〜加齢臭を添えて〜
はじめまして、名嘉山雅稀と申します。
初めて文を書くので、アドバイス等を頂けたらとても嬉しいです。
すみませんが、よろしくお願い致します。
「イケメンにすまきにされるのカ・イ・カんなぁわけねぇ!」
飛び起きて辺りを見回す。
「俺の部屋?」
やはり夢を見ていたのか。
ベットの近くに置いてある時計をつかみ、ゆっくり顔に近づける。
「まだ7時か」
のそのそとベットから這い出て、いままで温めてくれた毛布を尻で潰した。
手探りで近くのテーブルに置いてあるメガネを探す。
あった。
メガネをかけると、軽く伸びをして立ち上がった。
ベット上の窓をカラカラと開ける。
大きく深呼吸をすると、朝の澄んだ空気が身体中を巡る。
何て気分のいい日なんだ。
フフフフ。
「ハハハ」
「アハハ」
「にょほー!」
思わず声が漏れた。
外を歩く真面目そうな女子高校生は、一瞬だけ俺を見上げると足早にかけていき、近所に住む小学生は親を呼んで来た。
お約束の見ちゃダメよセリフを頂いた俺は、我に返り窓を閉めた。
俺の家は東京の外れにある二階建て一軒家。
親父が35年ローンで建てた新築だ。
そこの二階に住む俺は、朝から上機嫌だった。
フフ。
笑いが止まらない。俺に特別な能力っ! ムフフフ。
俺の名前は鈴木陸。
ごく普通の高校生……だと思うのだが、周囲が言うには、モテない、空気読めない、冴えないのナイナイ三拍子揃った逸材だそうだ。
ま、まあ、どうでもいいが。
俺の価値は、俺だけが知っていればいい……の……さ。
今日は創立記念日だったため、いつもの様にひきこもっていた。
だが今日という日は、昨日までとは全く異なるのだ!
フフフンッ!
俺が、選ばれし者気分を味わっているのは、昨日の夢のせいだ。
詳細を思い出してみる。
部屋の中でゴロゴロしている俺。
あぁ、これ夢だなと思いつつも、リアルとさほど変わらずまどろんでいた。
「もう、夢の中だけでもいいからリア充したいな」
ため息をつき、寝返りをうつ。
「ん?」
目の前にニコニコした銀髪のイケメンが居る。
あれ? ここ俺の家で、俺のベットだよな?
頭が軽く混乱してきた。
ほっぺをつねってみる。
「痛くない……」
イケメンがクスクスと笑う。
「夢の中だからですよ」
状況が飲み込めないまま、長年使っていない頭をフル回転させる。
リア充は、リア充でも……。
「そっち方向じゃない!」
「どっちの方向でもモテないから大丈夫です」
「あ、はあ。良かったです」
ほっと胸を撫で下ろした。
そっか。そうだよな。
いくら夢でも、俺がイケメンをお持ち帰りなんて無理だよな。
持ち帰りたい訳じゃないが。
ん? あれ?
「今、結構ひど」
「失礼、自己紹介をしてもいいですか?」
イケメンさんはベッドから這い出ると、俺の答えを聞く前に話はじめた。
「私、神様でございます」
「今の姿はイケメンバージョンです。他にも金髪美女から燻し銀の中年男性等、バリエーション豊富に取り揃えております」
「えっ! 金髪美女!?」
自称神様のイケメンさんは、なぜか笑顔で首を傾げている。
「自己紹介ではなくて、そっちに食いつくんですね」
あぁ。言われてみれば確かに。
サラサラの銀髪にシミ一つない肌だからか、なんとなく神様と言われてしっくりきてしまった。
まあ、夢の中だし。
「伊達にナイナイ三拍子では無いという訳ですか」
「な! なぜその事を!」
さ、さすが神様だと驚愕したが、ここで俺の錆付いていた頭が回りだす。
信じてないふりしたら、金髪美女に変身してくれるんじゃね?
俺は人生最高のドヤ顔をしながら言った。
「まだそれだけじゃ信じら」
「分かりました。一応信じて貰えないとコッチも困りますから、ご希望にお応えして変身しますよ」
心が読めるのか……だが、話は最後まで聞いてもらいたい。
けど、まあ結果オーライだな!
ドキドキドキドキ。
心臓が俺の身体から家出するかと思うほど、激しく飛び上がっている。
はひ、舞い上がってまふ! だって俺の部屋に金髪美女だせ。
本物の金髪美女じゃないし、夢の中だけど。
「よぼやぐ夢ががなう」
涙が止まらなかった。
なぜ泣いているか自分でも分からないが、負け犬の涙である事は間違いなかった。
「では変身します」
泣いている俺に一切ふれずに、淡々と進める自称神様。
そちらの方が傷つけない事を知っているのか、はたまた俺に一ミリの興味もないのか。
考えるまでもなく、答えは明白だ。
俺の頭は下がり、涙の流れるスピードは加速していく。
「もう頭を上げてもいいですよ」
優しい声が頭上から聞こえた。
ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ。
さっきまでの声と明らかに違う。綺麗な女性の声。
やー、これ声だけで分かる! 美人……金髪美女だ!!
