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高値の花柄さん

 ふむ、アクィラ殿下はよほどお金について気になるらしい。個人的にはお金に無頓着よりもよほど好感がもてる。けれどもそれを決めるのは私ではないんだな。

 ミヨの方へ顔を向け、発言を促す。するといつもの様子とは全く違い、静かに口を開いた。


「それはまだ決めておりません。御結婚の儀がお済になりましたら、お願いいたします」

「結婚の儀が済んでから、だな」

「はい。仰せの通りでございます」


 二人して何を一体こだわっているのかわからない。

 ぶっちゃけ、私が用意するコザック男爵家への担保なんて、ミヨへの餞別みたいなものじゃないの?


 妙な駆け引きをしているアクィラ殿下とミヨを見ているとなんとも不思議な既視感(デジャヴ)を覚える。そこに絶妙のタイミングで横から地味顔のカリーゴ様が口を挟んできた。

 ああこれ、若い医師とベテラン看護師のマウンティングに、看護師長が割って入るやつだ。

 どっかで見たと思ったと、薄目で懐かしい感覚に浸っていると、カリーゴ様から突然声をかけられた。


「メリリッサ公女殿下、それでよろしいでしょうか?」

「はっ、はい!……え?」


 全然聞いてなかった……けど、そんな私の疑問符は無視され、さくさくと話が進められて行く。


「借入金は五万テゾまで。金利は固定で一分五厘、担保は結婚の儀後にメリリッサ殿下の持ち物の中から一つ、そちらの侍女にお渡しする。今のところの返済予定といたしましては、王太子妃となられた時点で支給される予算の中から月三千五百テゾを返していきたいと思っております」


 早っ!もう返却予定までたてられていたよ。恐ろしいくらいカリーゴ様は有能でした。

 しかし、王太子妃用の予算なんてものがあるのかと、今になって気が付く。そりゃそうだよね、一国の跡継ぎのところにお嫁にくるわけだし。


 でもそれなら無理なく返せることが可能みたいなので、こちらとしても大歓迎。

 ミヨが自分からモンシラへ帰りたいと言い出すまでは、私の側へ居てもらえるのだと思い、喜んでうなずく。


「よろしくお願いします、カリーゴ様。それから、ミヨも」


 とりあえずの案件が一時的にでも片付き、ちょっとだけほっとした。そうしてティーカップを手に取りゆっくりと口に含む。あー、このお茶もすごく美味しい。


 そんなふうにじっくりと香りを楽しんでいて油断したのだ。

 何故、今日わざわざアクィラ殿下がここへ寄ったのかということを。


「では、次は私の番だ。君は――」


 アクィラ殿下が指を鳴らすと同時にカリーゴ様から差し出されたのは、グリーンのベルベット地で出来たケースだった。


「これには何を担保に差し出してくれるのかな?」


 そう言って開けられたケースの中には、目も眩みそうなくらい光り輝くダイヤモンドのような宝石が数えきれないくらいついたネックレスとイヤリングのセットが鎮座している。

 プラチナなのか銀なのかわからないけれど、葉っぱをイメージした、そんな繊細な台座に、大きな宝石が花のように咲き乱れ、小さな宝石が風に舞う花びらのようにいくつも散らばる。


 ひい、ふう、みい、と大粒なものを五つくらいまで数えたところでもうギブアップした。

 無理無理無理。

 一体いくらするか見当もしないアクセサリーに、担保なんて提示できない。

 てか、私これ借りるの?え、やだ。こんなすごいの借りたくないんですけど。押し貸しリターンかっ!


 勘弁してよー、と言葉に出す代わりに、目にぐっと力を込めて訴えれば、心なしかアクィラ殿下の顔が笑って、いる?


「あ、あの……アクィラ殿下?」

「っく、ああ、必要ないとは言わせない。あの結婚の儀のドレスにはグリーンの宝石は似合わないからな」


 あれしか持ってきていないのを、どうして知ってるの!?


「知っているわけではないが、そう思っただけだ」


 しかも、私の考え読んだ!!

 あれ、そんなに私って顔に出やすいのかしら?慌てて手で顔を覆ったけど、あまり意味は無く、アクィラ殿下はどんどんと話を続けていく。


「婚儀の前に迷惑をかけるのは嫌なのだろう?ただで受けとるのも気に入らないなら、担保を取って貸すしかあるまい」

「は、はあ……」


 イケメンに真顔でそんな話をされれば、納得がいくようないかないような気持ちも押しきられる。

 めちゃくちゃ押しが強いな、アクィラ殿下!


 けど、どう考えても無い袖は振れない。

 ここはきっちりと断って、コザック男爵から借りる五万テゾの中から結婚の儀用のアクセサリーを用立てるしかないだろう。


「申し訳ありません。私の持ち物が少ないものですから、何をと問われましてもこちらからそのアクセサリーに見合うものを差し出すことができないのです」


 正直にそう答えたのにもかかわらず、アクィラ殿下は全く意に介さずお茶のカップを手に取った。


「そうでもないさ」


 思いがけないような殿下の優しい声に、ふっと空気が緩んだような気がした。

 そうして私にもカップを取れと指で示す。その通りにすれば、アクィラ殿下は自分のカップを控えていたもう一人の従者に渡し、おもむろに立ちあがる。


 そして茶器も全て片付けられたテーブルに掛けられていた、リリコット作である花柄の刺繍の入った白いクロスを引き抜いた。


「私への担保はこれだ。式の後まで預かろう。その代わりに、これを」


 そう言ってグリーンのベルベットのケースが差し出され、傷だらけの小汚いテーブルの上にのせられたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 甘々やん いつ殿下は入れ替わりに気がついたのかな?と思い返すけど いつなんだろう??
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