初陣と舞姫
二話です。よろしくお願いします。
この作品の事は、AMMと呼んでやって下さい。
「これからは、施設の宿舎で暮らす事になるのは知ってるかな?」
「はい。知ってます。」
「狭いけどいい部屋だよ。テレビもあるし、ネットも使い放題。」
バーから出た3人は居住スペースに向かって歩いていた。この施設の大半が地下に埋まっていて、先程のバーもこれから行く居住スペースも地下だ。
「魔物と戦って貰う訳だから、これくらいは当然の保証だそうだ。」
「そうだ!詩音私の隣の部屋に来なよ!相部屋でもいいよ。」
名案を思い付いたと満面の笑みで由莉が提案する。
「さすがに相部屋は…………でも、隣にするね。」
「まあ相部屋は冗談だよ。」
その音は突然鳴り響いた。聴くのは初めてだが、その音が何かの警報である事は分かった。
『施設内全域に連絡、戦闘区域にて魔力反応を確認。職員は直ちに戦闘配置!直ちに戦闘配置!』
警報、そしてアナウンスが天井のスピーカーからけたたましく響く。
「来やがったか。チュートリアルになりそうかな、これ?」
由莉が天井のスピーカーを睨む。
「なんですか?これ?」
突然の出来事に戸惑う詩音。その横で
「司令部へ確認に向かう。2人は装備を整えて武器庫前で待機してくれ。」
誠一はそう言い残して走り去って行った。
「由莉、さっきから何なの?もしかして…………」
「魔物の出現。記念すべき初陣だよ。」
2人が武器庫に到達する頃には、警報は鳴り止んでいた。その中で、早速2人は装備を整える。そして
「ターゲットは小型だ。詩音、由莉。2人にはこれから、撃破に向かってもらう。後から私も加勢する。」
誠一が完結に命令を伝えた。詩音は、よく分からないまま上へ向かうエレベーターに乗るしか無かった。
「ここが戦闘区域………」
詩音は目の前の光景に目を見張った。そこは人の居なくなった街だった。数キロ四方の戦闘区域は、街を丸ごと使用していた。なので、風化はしているが住宅地や学校がそのまま残っているのだ。
『目標はこの中にいる。見つけ次第報告、撃破してくれ。』
無線機を通じた誠一との交信が終わった。
「レッツゴー!ルーキー、行くよ!」
隣にいた由莉が先に歩き出す。彼女は銃身の長い、スコープを乗せたライフルを持っていた。
「由莉はどんな役割なの?やっぱりスナイパー?」
小走りで追いつき、隣に並んだ詩音が訪ねる。
「まあそんなとこ。でもそんなに当たらないから、少し離れて狙う感じかなー。」
「じゃあ、私が前に出た方がいいのかな。」
「装備からするとその方がいいけど、初めてだから隣に居ればいいよ。」
「うん。それと、その銃なんて名前なの?」
「急だね。M 14だよ。まぁ元のを短くしたやつだから正確には違うかもだけど、あたしはこう呼んでるよ。」
彼女は、詩音に銃をよく見せた。
「鍵は空いてるから中に入れるんだよねー。」
呑気に街の説明をして、民家のドアを軽く蹴っている由莉。一方詩音は89式を腰の位置で構え、周囲を警戒している。その表情は硬い。
「よく平気でいられるね。これから戦いになるのに。」
「まあねー。慣れだよ、慣れ。それに、来る時は分かるし。」
静かな街では、靴音も話し声も、装備の立てる音でさえも大きく聴こえる。
「そうなの?」
「うんそう。……………来た。」
突然由莉の声色が変わり、緊張が走る。
「なにこれ…………寒気が…………」
風も無いのに、内側から冷えるような寒さを感じ、詩音は片手で肩を摩った。呼吸が微かに乱れる。
「奴の瘴気。普通の人なら動けなくなる。」
由莉は腰を落とし、前方にM 14の銃口を向けて、T字路を睨む。
「あの道かな。一旦やり過ごして奇襲しよう。」
彼女は既に居場所を突き止めたらしく、後ろに下がった。詩音も彼女に従って後退し、ブロック塀の影にしゃがみ込む。後から由莉もそこに来た。塀から、そっと顔を覗かせる2人。
そしてすぐ、魔物は現れた。彼女の言った通り、前方の路地からゆっくりと道を歩いて来た。それは赤い派手な着物を着た女性の姿をしていた。遠くてよく見えないが、手には刃物を持っているようだ。一見コスプレと捉える事もできるが、彼女からは表現し難い異質な雰囲気が溢れ出ていた。それゆえ、彼女が魔物であると詩音は本能的に理解した。
「あれが……魔物………報告しないと…」
詩音は無線機を触る。しかし由莉に止められた。
「音でバレるかも知れない。報告は後。」
魔物が2人に気付いた様子は無い。だが、2人は息を殺し、通り過ぎるのを待つ。長い様で短い時間が過ぎる。そして、
