彼女たちの失敗
「メリリッサ様!お越しいただきありがとうございます」
王宮の裏庭、溢れる木立で自然のあずまやのような空間に、真っ白なテーブルがしつらえてあり、色とりどりのドレスを着た少女たちが座っているのが遠目に見えた。
そこへゆっくりと近づいて行くと、しっぽを振りそうな勢いでアウローラ殿下が近づき、歓迎の言葉を掛けてくれる。生け垣の中にはまっていた初対面の時とは大違いだと思いながら、お誘いへの感謝の言葉を返す。
はにかみつつ彼女は私をお茶会の席へと案内してくれようとしたが、そこで後ろに付いて歩くヨゼフの存在に気がついた。思わず飛びのくアウローラ殿下。
「きゃっ!」
ああ、ボロ雑巾のようにされたのをやっぱ覚えてたか。
いや、ヨゼフとしてはアウローラ殿下を助けたつもりのはずだが、なんといってもそのやり方がまずかった。
まあまともに扱えば使えたはずのカーテンレースをホラーハウス仕様にしてしまう彼なので、王女殿下の顔に傷を作らなかっただけでもよしとしなければいけないと思う。
アウローラ殿下の方も、一応助け出してもらった自覚はあるようだから文句は言ってこなかったけど、理屈ではないようだ。私からつつっと距離をとり、お茶会の席へと誘導し始めた。
彼女について歩きながら、後ろにぴったりと張り付くヨゼフに小さな声で告げる。
「ちょっとヨゼフ、少し離れてちょうだい。アウローラ殿下が怖がっていらっしゃるわ」
「申し訳ありません、姫様。俺の仕事は主が第一ですから」
じゃあ主の言うことを少しは聞けっつーの!
今回のお茶会は屋外ということなので、従者はヨゼフにお願いしたのだが、こんなことだったらミヨかハンナに任せればよかったと、ちょっと後悔した。
そうしてお茶会の席に到着すれば、さきほどから見えていたドレスの少女たちがうやうやしく立ち上がり、丁寧なお辞儀をみせた。
ただし、アウローラ殿下に向かって、だけ。
「アウローラ王女殿下、久しくご無沙汰しておりました」
「本日はお天気もよろしく、本当にお茶会日和ですね」
「まあ!相変わらずお美しいお姿に見惚れてしまいました」
キャッキャウフフと無邪気を装いながら、全く私の方を見ようとはしない。あくまでもアウローラ殿下にのみ挨拶をして事を進めようとしている。
え、え?と、殿下が慌てて周りを見回すが、そこについている侍女たちも、もの言いたげな様子ではあるけれども怖くて何も言えない様子だ。
「あの……ナターリエ様、今日は、その……お約束が違われる、かと?」
アウローラ殿下がおずおずと尋ねると、一番年長らしきナターリエ様と呼ばれた少女がしらっと答えた。
「申し訳ございません、アウローラ殿下。本日お約束しました従妹のエリゼが急な発熱をおこしましたの。どうしても殿下とのお茶会に欠席はできないと、代理を頼まれましたので参上いたしました」
「わたくしも、妹のキャローナが腹痛を」
「ええ、わたくしも又従妹のジョセフィーヌに頼まれまして」
ナイスコンビネーション!思わず拍手を送ろうとした。おっと、いけない。
つまりあれか、アウローラ殿下のお茶会に私が出席すると聞いて、ちょっかいかけてやろうと集まってくれたわけか。思っていた以上に直接的に行動にでてくれたのに驚いた。突然の参加のわりには行動が早いから、きっと動向はみられていたんだろうなあ。
けど、メリリッサの悪評のわりには今までこういったことが起こらなかったのが逆に不思議に思っていたので、当然かという気持ちにもなった。
パッと見、今ここに居る彼女たちの年齢はほぼ私と同じくらいだろう。
あのアクィラ殿下の婚約者が悪名高き公女ならば、あわよくば取って代わることが出来るかもと思っても仕方がない。まあ気持ちもわかる。
ただ、それをアウローラ殿下のお茶会でやろうという根性は気に入らないな。
義理の妹になろうというアウローラ殿下が率先して私をいじめようとしているのならまだしも、明らかに駒として使われている。
気が強いところがあるとはいえ、年長の少女たち相手にどこまで言っていいのか困っているようだ。可哀想に、おろおろとしてるじゃないの。
軽くプチっと切れた私は、アウローラ殿下に向かい手を取った。
「さあ、アウローラ様座りましょう。私喉が渇いてしまいましたわ。今日のお茶は何かしら?」
そう言ってヨゼフに視線を向ければ、彼は礼儀正しい仕草で私の椅子を引いてくれた。すると近くに付いている侍女が慌てて殿下の椅子を引き、二人仲良く椅子に座る。勿論、ナターリエ様とやら三人の少女たちはほったらかしにして。
にこにこと笑顔をアウローラ殿下に向けて、昨日の王妃殿下にいただいたお茶はとても美味しかったですわねーなどとはっきりとした声で自慢をすれば、立ちっぱなしのナターリエ様の拳がぎゅっと握られた。
それでも放っておきながら話を続けようとしたところで、我慢の限界が来たような貴族の少女が唸るように声を吐き出した。
「アウローラ殿下……あのっ、」
「トラザイドでは、下の者が高位の者に向かって先に声をかけてもよろしいのでしょうか?アウローラ様」
その声を遮るようにして間髪入れずにそう私が質問すると、少女たちだけでなく周りの人たち全員、ヨゼフ以外の者が驚きこっちを見る。
「モンシラでは、まず高位の者から声が掛からなければ下の者は話など出来ません。こちらはとても自由なのですね。楽しそう」
クスッと見下すような笑い方をすれば、ナターリエ様と呼ばれた少女が美しく装った顔を歪めながら怒りをあらわにする。
でもね、こんなのは貴族の教育で一番に習うことでしょ?
「し、下の者ですって……?この私を?バスチフ侯爵家の私にむかって?」
事実じゃん。それにあんた、私に向かってだけじゃなくて、自国の王女殿下に向かっても同じような態度で接したのよ。
「あら、侯爵家のご令嬢でしたのね。いいわ、こちらの慣例なら仕方がありませんね、許しましょう。私はモンシラ公国第一公女メリリッサです。よろしく」
思いっきり上から目線で自己紹介してやった。向こうも勿論わかってるだろうけど、こういうのははったりが大事なのよ。やられっぱなしは性に合わない。
……なんかいかにも『悪公女』みたいな名乗りになっちゃったけど、まあいいか。
今さら悪評の一つや二つ増えたところで仕方がないわと諦めた。




