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ありあまる驚

 アクィラ殿下の厳しい言葉に思わず目を見張った。

 メリリッサは私が幸せになるのを邪魔しに来たのだと、殿下は口にしたのだ。


「まさか、そんなことで?わざわざここへ?」

「前にも言ったことがあるだろう?あの女の行動原理は単純だと。私は今日実際に会って、その考えが間違っていないと思った」

「え、ええ。確かに……」


 それは聞いた覚えがある。けれども、そんなバカなと言いたくなるのも仕方がないだろう。


「だから真っ先に考えられることとすればやはり――私たちの結婚の儀を台無しにすることだろうな」


 今度はあごが外れそうなほど驚いた。

 いや、この流れでは当然その答えが正しいと思う。思うけれども、おかしいと感じるところもある。


「でもどうやって知ったのでしょうか?私が今とても幸せなのだと……こちらへ来てひと月と少し、その間にここまでアクィラ殿下と親しくなれるなどとは誰も思ってはいなかったと思うのですが……」


 そう、アクィラ殿下自身にも、私がリリコットだという絶対の自信はなかったはずだ。

 それに私だって理由はまだ思い出せてはいないが、リストカットという事件まで起こしていた。


 隣国のモンシラですら手紙の早馬を飛ばしてもそう簡単には届かない中、それよりもはるか遠くのガランドーダの王都でロックス殿下と共にいるはずのメリリッサが、私の現状を知りえた上で邪魔をしにきたとは考えられない。

 百合香の世界ではないのだから、物理的に距離を飛び越えて情報を伝えることは出来ないのだ。


 不思議に思いながらアクィラ殿下へと顔を向けると、何故かそこには満面の笑みをたたえた殿下の姿があった。

 こんな顔をされるようなことが何か今あったっけ?


 あれ、何か違う?

 ちょっと引き気味にのけ反ると、私の肩に置かれた殿下の手に力が入る。そうしてぐっと体を引き寄せられた。


「そうか。リリーは今、私とこうしてここに居ることが、幸せだと言ってくれるのだな」

「あ……」


 いっ、言っちゃたよね。うーん……恥ずかしい。

 メリリッサがどうやって今の私のことを知ったのかと考えていたら、つい本音が飛び出していた。


 キラッキラの瞳にとびっきりの王子様スマイルが眩しくて顔を伏せると、その頭のてっぺんにキスを落とされた。

 顔だけでなく首まで火照るのが自分でわかる。

 なんかもう、何をしてもアクィラ殿下に好きなようにされてしまう。ぐぐぐ、と顔に力を入れて耐えていると、耳もとをくすぐるような風と共に大丈夫と心強い声が下りてきた。


「大丈夫だ。リリーの幸せを、絶対に邪魔などさせない」

「……アクィラ殿下」

「勿論、私の幸せもだ」


 そう言って悪戯そうに笑う顔は、なんとなく昔のアクィラ殿下を思い出させた。それから、ヨゼフたちに向かい、指示を出す。


「カリーゴ、大公妃殿下に面会を申し入れろ。時間はいつでもいい、なんとかして聞きたいことがある。それからヨゼフ、お前はその間に師匠とやらを絶対に捕まえるんだな」

「……お母様と面会ですか?」

「ああ、今日の様子だけを見れば、大公妃殿下は決してあの女の味方にはみえなかった。一度腹を割って話を聞きたいと思っている」


 メリリッサに対してちくりと釘を刺すようなものの言い方もあったのを思い出す。そういえば、確かにお母様の今日の言動は全て私よりだったように思える。


「アクィラ殿下、諸侯との面会もありますし、今日明日はもう予定に空きがありませんが」

「それを詰めるのがお前の仕事だ。明後日の結婚の儀までに必ずセッティングを」

「アクィラ殿下、骨は拾って姫様に渡しておいてください」

「勝手に墓に入れ。ただし、結婚の儀が終わってからだ」


 普段から顔色を変えない二人が、もの凄く嫌そうな顔をして、うええ、と声を出すと、それを肯定の返事ととったアクィラ殿下はすくっと椅子から立ち上がった。


「愛している、リリー。では、儀式の日に会おう」


 私の手を取り優雅に指先へとキスを落とす。それからふっと小さく笑いかけ、踵を返しカリーゴ様を従え王宮へと帰っていった。


 私はその後姿を見送りつつ、生温いヨゼフの視線を受けながら、真っ赤になった頬を落ち着くまで押さえつけていた。


***


「まーた、隙あらば姫様を口説きますねえ。アクィラ殿下は」

「王太子殿下と王太子妃殿下が仲良きことは、国民にとっても喜ばしきことです」


 ようやく頬の赤みの落ち着いた私が部屋にたどり着き、ハンナに手伝いをしてもらいながら着替えをしているところに戻って来たミヨとファルシーファ様の第一声がそれだった。


 もう今さらその話をどこから聞きつけたのかだなんて尋ねることを止めた。

 むしろそのSNSばりの拡散のお陰で、アクィラ殿下とのラブラブっぷりが広まり、悪公女の噂が下火になったのだからと開き直ることにしたのだ。


 それよりも、ミヨとファルシーファ様が確認しに行ったという新しいドレスとはどうなったのだろうか。

 すでに明後日まで差し迫った結婚の儀のドレスのことだけに、気になって仕方がない。


「あのね、そのことよりも……ねえ」

「そうですよー!姫様!そんなことよりも、私すっごいこと聞いちゃったんですぅ。聞きたいですか?聞きたいでしょう?ね、ね」


 う、うん。目の前にぐいぐい来るミヨの迫力に負けて、つい頷いてしまった。


 一体なんなのだろう。このミヨの様子ならば私に対しての悪評と言うわけではなさそうだけれども、なんとなく悪い予感しかしない。

 また何かやらかしてしまったのだろうか?そんな不安を胸に抱きながら次の言葉を待っていた。が――


「メリリッサ様とロックス殿下ねえ、めちゃくちゃ言い争いしていたらしいですよぉ。これ、本当のホントですって!」


 あまりに予想を飛び越えた話に、今日のお茶会あとのアクィラ殿下の話よりもびっくりして目が点になってしまった。


 というか、ファルシーファ様もこの場にいるのに、その名前で呼んじゃあダメでしょう!

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― 新着の感想 ―
ロックス殿下はメリリッサの本性を知ってるんだね
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