リフレインで悶えてる
はー……
「姫様?」
ふー……
「ひーめーさーまー」
ほー……
「リリー様っ!」
「っは、はいぃっ!?」
おっと、いけない。ハンナたち三人と話をしようと部屋のなかに入ってもらったのに、つい呆けてしまった。ゴメンね。
とりあえず、人員を割いてもらおうかという話は、三人ともに即決で否決された。
ハンナはともかくミヨとヨゼフにそう言われるとは思わなかったので確認すると、ミヨは面倒が増えそうで嫌だと答える。
ヨゼフに至っては、三ヶ月くらい不眠不休でも戦えるくらいには元騎士副団長に鍛えられたと胸を張られた。元副団長はヨゼフにゲリラ戦の仕方でも仕込んだのだろうか?なんか頭が痛くなりそうなので、そこは聞き流すことにした。
そうして、ドレスの話へと進もうとしたところで、アクィラ殿下からもらったコレットの花を思い出したら、ついつい物思いにふけってしまったのだ。
「大丈夫ですかー?なんか悪いものでも拾って食べましたかぁ?」
「ミヨ……さすがにそれはしないわよ」
いい年した娘が拾い食いはないわ。しかも一応公女って立場ってもんもあるんだからさあ。
「いやだって、さっきからその花を持ったまま、じーっと見てるから、食べたいのかと思って」
野生草花だとは聞いてるけど食べられる花だとは聞いてないわ。てか、食べないわよ、せっかくアクィラ殿下からもらった花を。
ちょっとぷんすかしながらも、ミヨの言葉につられてまたコレットの花を見つめてしまった。
はうっ。うー、なんか眩しい。眩しすぎるっ!オレンジの小さな花一房なのに、すごくきらきらと輝いてみえるんだけどどうしよう。
その上この花を見ると、さっきのアクィラ殿下の台詞がリフレインされてしまって胸がぎゅっと締め付けられる。
『君によく似合う』
このコレットの花を私の髪にさして、彼は確かにそう言った。それからアクィラ殿下は、とても自然に笑いかけてくれたのだった。
勿論婚約者相手にだから、ありと言えばありなんだけど、もともとアクィラ殿下とメリリッサはそんな当たり前の仲ではなかったはずだ。自分が知っている範囲でしかないけど、少なくともリストカット後、最初にここへ来た時にはかなり素っ気ない態度をとっていた。
それがいつの間に、あんな人を口説くかのような言葉をかけ、微笑みをみせるようになったのだろうか?たった五日の間に?うう、悩む……
そしてもっともっと悩ましいことに私は、アクィラ殿下のその態度の変わりようが、どうやらすごく嬉しいと思ってしまったのだ。
だって、あんなに格好良くて、声も素敵で、ちょっと意地悪だけど笑った顔がかわいくて、きつい言い方もするけれど、実は私のことを考えてくれているとか、もうなんてスーパーイケメンなのよ!
逆に聞きたいわ、あれで気にならない人なんているの?
ああもう、反則だ。そう、あの顔、あの仕草、あの態度で『君によく似あう』は反則なのだ。
だから私の胸が高鳴ってしまうのは仕方がないの。だって反則なんだから。
よし、そう思うことで段々と落ち着いてきた。しかしいつまでもこうして花を持ったままでいるからいけないのだと思い、そっぽを向いたままでそれをミヨに手渡す。
ゴメン、持ってて。また見ちゃうと悶えるから。
ほーい、とそれを受け取るとしげしげと見つめ、ミヨは私に向かって尋ねてきた。
「どうしときます?小っちゃい花ですから、このままじゃ水に入れても直ぐに枯れちゃいますよぉ。押し花にでもしちゃいましょうか?」
押し花……その言葉を聞いた瞬間、なんとなく頭の中にまたもやが掛かりはじめた。何故だろうとても大事なことなのに、思い出せない。そんな感じだ。
「姫様?」
「あ……そう、ね。いいかも。お願いできるかしら?」
とりあえず枯れさせてしまうよりはずっといいだろう。もやの行方はともかく、その花はできるだけ残しておきたいと思ったのだから。
「おけおけです。せっかくの殿下からのプレゼントですからねー。綺麗に作っときますよ」
殿下からのプレゼントという言葉に、また胸がきゅっと締め付けられた。
ええ、私どうしちゃってるのかしら、本当に……
なんとも言えない感情を手のひらで叩くようにしていると、用意したお茶を私の前に置き、ハンナが苦々しく呟いた。
「リリー様にはもっと煌びやかで大輪のお花の方がお似合いですわ」
確かに金髪に透けるような青い瞳の美少女であるリリコットは、大輪の花にも負けない華やかさがあるから、その辺に咲いている野生草花の方が似合うなどと言われれば、小さい頃からずっと仕えているハンナが反発したくなる気もわかる。
ただ、それでもとても嬉しかった。小さな愛らしい花をさして『君によく似あう』といわれ、心の奥底から嬉しさが込みあげたのだ。
「ハンナ、私はこの花がとても好きよ。だから、似合わないなんていわないで」
少し悲しそうに眉を下げてそう伝えると、ハンナは顔を赤らめてうつむいた。
「出過ぎたことを口にいたしました。申し訳ございません」
「いいえ、あなたの気持ちも嬉しいわ。私には似合う花がいっぱいあるってことですものね」
リリコットならこう言うだろうというセリフがすらすらと流れ出る。きっと、彼女も心の中でそう思っているからだろう。にっこりと微笑みハンナの手を取ると、苦笑いを返された。
ハンナには少しこういうところがある。あまり馴れ馴れしくすると、困ったような顔をするのだ。
これも主従関係をきっちりしたいという現れなのだろうから、あまり無理強いはしたくないけれど、もう少しだけ親密になっていきたいという気持ちがある。
ここには三人しかいないのだから、徐々にその距離を詰めていこう。
「意外と食虫植物なんかも似合うかもしれませんよぉ、ねえ姫様」
……ミヨにはもう少し遠慮という言葉を覚えていただきたい。その内、『親しき中にも礼儀あり』を叩き込んでやる。そう心に決めた。
「で、そうそう。ドレスの話はどうなったんですかぁ?」
私の心の内など知ってか知らずか、それが本題でしょうとばかりに、ミヨが大きな声でうきうきと尋ねてくる。そういえば、それも話すべき事の一つだった。
ああ、それね。うん。あー……それがねえ。




