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もうどーにもとまらない

 うー……と、こちらに向かい、唸り威嚇するアウローラ第二王女殿下。

 これどうしようかしら?放っておいていいかな、もう凄く面倒くさいんですけど。


 頭を押さえつつ、そんなことを考えている私の心を読んだかのように、ミヨがつんつんと指で背中を突いてきた。


「流石に王女殿下を放り出す訳にもいきませんからねえ。姫様、頼みましたよー!」


 うっ、先手を取られたわ。

 てか、面倒事を全部私に被せる侍女ってどうなのよ?

 確かに侍女の立場で王女殿下をどうこうできるものではないけど、あからさまに押しつけられるとなんか悔しい。

 でも認めたくないが、私の、というかメリリッサの悪評のせいで、突撃されたかと思えばそれも仕方がない。重い腰をえっこらしょと上げて、アウローラ第二王女殿下へと顔を向けた。


「アウローラ王女殿下、初めてお目にかかります。私、モンシラ公国第一公女、メリリッサと申します」


 ドレスの裾を持ち上げ、丁寧に挨拶をするけど、彼女からは一切言葉が返ってこない。

 それどころか、ムスッとした表情をずっとこちらへ向けたままだ。


 おおよそ予想はついていたけど、そんなに分かりやすく反感むき出しにしなくてもいいんじゃないかな?

 そんな態度をとられると、こっちもちょっといじくってやろうという気になる。


「あら、申し訳ありません。初めてお会いしたのだと思いましたが、もしかしたら昨夜のパーティーで挨拶させていただきましたでしょうか?」


 そう伝えると、さらにご機嫌は悪くなった。

 うん、昨日見かけた覚えないもんね。


 アクィラ殿下の弟であるオルロ第二王子とイービス第三王子は紹介してもらったけど。

 多分、彼女はまだ成人してないから出して貰えなかったんだろう。


 リリコットが勉強してきたトラザイド王国についての記憶をひねり出すと、確かアクィラ殿下は四人の兄弟がいたはずだ。

 長女のルーナエ殿下は23歳、すでに他国へと嫁いでいるために王宮には居ない。

 次男のオルロ殿下、三男のイービス殿下は18歳と15歳、アクィラ殿下と同じく金髪に透き通るような緑色の瞳をしていた。

 昨晩挨拶をした時、アクィラ殿下ほど目の覚めるようなイケメンではなかったけど、それなりに雰囲気はよく似ていた。


 そしてまだ13歳で、成人していないただ一人の兄弟が、次女のアウローラ第二王女殿下となる。


 生け垣にはまっていた直後の状態ならいざ知らず、こうしてきちんとした身なりで対面すると、私が知っているアクィラ殿下の兄弟の中ではアウローラ王女殿下が彼に一番似ている気がする。

 兄弟全員、輝くような金髪も緑の瞳もトラザイド国王の特徴をよく継いでいるけど、この二人はさらに美人で名高い王妃殿下の目元口元を模していた。

 まあ、今のこの口を尖らして唸っている姿はいただけないけど、それでも可愛らしく見えてしまうのは美少女ならではだね。

 お得だなあ、美少女。


「パーティーには出られなかったもの。貴女と挨拶なんてしていないわ」

「そうですか。それではあらためまして、よろしくお願いいたします」


 こちらを睨んだままのアウローラ王女殿下は、私のその挨拶を聞くと、頭をぶんぶんと振り回していやいやをした。


「絶対に嫌よ!貴女と仲良くなんてしない。悪公女なんてお兄様に相応しくないもの、結婚なんて認めないわっ!」


 あー……、ブラコンか。

 まあ、あれだけイケメンならそれも仕方がない。きっと、妹相手には優しいお兄様なのだろう、私に対する態度とは違って。


 しかし、やっぱりその噂はしっかり王宮まで届いていたんだと思って、ちょっと残念な気持ちになった。

 成人もしてない王女様が知っているということは、仕えているもの含めて、この王宮にいるほぼ全員の知るところだろう。


 ははは、一度だけ庭に出ただけでそれを知る事になったのは、効率がいいといえばいいのかな?

 まあいいや。次は、アウローラ王女殿下以外の噂に対する反応を知りたい。


 とりあえず口ごたえせずに、悲しそうな顔を作り、じっとアウローラ王女殿下を見つめてみた。

 するとなんだか慌てたように手を動かし始める。


「それからっ、こ、こんなドレスなんかで私を懐かせようだなんて、無理ですからね」


 そうして、ドレスをどうにかしてやろうと思ったのか、手を掛けかけたところで、ぐっと手を握りしめて動きが止まる。

 色の濃いピンクに繊細なレースの刺繍はとても可愛らしい。自分でも似合っていると思うだけに、下手に手が出せないのだろう。

 それに、王女殿下を破れたドレスで王宮内を歩かせたくはない。だから横からこそっと助け船をだすことにした。


「とてもお似合いですよ。折角ですからぜひ受けとって下さい、アウローラ王女殿下」

「えっ……で、でもっ、だって、だって……」

「お部屋に戻る間だけでも。そちらのドレスはお気に召しませんのでしたら、捨てていただいて結構ですから」


 ね。そう言って、にこりと笑って見せると、ぼっと急に顔を赤らめてアウローラ王女殿下は大きな声で叫んだ。


「わ、私はっ、人のものを借りて、勝手に捨てるなんてことはしないわよっ!」


 おおう、びっくりした。

 そう力を込めて言い放ったアウローラ王女殿下の可愛らしい顔は、赤く染まり目元にはうっすら涙が滲んでいる。


 ツ、ツン?


「……そう、ですか?でも、よろしいのですよ。私のドレスなど、見たくもないでしょう?」

「そんなことないわっ、凄く可愛くて、綺麗でっ、ピンクにこんな素敵な刺繍みたことないの。私こんなドレス欲しかったっ……あっ!?」


 デレたっ!?


 うわっ、ちょっと、いやすごい可愛いっ!

 あまりに見事なツンデレ具合に感動した。

 思わず見惚れていると、耳まで真っ赤にしたアウローラ王女殿下が、小動物のようにプルプルと震え出す。


「ええと、アウローラ殿下……?」

「わ、わ、わ……私、ちゃんと返すんだからね!勝手に捨てないんだからねーっ!」


 そう言い捨てると、半泣きで部屋の扉を思いっきり音を立てて開け放ち、飛び出して行ってしまった。

 あのドレスでダッシュをする姿に呆気にとられ、ヨゼフに送ってやってと伝えるのも忘れてしまった。


「まあいいか。王宮内だし、迷子になることはないわよね」


 独り言を漏らし部屋に戻る。そうしてミヨの、面白い子ですねえの言葉に、本当にねと、大きく頷く。

 本当に面白くて可愛かった。

 あんな態度をとられると、やたらちょっかいをかけたくなる。

 口に出しているほど嫌われてはいないのかな?そんなふうに悠長に考えていると、洗濯や細々した仕事で王宮のメイン棟の方に行っていたハンナが帰ってきた。

 そうして何か言いにくそうな表情を向けて口を開いたのだ。


「あ、の……リリー様。あちらの方で、その、アウローラ王女殿下が部屋に連れ込まれたあげく、リリー様に泣かされて飛び出して来たと、噂になっていますが……」


 ほーう……うん、あれだ。

 噂ってマジ怖い。一度走り出すと、もう全然止まらないね。

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