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?3(ハテナサンジョウ)

 トラザイドの伝統だからという言葉通り、アクィラ殿下はドレスの用意をしてくれているらしい。

 らしい、というのは当然ながら、まだそのものを見ていないから出た言葉だけれど、信用はしている。


 大体、リリコットの持ち物にウエディングドレスは見かけた覚えがないので、本当に結婚式を挙げるというのなら、私は殿下のその言葉にすがるしかないのだ。

 だから、その採寸もした覚えもないドレスが、どのような経緯でどのような出来になっているのかは知らない。

 そしてその全く想像も出来ないドレスの最終フィッティングが明日の午後に行われると先ほどの散歩の時にアクィラ殿下から伝えられたのだ。


「一応本縫いまで出来ているらしいのよ」

「へー、ちゃんとしてるじゃないですかあ。で、何が不満なんですか?デザインが決められないと嫌とか?」

「不満はないわ。伝統のデザインがあるのならそれでいいのよ。どうせ何もドレスのことなんかわからないから」

「ならいいですけどー。本縫い……サイズどうしたんでしょうね?」


 そこは、あのそつがなさそうなアクィラ殿下のことだ、公国の御用達のところへ手を回して、メリリッサのサイズくらい手に入れていたのかもしれない。

 リリコットとメリリッサの体型はほぼ同じだからまあ大丈夫だろう。


 ただ、一番気にかかることはそこじゃなくて、もっと大きなところだった。


「ハンナ、念のためにもう一度尋ねるけど、今までウエディングドレスの話は全く聞いたことはないのよね?」

「ありません。そもそも、こちらへ嫁ぐための様々な取り決めごともあったと思われるのですが、いっさいこちらへ伝わることなく、トラザイドへきてしまいましたので」

「……そう。わかったわ」


 うーん。ハンナの答えを聞くだけでも首を捻りたくなる。

 流石に王太子と公女の結婚は、国同士の問題になるはずだから、その辺りを私たちへ伝えないと言うのもおかしな話だと思う。

 そうでなくてもトラザイド王国とモンシラ公国は統一硬貨を使用しているほど密接な関係だ。


 リリコットの勉強の成果として覚えている。

 八年ほど前に見つかった新しい鉱山資源と、騎士たちが率いる軍属のお陰、あとコザック男爵家のような銀行家、資本家たちの海外投資などが実を結び、なんとか国として生き残れているが、十年前はそれこそ第二のボズバール国として、いつトラザイドに統合されてもおかしくない状況だったのだ。

 確か鉱山資源だって、トラザイドの協力があっての資源発掘だったはず。


 隣に位置し、それほどまでの友好国との婚姻に、何故ここまでケチをつけたがるのかわからない。

 外務大臣の汗っかきのガマみたいな顔を思い出す。なんというか、ここ最近地位のある人と接する機会があったせいでわかるようになったのだが、その中でも彼はあまり有能には見えなかった。

 もしかして、あいつ(ガマ)馬鹿なの?


 それともメリリッサによるリリコットへの嫌がらせが、ただ単に大きくなりすぎてしまって収拾がつかなくなってるだけなのか?

 だとしたら私の親である大公殿下も大公妃殿下も大概無能すぎる。

 少なくともお母様は、私がメリリッサでないことは、知っているはずなのに。


 とにもかくにも、十年以上も親密に付き合ってきた外交政策を、そんなことで台無しにしてしまうのはあまりにも両国民に申し訳ない気がする。

 だから、ここはなんとか出来るものなら頑張って挽回してあげたいとは思う。


 まあ、今のところモンシラでもトラザイドでも、悪公女呼ばわりされてるんだけどさあ。

 そんなことを考えていると、ふと何かが頭の中をよぎっていった。


「十年前……ええと、最近どこかで十年前にという言葉を聞いたことがあるような気がするのだけれど、何だったかしら?」


 私のその独り言に、体力自慢以外ほとんど声を出さなかったヨゼフが答えた。


「十年前なら、俺が姫様(ひいさま)にボスバール語を教え始めたころです」

「ああそうだったわね」


 確かに十年前から言葉を習い始めたと教えてもらった。ただし、その理由まではヨゼフも知らなかったらしい。

 一体リリコットが何を考えて、ボスバの言葉を習いたいと思ったのかの謎は残ったままだ。


 でも、それだけじゃない。もっと、何か大事なことがあったと聞いたような覚えがあるのだ。


 うーん、十年前……十年……何だっただろうか?


 結局思い出せないまま夜は過ぎていき、さくっと次の日の午後になってしまった。


 そしてフィッティングの場所ですと、昨日も見かけたアクィラ殿下の従者の一人に案内され、王宮のメイン棟にある一室の扉を開けてもらったところで、私は唇を噛みしめながら大きく天を仰いだ。


 ああ、なんてこった。こんなことは聞いてないんですけど?


「まあ、メリリッサ。今日もとても美しいのね。ささ、早く入ってちょうだい」


 豪華な調度品の揃う中、それに負けないほどゴージャスなドレスに身を包んだ王妃殿下がソファーから立ち上がった。

 両手を広げ、歓迎の意を示してくれているのはわかるけど、ちょっと待って欲しい。


 ……もしかして私、ウエディングドレスを義母さん(予定)と一緒に見るの?


 マジでーっ!?

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