なんだろう
とりあえず用意されたお茶を飲みつつ、さっきの話をもう一度考えてみた、その『何か』が、何なのかである。
勿論見つけたからと言って、お金を引き出すための交換条件に使うわけではなく、むしろこれ以降の、嫌がらせ回避のための切り札にできないかと思ったからだ。
あちら側の立場で、悪公女相手に嫌々でもお金を出そうという気になったぐらいなのだから、よほど大事なものなのだろう。
こちらとしては何のことだかわからないが、もし本当にそれがこちらにあったとしたなら、それなりの弱みをゲット出来るんじゃないかと期待したい。
じゃあ、実際何だろうかと頭を捻っていると、ふと思い出したことがある。
私が持っていたもので、唯一高値で取引されたものといえば、そう……アレだ、と。
「ねえ、もしかしてあのテーブルクロスがそうなのかもしれないわよ。その、ば……外交官が言っていた、何かって」
おっと危ない、馬鹿っていうところだった。流石にそれを口に出したらハンナにおかしな目で見られそうだ。そうでなくてもすでにミヨの目が怪しい。
「姫様ー、その話終わったんじゃないんですかぁ?ご自分で、もういいって言ったのにぃ」
「そのつもりだけれど、もしかして、と思ったのよ」
「ええー、そりゃあちょっと図々しくありません?」
ぐっ!でもさー、アクィラ殿下があんな超お高そうなアクセサリー一式の担保に持っていったんだから、そう思っても仕方がないじゃない。
なんてちょっとぶつぶつ口ごもっているとハンナがそこに追い打ちをかける。
「あのテーブルクロスはリリー様のご婚約が決定された後に、ご自分で刺繍を始められたものですから、間違いなくリリー様のものです」
「つまり、持ち出したものには該当しないということね」
私がそうハンナの言葉を補足すれば、その通りだと深く頷いた。
私自身が図案を考えて刺繍をしたテーブルクロスならば、確かに持ち出したとは言われない。むしろトラザイドまで持ってきても当然だ。
ただそれを言うならば、今メリリッサとしてここにいる私が、リリコットの刺繍したものを持ってきてしまったと思われないのだろうか。
ハンナだって、ガランドーダの王妃殿下への贈り物だと言っていたと記憶している。その疑問を口にしたが、それはあっさりと否定された。
「あのテーブルクロスを刺繍されている時は、リリー様は必ず人払いさせていましたから」
「あー、そういえば私も知りませんでしたねぇ。あのテーブルクロスのこと」
「そう、なの?」
「はい。私も、たまたま大公妃殿下からの言付けを急いでお伝えしようと、慌ててお部屋に入ってしまった時に見つけてしまったのです。その時に、内緒の贈り物だから誰にも言わないで欲しいとおっしゃられました」
なるほど、存在も知られていないテーブルクロスなら、持っていかれたとは言い出さないよね。
ならば、あれを高額な担保として持っていったのは明らかにアクィラ殿下の酔狂だったのか。あまりにタイミングが合致していたので、つい都合よく考えてしまった。
そうすると他には全く想像もつかない。ただでさえ記憶が無いところにヒントもないのだから当然と言えば当然なのだが。
残念、あわよくばといった程度では上手くはいかないものだと思った。
「なら、さっぱりね。全然わからないわ」
「あんまり無駄なこと考えないほうがいいですよぉ。どうせわかりませんって」
そんなことよりもお茶のおかわりどうですか?と、ミヨがあっさりとその話題をぶち切る。
そこは大人しく言うことを聞いてみたが、なんとなくミヨの態度に違和感も覚えてしまった。
良くも悪くもミヨというものは、面白そうなことには自ら飛び込んで行くという好奇心旺盛な性質なのだと思う。その分口も悪いが、やることはそつが無くそのレベルも高い方だ。
やり過ぎだと思うことも多いけれど、行動力は折り紙付きだと言っていい。
今は侍女として私に付いてくれているが、コザック男爵の事業の一つでもやらせてみれば、それなりの成果が出来るんじゃないかとも思う。
なのに何故か、この『何か』については非常に適当な話しかして来ない。むしろ、無駄だと切って捨てた。
今までのミヨらしくない行動に、首を捻る。そうしながらミヨをじっと見つめていると、その視線に気がついたのか、からかうような口調でお茶のカップを差し出した。
「姫様の頭がちゃんと回るように、お砂糖たっぷり入れときましたー」
へらへらと笑いながら悪態をつく。その姿を見咎めたハンナによって、ミヨが私の前から引きずられて行った。これからまたハンナによってお説教をくらうのだろう。
まあ、ミヨの生家コザック男爵家の持ち物である、ルカリーオ商会からお金を借りているのだから、利子のためにも公国からお金を引き出さないようにとしているのかもしれない。
というか、むしろそんな単純な話ならわかりやすく納得もする。
「ただ、それだけの話だとも思えないのよね……」
ひとりつぶやいている間に、眉間に皺を寄せたハンナと軽く舌を出したミヨが戻ってきた。もうその頃には、空気が完全に変わっている。
つまり、これでさっきまでの話は終了ということとなったわけだ。
そう考えると、やっぱり上手いことミヨに転がされているような気がしてならないと思った。




