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恋愛について本気出して考えてみた

「殿下がボスバ領からお帰りになりましたら、リーディエナのお茶でお迎えしてあげてください。その際は、勿論……公女殿下自らのお手で淹れていただければと思っています」


 そんな不意打ちのような台詞をさらっと聞かせられて、あわあわしている間にカリーゴ様はとっとと去っていってしまう。

 ぐぅう、看護師導入という真面目な話をしていたはずだったのに、何故そっちに話を持っていくかな。あんな地味な顔で、そんな気障な台詞をはかれるとは思わなかったよ。


 自慢じゃないが私は恋愛ごとに弱い。いっそ、最弱といってもいい。

 なまじ免疫がないせいか、そういった色っぽいことをさすような台詞や態度には足下がぐらぐらとした気分になってしまう。

 だからこそ、あのアクィラ殿下からのお姫様抱っこされた時も何も言えなくなってしまった。糸切り指輪をはめてもらった時も本気で落ち着かなかった。そして、自分でわかるくらい顔に熱を感じた。


 いや、人並みにラノベなんかも借りて読んでいたから、恋愛に興味がないわけじゃないし、夢がなかったわけでもない。

 むしろ、字がわかるようになり本を読みだすようになった小さい頃には、いつか王子様がと思っていた口だった。

 だって、そうじゃない。童話や昔話のなかには、自分と同じような可哀想な女の子が王子様と幸せになって終わる。それに憧れて何が悪い。


 ただそれでも、施設の外で人と深く関わることが難しくなってくると、そんな考えも段々と薄れていく。これは多分だなんて曖昧な話ではなく、絶対に育ってきた環境のせいだった。

 なにせ、生まれたばかりの時から施設育ちなのだ。小さな時はそこまで深く考えたことはなかったけど、ある程度の年齢になれば、自分の親も家族もいないという境遇が痛いほど身に染みてくる。


 特に同性の女の子たちはそういった部分では成長が早かったから、小学生に上がった辺りからすでに一線を引かれ始めていたように思う。

 親なし子、施設の子、あからさまに口にする子もいれば、遠くで笑いながら石を投げるようにぶつけてくる子だっていた。それよりも子供っぽい男の子たちは、そこまでではなかったけれど、中学に入る頃にはそれも一変する。

 思春期にかかり始めた男の子たちは、女の子よりも時に残酷だった。直接的な体の変化を口にされれば、私だって自分の身も心も守るために嫌でもバリアを張る。親や家族がいない分、一人で、強く、もっと強く、と。

 中学を卒業して、働きながら看護学校を卒業して、病院で看護師として働くようになっても、そんなふうに強がって生きてきた。


 だからこそ恋愛というもっとも濃い人間関係を作り上げることに戸惑いを感じてしまう。

 物語の出来事なら素直に感じられる願望や喜びも、現実ではどうしても一歩引いたところで見てしまうのだ。

 一人暮らしをし始めてから、二人ほど交際を申し込まれたことがあったけど、それも全部断った。

 憧れに、胸をときめかせる以上に、怖くて胸が、痛んだ。


 そう思っていたのになー……


 なんの因果か冗談なのか、この世界にこうして公女という立場で地を踏みしめることとなって、思いもかけなかったような本物の王子様と婚約者となって、さらにあろうことか、


――多分好きになりかけている。その、アクィラ殿下のことを。


「うわぁああ、どうしよう。でも、だって……だって」


 やっぱりアクィラ殿下は格好いいのだ。

 でも待って、私は自分ではイケメンが好みだとは思っていなかったのよ。むしろ、自分の境遇を全て受け止めてくれるような、見るからに優しさが顔から滲み出ている人がいいと思っていたのに、何故?


 初めて会った時、もの凄く不機嫌な顔で嫌味をぶつけてきた。その後だって、ちくちくとこちらの不備を言い連ねた。

 でもそれはメリリッサの我がままが発端だったし、正直言われても仕方がない事ばかりだった。それにリストカットの時は言い方はどうあれ、彼は『死ぬな』と言いたかったのではないだろうかと、今になって思う。


 その後は、もうお姫様抱っこから、私の刺繍したテーブルクロスにキスだの、糸切り指輪のプレゼントだの、顔が赤くなるようなことを仕掛けてきて、私のことを揺さぶるようなことばかりする。

 その上に、あの子供の頃の記憶だ。ああもう、絶対に、引きずられている。あんなの、惹かれちゃうよね、リリコットの気持ちがときめいたもん。


「はぁー、なんでアレを思い出しちゃったかなあ……」

「何か思いだされたのでしょうか、リリー様?」

「え、姫様、記憶思い出したんですかぁ?何?何ですよー?」


 小さく呟いたつもりが、ハンナとミヨにきっちりとその言葉を聞かれていたようだ。

 なんで、聞いてるのよ、と言いたかったが、どうも私はさっきカリーゴ様に送ってもらってからずっと、扉の前に突っ立ったままだったらしい。


 え、もしかして私、こんなところで自分の恋愛観をあれやこれや考えてたわけぇ?

 ぐわっ、ちょ、なにこれ、恥ずかしいっ……


 両手を頬に当てて、その場に座り込む。どうせドレスで隠れるから、もうヤンキー座りでもバレないでしょ。あー、なんだろう。このいたたまれない感じ。

 顔を赤くしながらその場をやり過ごそうとしている私に、ハンナは慌ててベッドへ連れて行こうと必死だ。ミヨに反対側の腕を肩にかけろと指示している。


 ゴメン、ちゃんと立てるから。ホント、しばらくの間だけ現実逃避させてくれないかなあ。

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