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扉を開けて

「リーディエナの花の刺繍だろう?」


 私を含めた、その場にいる全員が声を上げた。


「はっ?」

「え?」

「……まあ」

「チッ」


 ん?驚きの声の中に、何だか舌打ちが混ざったような気がしたが、まあいいや。それよりも今イービス殿下が言った台詞についてもう一度考えなければいけない。


「だから、リーディエナだよね」


 大事なことなので二度言いました。はい、聞きました。って、マジかぁ。

 でも待て、リーディエナの花は、摘み取ったその瞬間から劣化が始まるので生花が出回らない。その上ボスバ領は徹底したよそ者排除主義で、トラザイド王国の人間であろうともそう簡単に入ることが出来ないって、ヨゼフが言ってたよね。

 何で、イービス殿下はこの花がリーディエナだと知っているのだろうか?


 私の疑問は思いっきり顔に出ていたのだろう。それに応えるようにイービス殿下が言葉を続けてくれた。


「半年前にアクィラ兄上がボスバ領へ行く時に、俺もくっついていったんだよね。ちょうどリーディエナの花の最盛期でさ、これがあのリーディエナかってじっくり見てきたから間違いないよ」


 そうか、アクィラ殿下は言葉も知っているし、今回だって急な話とかで出かけるくらいだから、ボスバとリーディエナ関連で直接応対するのは殿下の仕事なのだろう。

 その排他的なボスバ領に食い込んで、今では香水だけでなく花のお茶も新しい商品として製品化されているらしいので、殿下のその手腕のお見事なことに感動する。


「半年前って……イービスお兄様、病気で十日ほど顔をみせないことがありましたけど……まさか」

「あ、そうそう。黙ってついてっちゃったんだよね。あの時は随従の人数も今回よりは多く同行してたから、変装して騎士たちに混じってこっそりと。まあ結局カリーゴにバレたんで、兄上にめちゃくちゃ怒られたけど、連れて行ってもらえた」


 てへっと舌を出す姿を見て思った。こりゃあ、イービス殿下とミヨ、師弟共に同じタイプだと。その時に騎士たちを上手くごまかせたことで調子にのっちゃったかな。

 全くもう、と半分呆れたような声を出すアウローラ殿下の言葉に大きく頷く。本当に、全くもう、だ。


 けれどもこの花がイービス殿下の言う通り、本当にリーディエナだというのならば、私は一体どこで知ったんだろうか?

 ボスバ語を習っていた記憶は、ヨゼフのお菓子を横取りしたという思い出と共に思いだしたけれども、ボスバ領へ行ったことがあるとは思えない。王族であるイービス殿下でさえ無理矢理ついて行かなければ、そうそう行ける場所ではないと、たった今話したばかりではないか。


 どこで?それとも誰に?記憶の扉がどこかにないだろうかと必死で探す。

 こめかみをトントンと軽く指で叩きながら考えていると、視界の隅に少し難しい顔をしたカリーゴ様の姿が入った。


 リーディエナの花、刺繍。刺繍、リーディエナの花。

 リーディエナの花、刺繍、テーブルクロス、アクィラ殿下。テーブルクロス……


 ううん?ん?テーブルクロス……テーブルクロス……あっ!


 待った、待ったぁあ!そんなことよりも、テーブルクロスだ。あのテーブルクロスは今どこにある?

 そうだ、アクィラ殿下が結婚式用のアクセサリー一式の担保にと持っていったじゃないか!


 担保がないと言う私に向かい、そんなことはないと言って剥ぎ取った。

 その上、花の刺繍部分へ、ちゅっ、てキス……うわぁあああ、あれ絶対に、あの刺繍がリーディエナだってわかっててやったよね。


 なんといってもアクィラ殿下がほぼお一人でボスバ領を担当しているようだし、そんな彼がリーディエナを見間違えるわけがない。

 これって、これって、もしかして?頭の中を整理するために、ごくりと唾を飲み込んだ。


 考えられることは二つ。一つは、何故かリーディエナの花を知っていた私の刺繍を、他の人目に付く前に撤収した。この場合、知っていた理由はとりあえず放っておく。大事なのはリーディエナの希少価値を守るために人目につかなくすることだから。


 そして、もう一つの場合。これは、その……あの私へ向けた態度から察するに、まさかとも思いづらい。

 だって私は、子供の頃にアクィラ殿下とリリコットが出会った記憶も思い出した。

 あの時私が名前を教えた後で、何があったのかはまだ思い出せていない。けれどもあれから何かはあったのだ。


 胸の奥がきゅうっと締め付けられる気がした。でも、全然嫌な気持ちじゃない。くすぐったいような、こそばゆいような、なんだかとても愛おしい痛みがそこにあるのを感じる。


 私にリーディエナの花を教えてくれたのが、アクィラ殿下だという事実――


 きっと、それに間違いはない。

活動報告に書いた予定よりも早いですが、「転生公女は今さら傷つかない~ご使用中のドアマットは不良品でございます~」の今年の更新分はこれで終わりになります。

ちょっと思っていたより忙しくなってしまったのと、キリがいいところなのでここで一息入れさせて下さい。


新年は6日より更新の予定となります。

来年もどうぞよろしくお付き合いくださいませ。


それでは、よいお年を~♪


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