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まいったネ今日は

 今日は朝から、とにかく考え込んでしまうような事案がごろごろと出てきてしまう。

 リリコットとして覚醒してからというもの、毎日毎日驚かせられるようなことばかり起きてはいるが、今朝のように起き抜けから問題三連荘は流石になかったはずだ。

 いつもなら、一難去ってまた一難といった具合に事件が追いかけてくるのが普通だったので、こんなふうに荷物を三つも寄こされてしょい込むのは初めてだった。


 アクィラ殿下との初遭遇の記憶、モンシラからの持ち出し疑惑、そしてミヨへの不信感。


 とはいっても、ミヨに関して言えば私がなんとなく変だと感じているだけなので、特にどうのこうのということがある訳じゃない。ただ何となくモヤモヤとしているだけだ。

 どうせ直接聞いてみたところで上手くはぐらかされるに決まっているので、もう少し様子をみてみることにした。


 そして客観的にみて、この中で一番の問題と言えばやはりモンシラの持ち出しのことだろう。

 けれども、これも結局何を持ちだしたのか中身が分からない限り、こっちから余計な口出しはしないほうがと思っている。


 だから、最終的に私が動き出すことによって答えが出そうなことと言えば――アクィラ殿下との思い出だ。

 幼い時の頃ではあるが、アレを見たアクィラ殿下は私たち双子の関係性を知っている。あの日お茶会をセッティングされていた隣国の双子の姉妹なのだから、当然あの時点でも、そして今現在でもそれはわかっているはずに違いない。


 あの日のアクィラ殿下の様子を思い出す。柔らかい瞳、優しく気遣ってくれるような声。あの続きはまだ思い出せないけど、どうなったのか……わからない。


 でも一言、私があの時の靴の少女だと伝えてみれば彼はなんと答えるだろうか?


 ああ、でもそうすると、私がメリリッサではなくて実はリリコットだということがアクィラ殿下にバレてしまうことになる。

 いや待て、それはマズい。そうなると必然的にガランドーダを裏切ったことになってしまう。大国ガランドーダの王太子を騙し、婚約者を挿げ替えた叛逆行為だととられてもおかしくない。まあそれが例え、向こうの王太子(エロガッパ)の勘違いから始まったことだとしてもだ。


「……あれ、これ詰んだ?」


 うん、詰んだ。どうあがいてみても好転しそうにない状況に、うんざりしたようなため息と共にこぼれだす。


「どういたしましたか?メリリッサ公女殿下」


 おっといけない、思わず独りごちったその言葉を後ろに立つカリーゴ様に耳ざとく聞かれてしまった。ハンナが話してくれた外交官の無茶ぶりを聞いてから、色々と考えていたせいで、どうにも頭が上手く回らない。

 んっと、背筋を伸ばし直してカリーゴ様へと質問をする振りをして話題を変える。


「ビューゼル宮廷医は、今日はご自分のお部屋にはいらっしゃらないという事でしたね」

「はい。本日この時間は、騎士見習い宿舎横に新設された診察室にて騎士の診察にあたっています」

「こちらの方へ来るのは模擬戦以来です」


 私のその言葉に、カリーゴ様は小さく頷いた。その目が少し笑っているように見えるのは、きっとあの模擬戦での派手な出来事を思い出したのだろう。

 言っておくが、あれは私の指示じゃないからね、全部とはいわないけど、大体ヨゼフのせいだから。


 結局今日の午後は特に予定がなかった為、ビューゼル先生の話を聞きたいとカリーゴ様へお願いしたら、この診察室へと案内されることになったのだ。

 仕事が忙しいのなら無理は言わないと一度断ったが、どうもあの模擬戦がきっかけで新設された診察室なので、留守にしているアクィラ殿下の代わりに視察してくださいと、逆に勧められるかたちで連れて来られてしまった。

 詳細は言えないが少し記憶を思いだしたことについての話がしたかったのに、これじゃあダメじゃん。人前で話せることじゃないよ。


 でも、一度行くと言ってしまったからには、断る訳にもいかずそのままカリーゴ様に案内されるまま診察室へと向かう。模擬戦の時はお茶会場から行ったので、宮廷内の廊下を抜けて見習い宿舎へ向かう道筋は初めてだった。そして当然ながらこちらは若い人が多くちょっと驚かされた。


 なにせ、私たちにあてがわれている棟はそもそも私たち以外の人気はない。一応警護はしてくれているらしいが、今だって扉の前に立つ騎士以外はカリーゴ様しか見たことがないのだ。

 その上宮廷内を歩いても、視線は感じるものの、私が歩いているところにはほとんど人がすれ違わない。ああ、やっぱり悪公女ということで避けられているんだなあと思っていたところに、この彼ら若い騎士や見習いたちの態度だった。


「公女殿下、カリーゴ殿、失礼いたします」


 若い騎士や見習いらしき少年たちが、すれ違う時に皆、直立不動で片手を胸に置き、こちらを興味津々といった様子で見ている。

 その瞳がまた、大型犬がご主人様から声をかけてもらいたくてうずうずしているように見えて仕方がない。


 ええと、なにこれ?こちらへ来てからこんな堂々と見られることがなかったから、なんか居心地が悪いんですけど。


 それでも、好意を持って挨拶をされているのはわかるので、頬を引きつらせつつニコッと笑顔を見せる。そうすれば、彼らの姿の後ろにぶるんぶるんと振られているような尻尾が見えてきた。

 ちょっとあれだな、幻覚まで見えてきたからやっぱり帰ろうかな。そんなことを考えていれば、笑いをこらえきれないようなカリーゴ様が息を詰まらせていた。


「ぐふっ、ああ、大丈夫ですよ、メリリッサ公女殿下。彼らは、っ先日の模擬戦の一部始終を見ていたようですね……っ」


うー……きっと、あのケガをした派手な騎士の為に担架を作ろうとして叫んだのがまずかったんだな。淑女らしくない行動をしたとは思っているけど、そんなに笑わなくてもいいじゃないの。

 一体何がそんなに面白いのか、面と向かって聞いてやりたい気分になってしまった。

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