ゆっくり顔を上げていく。女性の足元が目に入った。ちんまりして可愛いな。
目線を上げる。
細くてキレイなふくらはぎに……ふとももっ!
ばふっ!
思わず変な呼吸音を出してしまった。
黒いミニスカートを超えると、ほっそいウエストが目の前に。
ウエストが俺の首周りと同じサイズじゃと思うほど、ほっせー!
そして……待ってました!
あ、あ、あ、アメェリカンサイズゥゥゥゥゥ!
右にボォン……左にもボンッ。
もう好きだ! 結婚したい!!
さらに目線を上に写し、金髪美女と目が合った瞬間に、俺の意識は途切れてしまっ……。
「ホィイイ!」
ガスっ! 頭に激痛が走る。
思いっきり殴られた……?
てか、ホィイイって何? かけごえ?
「今、気絶されると、まずいんですよ」
「そろそろシフト終わるし」
「はいぃ? シフト? ……ってバイトかっ!」
「そうですよ。私はアルバイトの神様です」
「はぁぁぁ!? 神様がアルバイトって」
「そんな事より本題に入っていいですか?」
言い終わりかけたのに。あともう少しなのに……。
恨めしくバイト神様を見る。
んん? 金髪美……男?
「あぁ。いちいち気絶されると話も出来ないので」
んぐぐ。悔しいが正論。
しかし、こっちもかなりイケメンだな。
さっきと違い細マッチョワイルド系だが。
黒のタンクトップから飛び出ている筋肉が、なんともセクシーだ。
「まず結論から申し上げます」
「あなたには特別な能力があります」
「へ?」
いきなり漫画みたいな事を言いだすバイト神様に、俺はすっとんきょんな声しか出せなかった。
「ちょっと待った! そんな馬鹿な話が」
「その能力というのが、守護霊の」
「ちょい待ちー!!」
「いや今、俺信じて無いんだけど……そこでもう能力の説明しちゃう? マジ?」
「チッ」
「えっ! 舌打ち? えっ! 俺が悪いの?」
「こういう事もあろうと思って、いつも使用しているアイテムを持ってきました」
何やらバックをガサガサと探っている。
「おぉ。さすがバイト神様。信じざるをえない凄い神アイテムが……んぐぅ」
何だ! 口を何かベタベタしたもので塞がれた。
まさか、ガムテープ!?
あっという間に全身をガムテープですまきにされる。
バイト神様……手慣れてるな。
「んっグググ(あ、これやばいやつだ)」
「その能力というのが守護霊様の力をお借り出来る力なんです」
「んぐぅググ(普通に話し続けてるし!)」
「まぁ。落ち着いてください。一から説明させてもらいます」
「ンンンー(この状況落ち着けるか! まずコレはがせ!)」
「少し長くなるのでリラックスしてもいいですよ」
「グググッグー(俺の話を聞いてくれー!)」
……バイト神様の話はかなり長かった。
話によると、どうも俺には守護霊の持っている特技や才能を借りる能力があるらしい。
バイト神様は、ときおりガムテープを出したバックからお菓子を出して食べたり、スマホをポチポチしながら話していた。
バイト神様の話をまとめるとこうだ。
実は生きとし生けるものは、みんな自分の守護霊に護ってもらっている。
そして守護霊とシンクロすると、能力を借りる事が出来るのだ。
だが、普通の人間はいざという時か、なんとなくしかシンクロ出来ない。
火事場の馬鹿力や、ビギナーズラックはそういう事だ。
つまり普通の人間は、守護霊とシンクロする方法がわからない。
だがしかし、俺には守護霊と100%シンクロ出来る能力がある!
言わずもながだが、これはとても便利な能力である。
守護霊が土方歳三なら、剣道で名を馳せる事が出来る。
ゴッホなら芸術家として引く手あまただ。
胡散臭い話だが、信じざるをえない。
信じたい!
ハハハハハ!
この能力があれば人生勝ち組確定!
努力なんて凡人がする事をしなくてもいいんだ!
あぁ。バイトじゃない方の神様ありがとうございます。
昨日の夢を見るまで気づかなかった。
俺の眠っていた非凡な能力を!
フフフ。
もったいぶるのは、悪い癖だな。
じゃあ、今朝考えた決め台詞と共に使ってみるかな。
繰り返しになるが、俺は今まで生きてきた15年で1番ワクワクしていた。
小学生の頃の遠足よりも。
バレンタインに幼馴染のかよちゃんにいたずらで唐辛子チョコを貰った時よりもだ!
