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お金にまつわるエトセトラ

「あ、でもそこは金に一際がめつい人間なんで、貸すのは構いませんが一応担保が欲しいんですけどぉ」


 確かに人として、タダでお金を貸して欲しいなどとは言ってはいけないと思う。百合香として生きていた時もお金には苦労したからこその本音だ。

 だからこそ、ミヨの言う担保を出してお金を貸してもらうというのが、私にとって数少ない出来ることなのだと思った。


「そうねえ、でも担保と言っても、私に何があるかしら?」


 しかし、そもそも特に何も持たない私の、何を担保にすればいいのだろうか?首を傾げてミヨへと尋ねれば、そうですねーと考える。


「じゃあ、もし返せなければ、結婚してからでいいんで、姫様のものを私に何か一つ下さい。それでいいですよぉ」


 そんなものでいいのか!?というか、それっぽっちの担保でどれだけのお金を貸してもらえるというのだろう。

 私のそんな疑問に、ミヨはあっさりと答える。


「それをもらって、私がモンシラへ帰るって条件出せば、いくらだって引き出せますよぉ。とりあえず、五十万テゾほどいっときましょうか」


 って、五十万テゾ!テゾといえば、トラザイド王国とモンシラ公国の使用する共通通貨の単位。

 そして、えーと……百合香としての記憶と、こちらの貨幣価値をすり合わせると、多分一テゾが百円くらいのはずだ。そうすると、五十万テゾとなると――


「っえ!?ごっ、え?」


 五千万円っ!?ちょっ、それはないわ。家を建てるレベルのお金を、ぽんっと貸してもらえる訳ない!


「ちょっと、流石にそれは、少し……ねえ?」


 コザック男爵はそもそもミヨに帰ってきて欲しいのだから、私を担保にというよりもむしろミヨが担保というべきなのだろうけど、ちょっと吹っ掛けすぎだ。

 大体、借りたお金を返せなくて、ミヨに離れられても困るし。

 そんな気持ちで伝えると、ヨゼフも横から口を出した。


「そうだな、少ない。その倍くらいは借りられるだろう」


 おいぃーっ!?なに言ってるの、この人?待て、待て、待って!その倍だと百合香換算で一億円くらいになるんですけど?

少ないなんて言ってないでしょう?多いって言いたいのよ、私は!


「あ、やっぱりぃ?じゃあ……」

「ダメーーーっ!!」


 ヨゼフの提案をサクッと受けて金額の変更をしようとしているが、待ってちょうだい。

 いくらなんでもその金額はない。万が一返せなくなってしまったらどうするのだと言いたかった。


 私はその十分の一、五万テゼも借りられれば上等だと思っていたのだ。それでも百合香の記憶が多くのこっている私にとっては大金だが、公女の立場ならば急な出費を含めてもそれくらいは必要だと思いはじき出した金額だった。

 これだけあれば、少なくともこれまでの三人への給金は払えるだろうし、その他の細々したものを手に入れるのだって十分足りるだろう。


「ともかく、担保もそれほどのものが用意できないのだから、お借りするのは五万テゼでお願いしたいわ。ミヨ、コザック男爵へ連絡を取ってもらえるかしら?」

「五万ですかぁー?まあ姫様が良ければいいんですけどねぇ」


 不承不承といった様子でミヨがこたえると、それまで黙っていたハンナが涙声でおずおずと口を挟んできた。


「……あの、やはりリリー様が直接お借りするというのは、外聞がよくないと思われます。私が、もう一度話をしてみますので、どうかお考えを改め直してはいただけませんでしょうか」


 ハンナの言いたいこともわかるのだが、多分私たちの財政状態は相当ひっ迫しているはず。

 だとしたら、いつ認められるかわからない国からのお金よりも、直ぐに手に入る民間のお金だ。


 大体が、もう一度頼んでお金が届くくらいなら、最初から持参できていたはずに違いない。それが、今の段階でここに無いというのなら、端っからよこす気がないということだろう。

 外務大臣が誰の意向で署名をしたのかはわからないが、今は相手をしている場合でもない。


 そっちは後で私から、大公妃である母親に手紙を書いて状況を確認してみよう。リリコットの勉強したことは忘れないという記憶をフルに使えばなんとかなる、かな?努力はしてみても無駄じゃない。


 恐らくハンナはメリリッサの悪評がさらに増えることも気にしているのだろうけど、評判だけで暮らしてはいけないもんね。

 それにあれだ、今日はもうすでに一つ、悪公女のわがままっぷりを発揮してしまったので、本当に今さらだ。

 巻き込んでしまった白ヒゲのおじいちゃん先生ことビューゼル宮廷医には、心の中で謝っておきつつ、ハンナへ声をかけた。


「いいえ、ハンナ。これは私が決めたことです。ミヨ、すぐにでも連絡を」


 そうして指示を強めれば、「はいはーい」と呑気な声が返ってくる。それとは反対に、ハンナの顔は血が上って赤くなり、納得のいかない様子を見せていた。


 リリコットと付き合いの長いハンナの言うことを聞いてあげられなくて申し訳ない。

 しかしその反面で、こればかりは仕方がないとも思う。それでもフォローはしておこうと、声をかけようとしたその時、閉めておいたはずの扉が開き、見覚えのある男性に見つめられているのに気が付いた。


「……アクィラ殿下。どうしてここへ?」

「時間が取れたからな。婚約者殿へのご機嫌うかがいだ」


 突然の登場に、思わず舌打ちしてしまった。

 たとえ婚約者であろうとも、あまり他人には聞かれたくない、私たち側の事情を邪魔されたと思うと軽くイラつく。


 顔を見るのが嫌だと言うわけじゃない。正直アクィラ殿下に気が付いた瞬間、胸の奥がつくんと跳ね上がった。けど、困る場合だってあるよね。

 おーい、誰か!連絡という言葉をこの人に教えてやって欲しい。本当に、全く。

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