「行こう!」
由莉が立ち上がり、音を立てないようにしつつも、素早く道路を渡る。その後に詩音が続く。住宅の柵を乗り越え、最短距離で魔物が現れた路地へと走る。
「この先、いるよ。」
先行していた彼女止まり、が詩音を手で制する。
「セーフティーは?」
「あ、解除したよ。」
「コッキングは?」
「コッキング?」
「そこのレバー。引いた?」
「うん。引いた。」
詩音の銃が発射可能かを確かめる。
「3、2、1で撃つよ。3、2、1…………」
2人は同時に飛び出し、道の先にいる魔物を捕らえた。無防備なその背中を狙う。
「食らえ!」
先に撃ったのは由莉だった。膝立ちになり、スコープで照準を合わせ、一定の間隔で弾を送り込む。大口径ライフルの強烈な発砲から少し遅れて、詩音も攻撃する。肩にくる反動に耐えながら単発で、照準を少しずつずらし胴体に風穴を量産する。赤い着物の女の身体が着弾の激しく衝撃で揺れる。
そして、銃声は途絶えた。弾切れだ。
「どう?やれたの?」
「わかんない。とりあえずリロードしといて。」
すぐに由莉はマガジンを下に落とし、ポケットから予備を取り出して銃に挿入する。詩音もリロードするが操作に慣れず、少し時間がかかった。一連の操作を終え、装填用のレバーを引いた時、
「避けて!!」
由莉の叫び声が聞こえ、着物の女が高速で突進してくるのが見えた。顔は白い仮面で隠され、その体は僅かに浮遊していた。
「っ!!」
詩音はセレクターを指で回転させ、フルオートで発砲する。由莉もストックを脇に挟み、連射で応戦する。着弾はしている。しかしすぐに間合いを詰められ、詩音の身体に衝撃がぶち当たる。
「詩音!!」
「っ……離…して……っ!!」
後ろに倒れて背中を打ち付けた痛みよりも、迫り来る恐怖が彼女を包んだ。完全に押さえ込まれ、身動きが取れない。彼女は必死に蹴り上げ用とするが、体勢が悪くダメージにならない。女は詩音のの首筋に何度も短刀を突き立てようとして来る。辛うじてそれを銃身で防ぐが、長くはもたないだろう。
「コイツっ!!」
由莉が彼女を助け出そうと発砲し、銃声が聞こえた。弾は女の身体を貫通しているが、まるで効果が無い。
「友達から……離れろ!!」
やがて由莉は助走をつけ、思い切り銃のストックで女を殴った。鈍い音と共に側頭部を強打された女は詩音の上から転げ落ちた。
「詩音!大丈夫!?」
「うん……なんとか……」
体勢を立て直し、由莉と詩音を睨んで逆手に持った短刀を振り上げる女。唾を飲み込み、照準を定める詩音。
「コイツを食らいな!」
しかし、最初に動いたの由莉だった。
由莉が右手を前に突き出すと、突然女の身体に火が付いた。ガスバーナーのごとく付いた火は、やがて火柱となって女の身体を包む。
「ーーーーーーーー!!」
耳障りな甲高い悲鳴を上げ、彼女は空中を泳ぐ魚の様に暴れる。その間も炎は激しく燃え続け、辺りに焦げた臭いが広がる。
「この炎は…………」
呆気に取られ、呆然とする詩音。
「まあ、必殺技ってとこだね。私の。」
「由莉の!?すごい………」
「でしょ?戦いを経験するとこういう事が出来る様になるんだよね。レベルアップ見たいなモンだよ。」
由莉は得意げに説明した。
「ーーーーー!!」
やがて女は一際大きな声を上げて地面に落ちた。
「地獄を楽しみな!お嬢さん!」
由莉は悪い笑みを浮かべ、茶色く焼け焦げた女の亡骸に中指を立てた。
「消えた………………」
その直後、2人の見ている前でその亡骸は消滅した。細かい光の粒の様な物になり、文字通りに消えたのだ。詩音達を包んでいた寒気も、消えていた。
「奴らは魔力の塊みたいなモン。殺すと消えるんだよ。」
「倒す基準とかあるの?銃は効かなかったみたいだけど…………」
「分かんない。今の所は死ぬまでやり続けるしか無いかな。」
「あ、誠一さんに報告しないと。」
「報告は平気だよ。多分監視カメラに写ってるだろうし、倒したからね。」
由莉は銃を肩に担ぎ、帰路に着こうとしている。
「それじゃ、帰ろっか。」
先に由莉が歩き出す。
「ええ、そうしよ。」
詩音もそれに続く。
「よくやったルーキー!今夜はお祝いだ!」突然詩音の肩に腕を回した由莉。その顔はとてもいい笑顔だ。
「あ、誠一さんの奢りね。」
「誠一さん、良いって言うかな………」
彼女の提案に詩音は苦笑で返事をした。
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