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デイトリッパー

「自分で出来ますので」


 そんなルイードくんの言うことは無視をして、受け取ったお湯とポットを使い、さっさと薬草茶を入れ始めた。


「先生、一回分、一包でよろしいですね?時間は……ああ、緑の色が濃くでれば大丈夫だと」


 袋に走り書きしてある文字を読み、さくさくと進めていく。リリコットの勉強の記憶だけは忘れなくて本当によかった。言葉がわからなかったら、本当に最悪だもんね。そんなふうに考えながら、きっちりと色が出たか薬草茶を確認する。


「熱いから気をつけて」


 そう忠告して手渡したが、やはり薬草茶は相当熱かったみたいで、なかなか喉を通っていかないようだ。


「飲みにくいようなら少し冷ましましょうか?」


 口元をすぼめていきをふきかける真似をしてみれば、すでにカチンコチンになっていたルイードくんの顔がさらに固くなった。その上一瞬で顔色が青くなったかと思えば、ぼんっと赤く変わってしまう。


「メリリッサ公女殿下、無理をおっしゃらないように」


 カリーゴ様から、さっきよりも少々きつめな口調でたしなめられた。

 おっと、いけない。また公女であることを忘れそうになってしまった。

 どうも目の前に患者さんがいるかと思うと、手を出してしまいそうになる。元々看護師長さんからも、私は必要以上に手をかけ過ぎるところがあるから気を付けるようにとも言われていたくらいなのだ。今の公女という立場は看護師のそれよりも、はみ出したら拙い。


「ごめんなさい。少し気になったものだから。その、この薬草茶は、ビューゼル先生がおつくりに?効き目がありそうですね」


 ごまかし半分、興味半分でポットの中の茶葉を覗き込んだ。普通のお茶とは違い、どことなく枯れたような埃くさい香りがする。

 まあ、いかにも苦くて不味そうだな、と思いつつ尋ねると、我が意を得たりと言わんばかりに喜んだ。


「ええ、そうです。乾燥させたレールチコリを配合してありますので、痛みには良く効きます。少し前に独自に配合したものですが」

「レールチコリ……確か、麻酔薬ではありませんでしたか?」


 ビューゼル先生の教えてくれたレールチコリの名に、リリコットの記憶が反応した。

 公女として勉強したものの中には薬草、毒草についてのものも多いが、その内の一つであるレールチコリは適量ならば麻酔薬にもなるが量を過ごせば毒薬にもなりえるものだった。


「はい。生葉を蒸留したものは麻酔薬としても使用しますが、乾燥させてお茶の形にしてしまえば成分がグッと抑えられます。これなら痛み止めとして、副作用もなく安心して使用できますからね」

「そう、ですか。その、私は麻酔薬としての使用法しか知らなかったものですから」


 正確に言えば『毒薬』としてだが、それにはカップ一杯分は飲まなければいけないので、暗殺向きではないと記憶が教えてくれている。

 私のその返事にビューゼル先生は、知らなくても当たり前ですよ、と言葉を続けた。


「通常は麻酔薬としてしか使ってきませんでしたからね。そもそも生の葉しか流通していませんから、わざわざ自分で乾燥させて使用しているんですよ」


 その言葉に、あっと気づかされた。

 そうだ、ビューゼル先生の魔女の研究室のような部屋を訪問した時に、乾燥した薬草らしきものが山になっていたのを確かに見た覚えがある。


「もしかして、あの暖炉横に山積みとなっていた、あれがそうなのでしょうか?」

「そういえば、メリリッサ公女殿下は見ておいででしたね。ええ、痛み止めの需要は多いので、ストックの作り置きは大事なんです」


 どうりでわからなかった訳だ。リリコットはレールチコリの生葉しか見たことがなく、乾燥したものは初めてだったから、その勉強の記憶と照合できなかった。


 しかし、独自に慣例の使い方にこだわらず、そこから研究を重ね、新しく痛み止めの薬草茶を作り出すとは、やはりビューゼル先生は立派な研究者なのだと感心してしまった。流石は一国の宮廷医のトップになるだけはある。

 尊敬しちゃうなあと感心しながらも、私ってそんな偉い先生の仕事を増やしちゃったよね、と反省した。


 そんなことを考えているうちに、ビューゼル先生は他のケガ人の様子をてきぱきと診ていく。

 痛み止めを飲んだルイードくんも、薬がきいてきたようでかなり体が楽になってきたようだ。一通り回診が終わったところで、これ以上見習い騎士たちを騒がせないようにと、早々に診察室へと戻る。

 そうしてもう一度薬草茶をゆっくりと見せてもらった。


「かなり効き目も良さそうですけれど、こちらは一般に販売はしませんの?」


 つい、市販しないのかと口に出してしまえば、ビューゼル先生とカリーゴ様に、え?という顔で見られてしまった。


「あ、ほら。これだけのものなら需要がありそうでしょう?」


 と、さらに言い訳すれば、カリーゴ様からの視線が強くなる。えーっと、公女の台詞にしてはあまりに俗物すぎたようだ。


「ははっ、メリリッサ公女殿下はなかなか商売がお上手そうだ」


 ビューゼル先生が私に合わせてくれるが、いやそういう意味でもないんだけどね。

 市販の痛み止めが普通に販売していた世界にいたから、あると便利だろうなって思っただけなんだ。

 けれども、先生は残念ながらと前置きして、教えてくれた。


「痛みだけを止めて、医者にかかるのが遅れるのも困りますから。ルカリーオ商会からも販売したいと言われましたが断っているのですよ」


 おっと、ここでまさかのルカリーオ商会の名が!

 てか、なんでも手を出すなー。一体どこからそんな情報を手に入れるのやら。そう考えていると、同じことを思ったのかカリーゴ様からビューゼル先生へと質問された。


「ああ、生葉のレールチコリを仕入れていますので、その時にこんな話をしましてね」


 毒にもなるレールチコリは、モンシラでは特定の店でしか扱えない。おそらくこのトラザイドでも許可制なのだと思う。

 あれだけ大掛かりに商売をしているルカリーオ商会ならば当然それくらいはちゃんとしていると、思っているが……

 レールチコリから作られる麻酔薬の副作用を、もう一度記憶から捻りだす。


 摂取状況や体質によっては、酷いもので全身麻痺、アレルギー反応、高熱、


 そして記憶障害――


 リリコットの勉強の成果が確かなら、これに間違いはないはずだ。

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