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ミヨルカ~姫様と私~

「私は、リリコット様に一生を捧げさせて頂きたいと思っております」

「私も、ぜひリリコット様のお側に付かせて下さいませ」


 双子の公女様付きの侍女の一人がそう訴えると、みんな堰を切ったような勢いで後に続いて行く。

 私も、私も、聖女のようなリリコット様へお仕えしたいと、大国ガランドーダへ行く気満々らしい。


 キツい目をした侍女頭の前に立たされただけでも面倒くさいのに、なんか茶番劇のようなものが始まったおかげで欠伸まで出そうになった。


 なあんで気がつかないのかなー。

 みーんな、間違えてる。違うか、騙されてる、だ。あの狐っ()に。


 私の一家はモンシラ公国の東の隅っこ、ジャスカで農牧場を経営している。ただそれも、爺ちゃんが亡くなってから、母さんと兄さんと私の三人、それから数人の牧童たちとやりくりしてきたが、どうにもこうにも上手くいかなくなってきた。

 今まで何でも野生の爺ちゃんに頼り続けてきたツケが回ってきたからそこは仕方ない。


 けど、そこで口を出してきたのが、家の農牧場の出資者でもあり私たち兄妹の父親でもあるコザック男爵だった。

 公国でも一、二を争うほどの銀行の頭取なだけあって、爵位以上に金を持ってるこの父親は、金を出す時には必ず担保を要求してくる。

 今回も、新たな資金繰りに対しての対価を一方的に言われたのだが、それが、


「はっ!?何言ってきたのよぉ、あの金転がし虫は!」

「ちゃんと聞け、ミヨ。あいつは、お前に、公女殿下の侍女になれ、だとさ」


 父親は何時もどんな時もろくでもないことばかりを言ってくる。


「はぁあああ!?」


 訳が分からないんですけどぉー!

 爺ちゃんが亡くなってから、跡を継いだ兄さんと母さんがあれやこれややっていたけど、どうにも来年蒔く分の種やらなんやらが足りなくて、頼んだ結果がそういうことらしかった。


「今年、第一公女殿下がトラザイドに、来年第二公女殿下がガランドーダへ嫁がれるから人手が足りないんだと。一年でいいらしいぞ、どうする?」


 なる程、大公様に少しでも顔を売りたい訳かぁ。

 妾腹とはいえ、一応男爵家の娘として認知されているし、田舎にいながらもそれなりにちゃんと勉強はさせてもらった。何せ、金だけはあるから、こんな田舎でも住み込みの家庭教師を雇えたもん。


 別に侍女として働くのは気にしない。ぶっちゃけ農場の肉体労働よりも絶対楽チンだろうしね。

 あと、何といっても首都だしー、最先端のファッションを肌で感じられると思うと、ぜひぜひ!と、こっちからお願いしたいという気持ちもある。


 ぐぬぬ。なんという好条件だ。けど、農牧場の方も人手が減っていいもんか?

 ……ちらりと、兄さんの方を見てみると、全く気にしていないように答えられた。


「人手の分は親父のポケットマネーから貰う約束をした。あれで親父も、年ごろのお前が気になって仕方がないんだから、一年くらい行って楽しんでこい」


 まあ、実はわかってた。

 いつも担保という言葉でしか要望が言えない父親は、結構私たち兄妹が好きらしいということを。てか、母さんにベタぼれだし。


 じゃ、いいかー。と、一年間限定の侍女仕事を、半分くらい物見遊山気分でと軽く考えながら、故郷ジャスカを後にしたのだった。


 そうして辿り着いた公邸は、見たことないくらい広く、沢山の豪華な物で覆われていたけど、正直大して趣味ではないそんな物はどうでもよかった。

 私にとって、そのキラキラしい中で一番目を引いたのは、やっぱり双子の公女様たちだったのだ。真っ白い肌にはシミの一つもなく、大きな瞳は深いのに透き通るような青。艶やかな金髪に愛らしい唇から零れる言葉はまるで音楽にしか聞こえない。


 えー!こんな美少女を飾り立てられるの!?やった!    

 侍女とか、超ラッキーじゃん!と、思った。


 悔しいけど、あの父親は私の趣味をよく理解してるわー。

 名だけでも貴族の娘な私は、二人にとても近いところで仕えることが出来たのだ。


 そんなこんなで二人の公女様に仕えていると、顔は全くといって区別ができないのに、その資質の差がくっきりはっきりとわかってきた。


 根性がひねくれまくり、何もかも自分の思い通りにさせようとするのがメリリッサ様で、哀しすぎるほど優しくて、自分の意見すら飲み込んでしまうのがリリコット様。

 これはもう、私だけでなく、侍女たち全員の総意だった。


 けど、王宮の外に住む貴族たちは全く気がつかない。それくらい上手にメリリッサ様は嘘を吐く。

 公務の失敗もサボりも、それは全部リリコット様のせい。メリリッサ様は完璧な公女で、リリコット様は癇癪持ちのどうしようもない公女だと。


 公邸で働く公女付きの侍女たちも、今は主の悪口は黙っているけど、嫁に行ってしまえばどうなるかわからないのにね。

 そんなふうに考えているところに、あの舞踏会での断罪が起きたのだった。


 婚約者のリリコット様の為に、大国ガランドーダのロックス殿下が、悪い姉君メリリッサ様を追い詰めたのだと、侍女たちは拍手喝采だった。


 物語のようなお話に、うっとりしながら夢を見るように吹聴して回る。貴族に、騎士に、家族に、一般庶民に。

 愛し合っている二人は、悪を退けてめでたしめでたし。

 そして、私もあんな恋がしてみたい。私もリリコット様のようになりたい、と締めるのだ。


 ちゃんちゃらおかしいわ。


 どうしてみんな気がつかないんだろう。ぷんぷんと匂わせた香水の下、拭いきれない臭いを放つメリリッサ様のことを。

 爽やかな香りを身の内から匂い立たせるリリコット様とは全然違うのに、と。


 なんとなくもやもやした気分でいると、とうとう私の番になった。まだここに来て三ヶ月目の私は、一番最後だったらしい。


 リリコット(真)様側には二人、乳姉妹だというハンナさんと、護衛騎士から赤髪のヨゼフだけ。

 リリコット(偽)様側には、その他大勢。


 元々私の期限は一年と決まっているから、別に二人のどちらかを選ぶ必要もない。

 いちいちこんな茶番につき合わず、さっさと引き上げてしまってもコザック男爵(父親)だって気にしないはずだ。


 けれど、私は野生の爺ちゃんの血を、誰よりも引く者としての自負がある。

 リリコット様とメリリッサ様の匂いだって一発で見極めた。


 兄さんにも、楽しんでこいと言われてここへ来たのだ。

 だったら自分の本能に従ってもいいかな。

 ニンマリと笑顔を作って答える。


「私は姫様に付いて行きますわ」


 そうして、トラザイド行きの馬車に乗ることになった。


 私の言葉を聞いた姫様(リリコット様)は、その青い宝石のような瞳を潤ませていた。ああ、可愛い!

 狐っ娘(メリリッサ様)は一瞬だけ眉をひそめたけれど、何もない振りをした。ザマーミロ!


 それから出発の日には、コザック男爵(父親)がなんか泣いてたみたいだけど知ーらない。


 モンシラよりも大きなトラザイドは、もっと素晴らしいファッションでいっぱいだろう。

 そんな最先端のドレスやお化粧で飾り立てる姫様は、更に美しくなるに違いない。

 あー、楽しみだ。

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