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勘弁してくれよ!

「失礼します。本日のご予定は、午後からアウローラ殿下とイービス殿下とのお約束のお茶会とのことですね。他には何かございますでしょうか」


 そう強く叩いているわけでもないのに、しっかりと聞こえるようなノックはカリーゴ様らしい。私の返事に応えるように入室してきた彼は、テーブル横に近づくと今日の予定の確認をとった。


 いつもよりも派手に結い上げられた金色の髪は、宝石のちりばめられた新しい髪飾りとよく似あっている。それに負けないようにと、きっちりのせた白粉に唇の赤が映えていた。ドレスにしても、先日ルカリーオ商会が持ってきた最新のとやらで、燃えるように真っ赤な色にゴージャスな花の飾りが付いているものだ。これこそいかにも噂通りのザ・悪公女と呼んでいいような装いに、カリーゴ様の頬がピクリと動くのがわかった。


 うん、派手だもんねー。今さら何でこんなド派手な格好をするのかと聞きたいんだろうな。


 実際、私はここトラザイド王国へ来てからというもの、完全武装のように着飾ったことは、アクィラ殿下との初めての晩餐と、歓迎のパーティーくらいしかない。あ、多分最初の挨拶の時は着飾っていたとは思うがそれは私の知らないところなのでノーカンで。

 それでもここまで派手派手しくはなかっただろうから、カリーゴ様の今さら何?って気持ちはわかる。最近の私の様子を見ていれば、あまり派手好みでないのは知っているはずだ。


 ただ王太子の婚約者に対して、流石にそこまで口を出すのは差し出がましいと考えたのだろう。その地味な顔に若干の不快感をのせながら、もう一度「よろしいでしょうか」と確認の言葉を絞り出し、その顔を白粉の香り漂う方向へと向けた。そして――


「は?」

「うえーい、いいですよぉ。予定ばっちしですー」


 そう答えてふんぞり返る、私のような髪と化粧、そしてドレスに身を包んだミヨの顔を見て、すっとんきょうな声を上げた。


「……申し訳ありません、カリーゴ様」


 騙したい訳じゃなかったんですけどね、結果そうなったというべきか……その、本当に申し訳ない。


 ミヨはたった今まで座っていた椅子から立ち上がり、代わりに私をそこへ座らせた。その横に立ったカリーゴ様はまだ少し呆けたような顔をして私とミヨの姿を見比べていた。


 後ろで一つにまとめた黒髪のカツラに、お仕着せの紺色のメイド服にエプロンといった姿の私がそう謝ると、ちょっとぶしつけなくらいの視線で上から下まで見分する。

 今日の私の化粧といえば、ちょっと色の濃い色の白粉に下がり目にかかれた眉、目元もアイライナーの引き方で随分とタレ目になっていた。さらには鼻から頬にかけてそばかすまで描き上げる念の入れようで、まるで別人に成り代わっていた。


 同じように作り上げた『悪公女』姿のミヨも見事なもので、これならよく知らない人間なら間違いなく気が付かないと言ってもいい出来だった。


「あー……しかし、まあ上手いものです。一瞬でも騙されたのは悔しいですが」


 なんとも口惜しさをにじみ出しつつそんな言葉を口にしたカリーゴ様の様子を見てミヨは、むふふーんと鼻を鳴らしながら大変機嫌が良さそうだ。

 ミヨだけでなく私もミヨに似たメイドの格好をしていたのだから、そりゃあ気がつかないわ。しかしそれでもカリーゴ様ならば顔をちゃんと見ていればもっと早くにわかっただろう。


「私とミヨでは瞳の色が違いますから、きっとすぐに気がつかれたと思いますよ」


 そうフォローしておく。

 カツラと化粧のお陰でパッと見はわからないかもしれないが、青い瞳の私と茶色のミヨとでは間違いようがない。カラーコンタクトなどない世界ならばどうやってもそこは変えることが出来ないからね。


「まあ、そーゆー薬品を使えばぁ、出来ないこともないんですけどー、失明とか嫌ですしぃ今回は止めときましたあ」


 なんか怖いこと言った。いやそこは今回に限らず、ずっと、一生止めとこうよ。

 ルカリーオ商会の取り扱い商品のヤバさを再認識しつつ、とりあえず目薬を渡されたらまず使う前に確認しようと心に決めた。


 そこでちらりとカリーゴ様に目をやると、懐中時計に目を向けている。おっと、部屋の中の置時計もお昼まであと三十分といったところを指していたのに気がつく。

 午後からはアウローラ殿下の部屋に行かなければならないし、そろそろこのお遊びも片づけた方がいいだろう。


「じゃあ、もうすぐ昼になることだし、この入れ替わりも終了ね。ミヨ、着替えましょうか」

「え、やですよぉ。私の可愛いお弟子さんに、見せるんですもーん」


 んんんん?お弟子さんって、ああそれはイービス殿下ってのはわかる。

 わかるが、他がちょっと何言ってるのかわからないんですが?


 てか、ふざけてないで仕事しようか。いくらハンナがいないからといって、それはダメだろう。

 そう少しイラついている私に向かって、ミヨはにっこりと優雅に、『悪公女』っぽい笑顔をたたえながらこう言い放った。


「じゃあ、配膳室からお昼を持ってきてください。ね、侍女のリリさん」

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― 新着の感想 ―
[一言] ミオが近頃欲望に忠実過ぎてイラッとする。 命令無視に職務放棄、仕えてる人を顎で使うって、何様ですか? お金貸してるからって雇用契約の上下は入れ替わらないよね、いくらブラックな職場でもやって良…
[良い点] 主人公の記憶喪失と世界のふわふわ感がうまくかみ合っていて、少しずつもたらされる情報に、ワクワクドキドキしながら読んでいます。 [気になる点] ミヨにはミヨの背景があるのでしょうが………、 …
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