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どうしろと?

 鼻息荒く意気込んで私室へつながる扉を開ければ、なんということだろうか、さっきまでの荒れに荒らされたような面影は全くといっていいほどなくなっていた。

 しかも壊された文机は勿論のこと、ドレッサーからテーブルにソファー、更にはカーテンまでが新しいものに変えられていたのだ。

 早っ!ちょっとヒクほどの総とっかえに言葉も出ずにいたところ、カリーゴ様から丁寧な説明があった。


「何か不都合があってはいけませんので、この棟内ではなく中央棟より取り急ぎ運び入れました。新品ではありませんことをお許しください」


 いやいや、元々ここで使っていたものも中古だったし、そこは気にしないよ。しかも今入れてもらった家具の方が断然新しくて綺麗だよね。


 手を添えてみれば、装飾がとても細かく美しい。

 今朝まで使っていたものはテーブルやカーテンなど一度他の部屋のものと入れ替えはしたものの、そこはやはり物置化していた棟にあったものだけあって物は良くとも古臭い印象だった。それが荒らされた後に替えられたお陰もあってか、がらりと印象が変わって華やかになった気がする。


「ベッドや浴槽は今すぐに変えることは出来ませんが、安全は確認いたしましたので手配が済むまではご寛恕願います」

「そ、そこまでは結構です。これ以上お手間をかけずとも十分ですから。壊れてもいないものまでを替える必要はありませんわ。勿体ないではありませんか」


 何だか大事になってきたぞ。

 部屋を荒らされたことには色々と考えることがありそうだけれど、問題がなさそうならば私は部屋自体には何も思うことは無い。むしろ十分すぎるほど片づけていただいたと思っている。


 これでは下手をすると部屋の改装まで勧められそうだ。

 慌ててストップをかければ、カリーゴ様以下、騎士の皆さんがきょとんとした顔でこっちを見ていた。


 ん、なんかおかしいこと言った?ミヨの顔を見る。

 そうすると、ミヨは遠慮なく笑い声をあげる。


「流石は姫様。豪胆ですねえ」


 その言葉に皆が弾かれたように横を向く。しかも手を口元に置いて笑いを堪えているように、だ。


 は?豪胆って、なに?もしかしてここは怖がるところだったんだろうか。

 こんな荒らされた部屋は嫌だとか、気持ち悪いから家具は全部替えてくれ、とか。


 首を捻りながら考えていると、ミヨがそっと耳打ちをしてきた。


「この状況で勿体ないとかいうセリフ、普通姫様の立場で出てきませんよー」


 それかっ!うわあ、言われてみれば、そりゃそうだ。また素が出てしまった。

 本当に私は騎士の方々とは相性が悪いと思う。

 そう考えながらちょっと遠い目をしていると、カリーゴ様が口角を上げながらとんでもないことをのたまった。


「わかりました、公女殿下の仰せのままにいたします。確かに今からお部屋を改めなくともよろしいですね。明日にはアクィラ殿下もお戻りになられますから、いっそ殿下のお部屋へ公女殿下のお荷物をお運びしましょうか」


 っは!?ちょ……カリーゴ、あんた今なんて言ったぁあ!!


「あ、いいですね。それなら安心できますよ、ねえ姫様?」


 ミヨぉおお!待て!なんで、なんでいきなりそんな話になるの?


 突然の提案に口が金魚のようにパクパクとしか動かなくなる。あれってそういえば酸欠だとなるんだったっけ、エラ呼吸なのに酸欠で口パクとはおかしいねー……って、そんなの考えている場合じゃないっ!


「カ、カ、カリーゴ様?えーと、ご冗談はお止めください、ませ?」

「いいえ、そうですね。突然の思い付きでしたがそれも悪くないかと」


 めちゃくちゃ悪いわ。


「……あー、ほらでも、結婚の儀の前にそれは、外聞が悪いかと思われるのでしょうが……」

「しかし、もう儀式まで二十日をきりました。すでに続き間である王太子妃のお部屋はご用意はできていますし、特に問題はありませんが?」


 問題はありありです。ってか、もうそんなもんなの?


 待って、待って、待ってよ!私、今日自覚したばっかりだよ。アクィラ殿下のことを小さな頃から好きだったんだって。

 そんな私を、何いきなりアクィラ殿下の部屋に突っ込もうとしてくれるのよ。


 嫌ーっ!本当に、もう少し気持ちを整理する時間をちょうだいよ。

 だいたいついさっき、明日帰ってくるまでアクィラ殿下のことは考えないって決めたところだったのに、もうぽろっぽろに剥がれたからね、その気合。


 ふんふんと頷くカリーゴ様とミヨの姿。そしてそれを見ないように顔を背ける騎士の皆さん。


 うーん、もう一回倒れそうだと不甲斐なくも思ってしまった。

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