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着任した少女、新川詩音

新作です。どうぞお楽しみください。

「では、名前と年齢を教えてくれるかな?」

「新川詩音。17歳です。」

彼女は、目の前にいるカーキ色の軍服を着た中年の男性の質問に答えた。紳士という言葉が似合うような人物だ。

「なぜここに居るか、解るかい?」

「えっと、学校であった試験で、瘴気への耐性が認められたから……?」

2つ目の質問。応答の後半は少し不安だった。

「その通り。では、続きは地下でしようか。」

そう言って彼は歩きだし、詩音もその後に続く。2人は、建物の廊下にいる。タイルの貼られた無機質な廊下を真っ直ぐ進み、エレベーターに突き当たる。ちょうど止まっていたので、エレベーターはすぐに降下を開始する。動作音と微弱な重力を感じる中、質問が続けられる。

「我々の目的は?」

「敵である、魔物の撃破。」

「どこで戦う?」

「戦闘区域。私達のは………えっと、国営第3戦闘区域?」

「惜しい。第3国営、だ。まあ上出来だな。」

淡々とした応答を続け、丁度エレベーターから出るタイミングで質問は終わった。そして

「ようこそ、魔物対策本部へ。私は君の上官、浅風誠一だ。」

彼は、詩音に左手を差し出した。


「約20年前から、未知の力、そして未知の生物による攻撃が確認されている。人類はその力を魔法、その生物を魔物と呼称し、研究と対策を続けて来た。ここまで大丈夫か?」

「はい。大丈夫です。」

2人は施設内の小さな部屋に移動し、詩音は誠一から説明を受けていた。ホワイトボードや机と椅子がある部屋だ。彼女は渡された資料を見ながら所々にメモを取っていた。

「受験勉強じゃ無いんだから、そんなにやらなくて平気だよ。」

彼は、あまりにも真剣な彼女の様子を見て笑った。

「はい。でも、性格的なものだと思います。」

詩音はそれに苦笑で応じる。ここに来てから緊張を保ったままだったが、少し解けた気がする。

「続けるぞ?普通の人間は魔物の近くでは瘴気に侵されて行動する事が出来ない。しかし、一部の魔力を持つ人間、魔道士はそれが可能だ。」

「私と誠一さんみたいにですか?」

「その通りだ。そしてそれが出来る人間は少数派だ。という訳で、君にはすぐ戦闘に参加してもらう事になる。それでも構わないかね?」

この質問は、最後の確認を意味していた。事実上の契約だ。しかし、既に彼女の答えは決まっている。

「はい。それが私にできる事なら。」

詩音は決意を込め、強く頷いた。

「わかった。改めてよろしく頼む。さて、次は武器を選びに行くぞ。」

「武器………剣とかですか?」

「残念だが違うな。これから君が扱うのは銃火器だ。さあ、ついて来てくれ。」


2人はその部屋、ミーティングルームから少し歩き、頑丈な鉄の扉を開けて武器庫に入った。そこには、所狭しと様々な銃火器が並べられたり壁に架けられていた。マニアなら泣いて喜ぶ空間だろう。

「さあ、好きなのを選んでいいぞ。」

誠一は鉄や油、火薬の匂いが漂う武器庫の端に移動し、詩音に道を譲った。彼女は棚の上の拳銃や、床に置かれた機関銃、棚に立て掛けられた自動小銃を物珍しそうに眺めた。日本では、ほぼ有り得ない光景だ。

「えっと、私鉄砲詳しく無いのでどれを選べば良いのか…………」

5分ほど見て回ってから、誠一に話しかけた。それもそうだ。銃なんて映画や漫画で少し見た程度だった。

「そうか。まあ、それが普通の反応だな。…………。となるとこの辺か…………。」

誠一は武器庫内を歩き、『5.56』と書かれた棚に近づく。

「初めてだし、オーソドックスな小口径モデルから試すといい。」

数本置かれた自動小銃の中から、1丁選んで詩音に渡した。

「89式小銃。国産のアサルトライフルだ。」

「89式…………」

彼女は手渡されたそれをマジマジと眺め、金属の重さを感じたり、装着された二脚を手で触ったり、している。

「日本人向けに作られているから、アメリカ製より扱い易いと思うのだが………」

「はい。これにします。」

銃を大事そうに抱え、返事をした。


「どうだ?そろそろ慣れた頃か?」

「はい。でも、まだ時間がかかりそうです。」

誠一が声をかけ、詩音はイヤーマフを外して振り向いた。2人は施設内の射撃場に移動していた。彼女はそこで射撃の練習をしていた。衝立のある机、その先は砂場で人型の的がいくつも設置してある。休憩を入れてかれこれ1時間、なんとなくコツが掴めて来た。的の真ん中を射抜くには、まだ時間がかかりそうだが。

「操作は覚えたか?」

「はい。これがセミオート、こうするとフルオート、これが3点バーストで、こっちが安全。」

彼女はセレクターを回しながら答える。その間、銃口は的に向けたままだ。

「反動には慣れたか?」

「えっと、もう少し時間が掛かります。」

試しに、と詩音は数発撃って見せた。二脚を使っても、銃身が大きく動いてしまう。

「初めてにしては上出来だ。さて、今日はもうやめにするかな。やり過ぎもよく無い。」

彼女の上達を確認した誠一は頷いた。詩音も最後の弾を撃ち切り、弾倉を抜いて安全装置をかけて立ち去ろうとする。その時、

「詩音!?なんでここに!?」

出口から大きな声が聞こえた。

そこには、ラフな格好をした彼女と同年代で、ショートヘアの少女が驚きの表情で立っていた。

「由莉こそ、どうしてここに?」

叫びはしなかったものの、彼女もかなり驚いた様子だ。


「バーもあるんですね、ここ。」

「ああ。他にも売店やシャワールームも完備しているぞ。」

「しっかし、期待のルーキーが詩音だなんてね〜。洗礼はまだかな?」

3人は、施設内のバーへと移動した。何処からか静かな音楽の流れる、そこまで広く無い店内のテーブル席に座っている。3人はそれぞれ飲み物、詩音と由莉はジュースを、誠一も酒を飲むわけにはいかずに、コーラを注文した。

「2人は随分と仲が良いみたいだな。」

「はい。中学の時からの友達なんです。」

「そのとーりっ。高校は別になったけどねー。」

互いの関係を話していると、テーブルに飲み物が運ばれて来た。氷と液体の入った透明なグラスの表面には、宝石のような水滴がついている。

「由莉は、ここに来てどれくらいなの?」

「アレは去年の秋だったかな……。学校で瘴気耐性試験があってからだね。」

思い出しながら話す由莉。

「私もそれ。2週間くらい前、保健室で受けたの。」

「瘴気に耐え、戦える人材が足りないからな。全国を回って探しているんだよ。年齢、職種に関わらずにね。」

「どれくらいいるんですか?その、戦える人は。」

「まだ100人も居ないんじゃ無いかな?分かんないけど。」

曖昧に由莉が答える。

「全国は知らないが、ここには現在5人いるな。君を含めて。」

君とは勿論詩音の事だ。

「そんなに少ないんですか?」


「さて、それでは新人着任を祝って乾杯といこうか。」

誠一がグラスを掲げる。

「乾杯。」

「かんぱーいっ!」

コチン、と高い音が静かな店内に響いた。

ありがとうございました。不定期更新ですので、気長にお待ち下さい。

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