お茶と模擬戦と私
なんでこんなことになっているかなーと、ただひたすらに考えている。
目の前は運動場のような開けた場所。動きやすい服装で訓練をしていただろう見習いらしき少年たちが、急いでその片づけをしていた。
それを少し偉そうな態度で指揮しているのが、彼らよりも年長の、新米騎士といった風情の青年たちだ。多分、年だけなら私の護衛騎士であるヨゼフと似たり寄ったりに見える。
そのヨゼフといえば、私から離れたところで、見習い少年から剣のようなものを手渡されていた。
握り具合を確かめるように、軽く振り下ろす真似をしているけど、あれって真剣じゃないのよね?
心配になって見つめていると、彼は見習い少年に向けて二言三言話しかけ、違う剣を持ってきてもらっていた。
新しい剣を渡されるとぎゅっぎゅと柄を握り、OKを出す仕草をしたから今度の剣は大丈夫そうだ。少なくともこれから始まる模擬戦とやらで使えそうなのだろう。
そうこうしているうちに、準備が整ったようだ。
私から見ればやたらと装飾華美な服装の青年が剣を片手に現れると、見習い少年たちが大きな棒を四方で持ち上げた。てっぺんに赤いハンカチくらいの布が付いたそれは、模擬戦場のラインみたいなものなのか。そう広くもなければ狭くもない、中学の体育館で見た剣道の試合と同じくらいの大きさだ。
ただ、これは模擬戦と言ってはいるがスポーツの試合じゃない。剣道みたいに防具だってつけるような様子はみじんもなかった。
装飾華美の青年は、登場と同時にまずこちらへ向かい恭しく頭を下げる。
先ほど紹介されたバスチフ侯爵家令嬢ナターリエ様の護衛騎士だという彼は、見た目も仕草もなかなかのものだった。栗色の長髪を一つに結び、若干垂れがなち目もまあまあイケメンの部類だと思う。
侯爵家令嬢の護衛騎士を任せられているという自信もあるのだろう、装飾も相まって色々とキラキラ輝いている。
周りで見学している見習い少年たちからの期待と憧れの目もすごいから、きっとそれなりに強いはずだ。
さーてさて、そんないかにもといった騎士の見本のような青年の隣で、呑気に欠伸してるヨゼフの姿が見えるのは気のせいだろうか?気のせいじゃないな。
なんかキラキラさんがその様子を見て苛々しているように思えるし。
その態度は完全に煽ってるわー。
ちょ、いい加減にしなさいよヨゼフと言ってやりたいけど遠いので我慢する。そうして、小さなため息を吐いた。
するとそんな私の姿を見て、少しニヤニヤしたような顔でこちらを窺ってくる少女たち三人と、酷く困り顔のアウローラ王女殿下。
本当にもうっ!どうして、なんで、こうなった?
***
「アウローラ殿下からのお茶会のお誘い?」
「はい。アウローラ王女殿下のご友人とのお茶会だそうですが、大変急な話ですわ。こちらの方々はリリー様のご予定を全く気にして下さらないようです」
キリキリと棘のある言葉を吐くハンナ。どうも昨日から彼女のトラザイド王家に対して当たりが強くなっているようだ。
「お断りいたしましょうか?」
でも真っ先にその言葉が出るのはまずいよ。
急には急だけども、そもそも私に用事も予定もないからね。
「いいえ、ちょっと待って。お受けしますと、伝えてちょうだい」
結婚式までひと月を切ったところだし、一応昨日ウエディングドレスの最終調整をしたとはいえ、もう少し何かあってもいいような気もする。
ただ何も言われていないので、こちらから勝手に出来ることもなく、手持無沙汰なことは確かだ。
だったら、アウローラ殿下からのお誘いを受けて、おしゃべりをするのもいいだろう。
この二日間会ってみた感触としては嫌われてもいないようだし、この際なら義理の妹となる彼女と交流を深めてみるのもいいものだと簡単に考えたのだった。
それからはミヨの「わーい!」と言う喜びの声とともに、身支度に取り掛かった。屋外でのお茶会ということらしいので、少しでも涼しげに見えるようにと、水色のドレスを選び、濃い青と白のリボンで髪を結った。勿論つける香水はリーディエナだ。
「ねえミヨ、耳の後ろに付けるのは止めてちょうだい」
「えっ、そこはアクィラ殿下にだけですかぁ?」
「違いますっ!」
逆よ、逆!耳の後ろに付けられると、アクィラ殿下を思い出すから嫌なんだって!
顔を赤くして反論する私に向かい、仕方ないなあみたいな顔をしたミヨは、手首と胸元に少しずつリーディエナを振りかけた。
「ほほほ、ここなら香りが周りにもよくわかりますからねー。お茶会メンバーに気張って見せびらかし、違うか?まき散らしてきてくださいねー」
「何をよ……」
取り繕うことも忘れて素で聞いてしまった。
まあ今は鏡台の前でミヨにしか聞こえてないからいいか。どうせこの娘も同じようなものだ。
「ええと、アクィラ殿下のマーキング跡?」
「マーキングはされてませんっ!」
違うでしょうよ。香水がいつからマーキングになったの?
「似たようなもんですよぉ。だって、これ香料の濃度すっごい高いですよ。多分市販されてません」
え、マジ?
クンクンと自分で嗅いでみるが、そこまで強い香りではない。しかし、少量付けただけだというのに、きっちりと甘い香りがまとわりついているのはわかる。
「まあ大丈夫です。その違いは、この国の貴族、特に地位が高い女性ほどわかると思いますよぉ、きっと」
ちょ……嫌なこといわないでよう。今からその、高位の貴族令嬢たちが集まるお茶会に行くっていうのに、なんかめっちゃ不吉な予感しかしないんですけど……
少しでも落ち着こうと、大きく息を吸って深呼吸をする。でもそれが、かえって思いっきりリーディエナの香りを吸い込んでしまうことになった。
いい香りなのに、ちょっと咳き込む。
……ああ、みんな気が付かないといいなあ。




