表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/168

ないならないで仕方がない

 …………っは?


 ちょっと意味がわからない。お金がないとはどういったことだろうか?


 あ!もしかして、トラザイド王国のお金がないんだろうか?

 ん?いやいや、国内外事情はちゃんと覚えている。モンシラ公国は二十年前からトラザイド王国との統一貨幣を使用しているのだ。

 商人たちは未だに金や銀などでの取引をしていることも多いようだけど、通常のお金といえばその統一貨幣なので、こちらで使えないはずがない。


 それとも王族みたいな身分の高い人たちの結婚とは、全部支度は相手方に任せてしまうの?

 昔借りて読んだ本にはそんなとこまで詳しくは書いてなかった。おとぎ話だって、たいていはめでたしめでたしで終わってしまう。

 でも、持参金みたいな単語は見たことがあるから、少しくらい持っていてもいいんじゃないのかな?


 私が首を捻ると目の前で手を握っていたミヨが、あ!とでも言いたげに口を大きく開いた。

 うん、ミヨも心当たりがあるようだ。


「ハンナ、ミヨ、ちょっと詳しく教えてもらっていいかしら?」


 お金がないというのなら、その理由もちゃんと知っておかないとと思った。

 私の問いに、ハンナが目を伏せて、声を絞り出すようにして答える。


「……メリリッサ様ですわ。あの方が、全てお断りになられました」

「は?メリリッサが?え……?」


 どうしてメリリッサが断れるのだろうと考えていると、私の横でミヨが口を大きく尖らせていた。


「メリリッサ様、ご自分の結婚用にってあれだけお金使ってドレスや家具なんか色々揃えたくせに、姫様とロックス殿下の婚約が調った時に、自分の用意した分もぜーんぶ姫様へ持たせて欲しいって言ったんですよ」


「へ?」


「大国のガランドーダで姫様が引け目を感じないようにしてって!私それ聞いたとき、ちょっと感動しましたよ。あれだけ我がまま放題だったのに、やっぱり姉妹なんだなって。初めてメリリッサ様を見直したんですけどぉ……」


 そこまで言い切ってから、ちらりとハンナの方を見やる。

 言い過ぎたかな?と考えているような顔だが、言ったことを悪いとは思ってはいないような表情のミヨだ。


 そうして、ふう、と一息吐き、渋い顔をしながらハンナがミヨの言葉を繋ぐ。


「それでも、こちらのトラザイドへの輿入れの方が先でしたし、大公妃殿下も気持ちだけ受け取るということで話は一旦終わったのですが、その……あの舞踏会の件で、メリリッサ様がリリー様としてガランドーダへ出立された時、そのお支度されたもの全て、約束だからと持って行かれてしまったのです」


「全部ですよ、全部っ!家具も宝石も、持参金も!そりゃ、シーツ類なんかはなんとかなりましたけど、ドレスだってほとんど新しいものなんかじゃないんです!」


「ですからこちらへの持参金の方も大公妃殿下と財務大臣が随分と工面なされましたが……余分な出費に使えるほどはなくて。あのっ、結婚の儀までにはいくらか用意すると約束はして頂いてますから!」


 物静かなハンナですら、言葉の最後の方は涙目での力説だった。

 はいはいはい。うん、なるほどね。


 お金も持ってこない、支度も出来ていない、性格もクソだという噂の公女に対する扱いが、コレな訳だ。


 そういった経緯があるのなら、トラザイドの対応もわからないではない。

 勿論それが、正しいのかそうでないかは別として。


 だからこそ、あのお爺ちゃん先生の言葉だったのかと振り返る。


『――メリリッサ様の為には、思い出さない方がよろしいのかもしれませんな』


 今まで全て妹に押しつけてきた公女が、立場もない、お金もない状態で、隣国へ一人出されてしまったのだ。

 普通の神経なら確かに針のむしろかもしれない。


 そして、そんな気持ちで過ごすくらいなら、自分の悪行の記憶なんて思い出さなくてもいいという、お爺ちゃん先生なりの優しさなのだろう。


 まあ的外れだけどね。


 ここまで不遇な扱いを受けておいて、理由を知らないでいる方が気持ち悪い。どうせなら、きちんと知るべきだ。

 そうでなければ、感情の持って行きどころがわからないじゃないか。


 その上で、思う。


 あーのークソ女っ!!またお前か、メリリッサ!!


 どんだけっ!どれだけ私をコケにすれば気が済むのだろうか?

 なんとかして少しでも仕返ししたいとは思うけれども……無理か?無理だな。今は全然。


 とりあえず今優先するべきは、生活基盤の立て直し。お金がないなら、ないなりになんとかしなければいけない。


 うーん、どうしようか?

 やっぱりアレしかないわよねえ。


 百合香の時の考える時の癖、眉間の皺を人差し指で伸ばしていると、ハンナとミヨが心配そうに私の顔を覗いている。

 おっと、またリリコットらしからぬ仕草をしたのかもしれないと、慌てて二人に向けて微笑む。

 そうしておいて、上目遣いでゆっくりと話しだす。


「あのね、二人にお願いがあるのよ」


 多少強引だけど仕方がない。なんといっても先立つものがないらしいのだ。


 ここはみんなで一蓮托生といきましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