はぁ……はぁ……………」

勇介は服の袖で顔についた液体を拭った。その次に銃を数発撃って、破損が無いことを確認した。

「勇介君!大丈夫!?」

彼の激しい戦闘に呆気に取られていた詩音は我に返り、慌てて側に駆け寄った。

「…………気にするな。」

彼はぶっきらぼうに答え、外へと歩き出した。

「本当に?…………」

どうしても心配は拭えない。それもそうだ。怪力で宙に打ち上げられ、背中を強打したのだ。骨の一本は折れていてもおかしくは無い。

「大丈夫だ………」

詩音には目もくれず、ぎこちない歩き方で工場を後にする。

「…………でも、あんな攻撃受けたし、今も苦しそうだし…………」

「大丈夫だと言ってるだろ!!」

隣に並んだ詩音に向けられたのは、鋭い眼光と、怒声だった。

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