ちくしょう。でも好きだぜ。
今日までの僕よ! ありがとう。
そしてさよならだ!
「さあ! いまこそ目覚めたまえ! 我は時代の寵児なり! 眠りし、我が力を解き放てっ!」
……。
えっと、確か能力を使うには……。
鼻に右手人差し指をあてて、左手は額にか。
そして呪文は……。
「守〜護〜霊〜様〜!! か〜してっ!!」
…………。
あれ? 何も起こらない。
仕方ないもう一度。
確か、子供が友達を遊びに誘う感じて。
あの夏休みの日を思い出せ、俺!
「守〜護〜霊〜様〜!! か〜してっ!!」
ま、まま、まぁ、初めて使うしね。
とりあえず水でも飲んで落ち着こうかな。
部屋の扉を開けて、階段を一段ずつ踏みしめて降りる。
いつもと変わらない降り具合。
キッチンで洗いたてのコップを取り、蛇口をひねる。
キュッキュッ、ジャー。
勢いよく流れてく水をコップにくみ、口に運ぶ。
ごく、ごく、ごく。
んっ! ふ、普通だ。
「ちょっ、ヤダー! 全部普通なんですけどー! な、何故だ。ここまでいつも通りなんて」
…………まさか。
途中から気づいていた。
でも考えないようにしていたんだ。
「ただのいい夢?」
「そんな……バナナ」
「お兄ちゃんどうしたの?」
現実逃避をしている間に、妹のマリが帰ってきたようだ。
「いや、何でもないんだ、何でも」
「顔色悪いよ? 大丈夫? マリ心配だよ」
何ていい子なんだろう。
成績優秀、優しく素直な美少女中学生が中二病をこじらせている奴の妹なんて……とよく言われるが実はそうではない。
「お前言ってる事と顔があってないぞ」
「ゴミを見る様な目をやめてくれ…。罵ってくれた方がましだ」
「あはは。何言ってるの。お兄ちゃん。(うるせえ)」
目は口ほどに語るとはこの事だな。
相変わらずの腹黒妹だ。
「お前はツンデレじゃなくて、デレグロだな」
「やだぁ、やめてぇよぉ! (黙れ!カスっ!)」
テレパシー並に正確に伝わる敵意に耐えきれず、自分の部屋に戻る。
「はぁぁぁぁぁ」
ベットに背中から勢いよく飛び込むと、天井のしみと目があった。
本日の議題。兄の威厳とは。
結論、そんなものねぇ! ふんっ! 寝返りをうつ。
ん? 目の前に見慣れない顔が転がっている。
「うわぁ! またかよ」
飛び起きた俺の目に写っていたのはイケメンでも、金髪美女でも無く、スーツ姿のおっさんだった。
「え、どこから入った……んですか? てか、誰ですか?」
「よ。話すのは始めてだな」
え? 誰? てか知り合い? 親戚?
「親戚……みたいなもんかな?」
は? みたいなもんって何だ?てか!
俺、声に出してない……。
「あ、声に出さなくても聞こえるから大丈夫」
「私、お前の守護霊だから」
は? え?
「呼び出しただろ?さっき」
……。
………。
「よしきた! 正夢きた! 俺の時代きたぁぁぁぁぁ!」
しばしの間、部屋中を飛び回る俺。
真顔で俺を見つめるおっさんの図がそこにはあった。
我に返りおっさんの前に正座する。
「もう出てこないかと思いましたよ」
少し責めるニュアンスをこめる。
おっさんは、真顔から徐々に頬を極限まで膨らまして、一気に放出した。
「ぶははははははは。いや、見てたんだが。はははは」
全身をあらぬ方向に曲げながらひとしきり笑うと、ピタリと止まり俺を見る。
「守護霊〜。か〜し〜て〜だって! 小学生かっ!」
何がツボに入ったのか分からないが、ゲハゲハ笑うとむせた様でしばらく咳こんでいた。
「ごほ、ごほ、わるいな……。真剣なとこ笑ってぶはぁ」
「呼び出す呪文なんですよね。何でそんなに笑ってるんですか?」
肩を震わせながら笑うおっさんを、じっとりと睨む。
「呪文? え…あ、あぁ。そんな呪文だったな、そうだ! そうだ!」
妙に慌てた様子のおっさんが、俺の肩に手を回す。
「そんな事より、早速だが大事な話があるんだ」
「な、なんですか? お金なら貸しませんよ!」
「何でそうなるんだよ。違うよ、救ってほしいんだ」
さっきまでにやけていた顔が、急に引き締まる。
「お前が住んでいる。この東京都をな」
読んでくれてありがとうございました。
また続きを書きますので、読んで頂けると嬉しいです。