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地味ぃーにご機嫌ななめ

 アクィラ殿下といい、カリーゴ様といい、どうしてこの主従はノックというものをしないっ!?


 王太子であるアクィラ殿下が婚約者である私の部屋に入ることにおいてはまあ百歩譲ってもいい、けどカリーゴ様はダメでしょう。

 仮にも王女殿下の部屋に入るのにノックと了解なしで入ってくるのは不敬じゃない?そう強く言ってやろうと思って声の方へ体を向けたら、その隣にはちゃっかりとアウローラ殿下が陣取っていた。


「あ……すみません、カリーゴ様だと言われたので、私が、つい……」


 アウローラ殿下ぁあ……あなたが入れたのか……


 その頬の染めっぷりからみても、わかっていたけれどそうか、これほどの美少女がこんな地味顔にかー……なんて現実逃避はまず横に避けて置いて、ここを誤魔化さないと!


「あら、カリーゴ様。いやですわ、一体なんのことでしょう?」


 水色のドレスに身を包んでいるーイービス殿下の肩に手を置き、仲のいい友人アピールだ。

 しかし、カリーゴ様は怪訝そうな瞳をこちらに向け、静かに近づいてくる。


「あの……そう、アウローラ殿下のお友達を紹介してもらっていたの。イー……イーベリア様とおっしゃるそうですのよ」


 なんか慌てて豚の品種みたいな名前を告げてしまった。誤魔化すためにも、おほほほと笑ってみれば、隣でも私にあわせるようにイービス殿下が淑女っぽく笑っている。

 うん、この様子ならいけるかも?と一瞬でも思ってしまったけど、残念でした。


「私は、そのイービス殿下の女装はなんなのでしょうかと尋ねているのです」


 バレてんじゃん、即行だよ。何が最終形態だっちゅーの。


 あいたた、と言う代わりに右手をこめかみへ当てる。イービス殿下はといえば、即座にその最終形態とやらを見破られたわりには大人しい。ただミヨだけが悔しそうに口を尖らせていた。


 とりあえず立ちっぱなしもなんなので、全員に椅子をすすめた。

 そうしてカリーゴ様が部屋に入るときに持ってきたワゴンに載せられていた茶器で、ミヨにお茶の用意をするように頼んだ。


「けどぉ、ちょっ早でバレましたね。ちょっと悔しいです」


 皆にお茶がゆき渡ったところでミヨがそうカリーゴ様に突っかかると、事も無げに答える。


「そもそもアウローラ殿下のお部屋に入室できる者は限られていますし、本日のことも報告は受けています。メリリッサ公女殿下と侍女の方を確認した時点で残るのはイービス殿下しかおりませんので」


 消去法だったのか。しかし何気に入室の人間を報告させてるっていったな。

 ……まあ王女様なのだから仕方がないよね。カリーゴ様、アクィラ殿下の従者だけど当然か?当然なのだと思いたい。


「じゃあ、この姿を見た上で、俺ってわかったわけじゃないんだ」


 未だ着替えもせずに、水色のドレス姿でティーカップを持つ姿は、どこをどうみても美しいレディだ。

 しかしそれでいて俺という男言葉を使うから、どうにも苦々しい笑いが込みあげてくる。


「そうですね、すれ違っただけではそうとわからないと思いますよ。それくらいよく擬態できています」


 その言葉に、イービス殿下とミヨが『イエーイ!』とハイタッチした。仲いいな。


「なーら、変装成功だな。よっしゃ、自信できた!」

「問題があるとすれば、少々美人過ぎるところでしょうか。そのままではとても目を惹き過ぎます」

「え!?カリーゴ様はそういった感じがお好みですか?」


 アウローラ殿下空気読もう。今はそんな話はしていないんですけど。


 一瞬全員が、それこそ、え?という顔をアウローラ殿下へ向けた後、何もなかったかのように元の話に戻る。


「変装とおっしゃるのならば、もう少しよくある顔といった感じになさらないと」


 それは一理ある。用途にもよるけど、大抵変装と言えば目立たないことが前提なことが多いはずだ。


「それもそうですねぇ。では殿下、次は地味顔の研究をしましょうかー」

「そうだな、師匠。カリーゴのような地味な顔の作り方を教えてくれ」

「お兄様!カリーゴ様は地味ではありませんよ」


 わかった。基本アウローラ殿下が空気を読めないのはもうわかった。というかムキになりすぎだ。


 頬を膨らませてそういうアウローラ殿下はとても可愛いのだけれど、ほら地味顔だと言われている本人ですら失笑してるじゃない。

 多分、百人中、アウローラ殿下以外の九十九人がカリーゴ様の顔は地味だというから、そこは残念だけど諦めてください。


 そう生温い目を向けてから次の練習予定を打ち合わせる。明日、明後日は無理だが、その次の日ならば二人とも時間が合いそうだったので、その日に私の部屋でということとなった。

 すでにカリーゴ様にはバレてしまったのだから、今さら隠しても仕方がない。それどころか、イービス殿下があまり羽目を外し過ぎないように、監督下でやることと釘を刺されてしまった。


 それについてイービス殿下はもっと反抗するのかと思ったのだが、意外にもあっさりと了承した。

 彼曰く「アクィラ兄上に告げ口された挙句、カリーゴにけちょんけちょんにされるよりは全然マシ!」ということだそうだ。

 まあ、技術は一度覚えてしまえば後は好きなように使えるといったことから、今だけ我慢すればいいという考えに違いない。


 だけど、ちょっと待って!交換条件忘れてない?

 イービス殿下はそれでいいかもしれないけれど、私は!?私はカリーゴ様が側にいたんじゃあ、思い通りに情報を引き出せないじゃないの!


 うーん、目論見が外れたか。中々上手くはいかないもんだとあごに手を置いて、さてどうしようかと考える。

 そうしている内にカリーゴ様とミヨはテキパキとヅラを片付け始めていた。この荷物の山はアウローラ殿下の部屋に置いておくわけにもいかないので、カリーゴ様の指示でイービス殿下の部屋へと運ばれるそうだ。そこらへんは全てそつなく手配してくれるのだろう。


 有能だなー。顔は地味だけど、ものすごく有能だ。

 でも私にとっては歓迎できない、ちょっとムカつく有能さだった。

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