OVER THE TROUBLE
これ以上、彼ら見習い騎士たちの視線にさらされているといたたまれないので、ケガをした騎士を担架に乗せて送り出したのと同時に、私もヨゼフと共にその場から離れた。
そうしてそそくさと自室に戻ると、片づけに勤しむー……のではなく、テーブルに向かい何かを真剣な様子で読んでいるミヨの姿を見つける。
珍しいその姿に、びっくりさせてやろうといきなり声をかけるが、相変わらず飄々と返された。
「何をしているの?ミヨ」
「私宛のラブレター読んでました。見ますー?」
ぴらぴらとその手紙を振り回す、ミヨ。
やたら上質そうな紙に何か長々と文章が書かれているのまでは見て取れたが、生憎と人の色恋沙汰にはあまり興味は持てない。
はいはい、とそれを手で押しのけて椅子に座った。
「こちらに来て日も浅いのに、ミヨは人気があるのね」
「モテすぎるのも困りますぅ。あ、でもこれはモンシラに捨ててきた男からですよ」
誰も聞いてないわよ。口元がヒクつくのを抑えてお茶を頼むと、ドレスの汚れと砂埃を指摘され、先に浴室へと放り込まれた。
「まずはー、埃を落として着替えましょう。そこのタオルで拭けるとこ拭いといてくださいねー。ドレス持ってきますから」
鏡を覗けば本当に全体が埃っぽい。言われるがままに手足を拭いていると、新しいドレスを持ってミヨが浴室へと入って来た。
「結構砂が落ちそうなんで、ここでいいですよね?」
「ええ、お願い」
私の言葉に応えるように、ドレスの着脱に手を貸してくれる。口は良くないけど、相変わらずてきぱきとした動きだ。もうミヨがいないと本気で困るレベルで頼りきってしまっている。
あっという間に髪の埃も落とし結い直し終えた。さっぱりとしたところで、ようやくお茶を出してもらえることとなった。
「そういえば、ハンナはどこかしら?」
「ハンナさんはですねー、今日はモンシラの外交官との打ち合わせ、っと帰ってきたみたいですよぉっとっと……うわぁ」
ミヨのそのあやしげな台詞に、何事かと思い振り向けば、確かにハンナが戻り扉の前に立っていた。
ただし、まるで幽霊みたいに一切の色が抜けたような表情で、満足に歩けない様子のため、ヨゼフが肩をかしている。
「ハンナ!どうしたの、真っ青じゃない!?」
「……あ、リリー様、あ、あ、どう、しましょう……まさ、か」
ぶるぶると震えながらうつむくハンナ。モンシラの外交官と会ってきただけでこんなになるだなんて、一体何の話をしてきたというのだろう。
もう今さらだけれども、嫌な予感しかしない。
ヨゼフにテーブルにまで連れてきてもらい、椅子に座らせお茶を手渡す。一瞬ためらいながらも、それを飲み干したハンナは、少しだけ顔に赤みが戻ったようだった。
そうしてゆっくりと、先ほどの打ち合わせの内容を私たちに話し出した。それは、まあ案の定というべき内容で……
「えーと、つまり、お金は全く出せません、と言われたわけね」
「……っはい、すみません。わ、私がっあれほど、約束を、してきたというのにっ、うっ」
本当に、ため息しか出ない。持参金も持たされていないのに、後で送ると言われた準備金すら出せないと断られるなんてありえないんじゃないだろうか?
勿論、私たちはすでにトラザイドの王宮内に入っているから、食は保障されているが、それは最低限だ。
まだ婚姻が済んでいないため、本来は私や従者である三人の全ての必需品は自分たちで揃える必要がある。
一応この棟にあるものは自由に使っていいと、アクィラ殿下に許可を得ているので、式までは衣も住もギリギリなんとかなるかもしれない。
けれども、今この部屋の中にいる三人、ハンナ、ミヨ、ヨゼフの給金だって全く払っていないはず。だって、一銭も持ってきてないんだから。無休で無給、まさにブラックを通り越して暗黒と呼ぶにふさわしい勤務形態に、雇い主であるはずの私ですらちょっとひく。
流石にこれは見捨てられても仕方がないかも、そう思いながら皆の顔を見回した。
すると、あごに手を置き考え込んでいたようなヨゼフが、ふと溢した。
「……その外交官の一存でしょうか?」
ああ、なるほど。もし偽者のリリコットを崇拝する者の独断ならば、国へ直接頼みなおせばいいのかもしれないけど……
「いいえっ、その……国からの、あの……外務大臣の、署名が……」
あの、ガマ野郎かっ!やってくれたよ、本当に。
しかしムカつくが、外務大臣絡みだと、どっちにしろ国まで届く前に潰される可能性の方が高いだろう。皆同じことを考えたのか、もう思考は次へと移っている顔だった。
じゃあ、と一拍置いてヨゼフが良いことを思いついたみたいに口を出す。
「それならば、騎士副団長にお願いしましょう。おそらく私財をなげうって下さいますよ」
逆に怖いわっ!
なんで、病人から私財没収しなきゃならないのよ。あと、元・騎士副団長な。
全然了承できないと、首を横にぶるんぶるん振って断る。頼むから、病人には余生静かに過ごさせてあげて。
すると、口を軽く尖らし不服そうにしているヨゼフを横目に、ミヨが言いきった。
「ならまあ、当座のお金、この人に頼みましょうかぁ」
そう言って、先ほど読んでいたというラブレターをポケットから取り出した。
「え?誰」
「じゃーん!多分、モンシラで一、二を争う金持ち、銀行家で投資家のコザック男爵でぇーす」
あんたの父親じゃんかっ!
てか、いいのかそれで?
「いいですよぉ。パパを見捨てないでって言ってきたから、有効に使わせていただきましょう」
まるで私の頭の中を読んだかのように、ミヨは笑いながらそう言った。




