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青い衝撃

 高価なものなのだろうという予想はしていたものの、まさか準国宝などという言葉を聞かされるとは思わなかった。

 いや、準国宝って、何なのよ。まずそこから知りたいわよ。


 百合香の世界の記憶からいえば、国宝の下っていうと、重要文化財っていうの?そんな名称のついているぐらいの感覚に思える。

 どっちにしても美術館や大きなお寺の奥に仕舞われていて、滅多に人目に出るようなものじゃないくらいの物だろう。つまり、もの凄く貴重で、値段なんてつけようがないという代物。


 顔の筋肉がヒクつく。

 何で、そんなとんでもないものを渡してくれるかな、アクィラ殿下はーっ!?


 そんな私の様子を気にかけたのか、カリーゴ様がここでの国宝と準国宝について教えてくれた。


「公女殿下、我が国トラザイドでは準国宝となされるものは、別段門外不出というわけではございません」

「……そ、そうなの?」


 じゃあ、高級ブランド店の一番目立つショーケースに置かれるくらいなのかと考え、少しだけ胸を撫で下ろす。


「はい。国宝である王冠、王笏(おうしゃく)、宝珠、そして王妃の冠は、国王陛下の戴冠式のみにしか宝物庫から出されることはありませんが、その他の準国宝は王族に限り使用を許されますので」


 ダメじゃん、それ立派な国宝級じゃんっ!


 私の元いた世界にもあったから知ってるよ、その戴冠式にしか使われないヤツって、三種の神器みたいなやつだよね。

 私の感覚だとそれは、国宝よりもさらに上のランクの別世界の物だから、って言っても伝わらないだろうなー……


 ぎゅっと目を瞑って天を仰ぐ。しかし、いくら王族は使用する権利が許されているとはいえ、まだ結婚式も済んでいない王太子の婚約者という立場でしかない私に手渡すとか、どうなんだ?

 この場にアクィラ殿下が居たならば、間違いなくちょっと座らせて説教コースだよ。


 くそぉ、あの時に知っていたら絶対にテーブルクロスを引っ掴んで離さなかったのに。担保だなんてとんでもない。

 お前も止めろよ、カリーゴ。


 敬称もつけるのも馬鹿らしくなって、頭の中で呼び捨てにしてやった。

 そうして口元を歪めながら、ちらりとカリーゴ様の地味顔を睨みつける。


「けれどもそのような大事なものを、このように警備の薄い私に手渡すとは、少々無防備すぎませんか?アクィラ殿下もですが、カリーゴ様、あなたもです」


 一言ちくりと嫌味を言えば少しは溜飲が下がるかと思ったが、カリーゴ様のその返答に思わず息を飲むことになった。


「ええ、それについては反論しようがございません。ですが、この状況ですら、その『白銀の花』は盗まれることなく無事だった――」


 そうだ。これだけ荒らされたにも関わらず、私の部屋にあった中でも一番高価で尊い、宝といっていいアクセサリーは盗まれなかったのだ。

 チェスト自体は何かを探したかのように荒らされているのにも関わらずに。


 これはこの犯人が、ただの物取りなんかではなく明確に何かを探すために私の部屋に侵入し、荒らしていったのだと考えて間違いないだろう。

 それは何か?無くなったリーディエナの香水?いや、そうじゃない。あれは元々ドレッサーの上に出したままになっていたはずだ。あれが目的ならば、時間もかかるのにわざわざ文机をあそこまで破壊しないだろう。

 あれではまるで、その探している何かが見つからないあまりに癇癪を起したかのような様子だった。


 衣裳部屋を見回しながら感じた違和感はなんだったのかを考える。そうしてふっと思いついた。ああ、そうか。荒らし方が違うんだ。


 看護師として働いていた時、入院してきた元刑事さんだったというお爺ちゃんがいた。ひょろひょろっとした体形に似合わず、盗犯係だったというそのお爺ちゃんには、防犯対策を色々と教えてもらったのだが、その時の雑談の中で聞いたことの一つがそれだった。


「あの……癖が、違うように思います」

「癖、とは?」

「衣裳部屋やドレッサーは、こう引き出しを下から引いて探していますよね。だから、いちいち閉めなくても次の引き出しに取り掛かれているようです。けれども文机は違いました。こう、手当たり次第、目についた所から手をつけたようにみえました」


 そう、探し物のプロは時間をかけないため、最短でものを探すらしい。引き出しならば下から探すのが常套だと教えてもらった。


 実際に、この部屋の引き出しは全て出しっぱなしになっている。まあ文机の方は、あれだけ壊されていれば順番なんかは分かり辛いとは思うが、見る人が見ればわかる。

 あの辺りで一番上に散らばっていた用紙は、私がお母様に手紙を書いた時の書き損じだ。

 インク染みが付いてしまったせいで避けておき、後から無事なところを使って折り紙にでもしようかと考えて引き出しの一番下に仕舞っておいたものだった。


 少なくとも二人以上の人間がこの部屋に入り込んだのだと思う。しかし実際入った人数はそれほどは多くないはずだ。多くても三人ってとこではないか?

 それからいくら一番端で私たちしか住んでいない棟であり、警備が手薄になった時間帯だったとはいえ、ここはトラザイド王国の王宮の中である。あまりに多くの不審者が闊歩しているような状況はそうそうありえない。


 少なくとも侵入者の内の一人は、おそらくこの王宮の中に居てもおかしくはみえない人物だろう。だとしたら――


「侍女、なのかもしれませんね。手引きした者は」


 カリーゴ様の呟きに頷く。まさしく私もそう思った。

 侍女ならば万が一声をかけられたところでどうとでも言い訳が出来る。ただでさえ、私が診療室に運ばれてそれを証明できるものがいなかったのだから。


 その上荒らしているとはいえ家具の扱いは丁寧に、けれども下着類をばら撒く嫌らしさ。そしてわざわざあちらの部屋に持っていき汚し台無しにしてくれたドレスは、華やかで美しいものばかりを選んでいたように思える。

 随分と気の付く泥棒だ。

 さらにはリーディエナの香水までちゃっかりと盗んでいった。よくもそれがリーディエナだと気が付き、さらには似たような瓶まで用意してあったものだと感心する。


 ん、んん……待った。いや、そこまでは無理だよね。

 私がアクィラ殿下からリーディエナの香水をもらったことは、王妃殿下やアウローラ殿下の他にも殿下付きの侍女たちも知っているから、王宮内で広まっているとは思う。

 けれどもそれがどんな瓶に入っているのかなんてほとんど知られてないはずだ。そう、アクィラ殿下側の従者を抜かせば、ハンナとミヨ、そしてヨゼフ以外には。


 どうしてこの犯人たちはピンポイントで私たちが部屋からいなくなるのがわかったのか。

 しかも、今日は本来何の予定も入ってなかった。その上、一人は休日なのだ。

 なぜその日に限って私たちは具合が悪くなったのだろうか。


 考えれば考えるほど嫌な考えしか浮かんでこない。

 カリーゴ様の方を窺えば、とても真剣な顔つきをしている。


 もしかして私と同じこと気にかけているのかと、尋ねてみようとしたその時、衣裳部屋と私室を繋ぐ扉からいつもと変わらないようなミヨの声が聞こえた。


「あらー。また激しくやられちゃいましたねえ、姫様」

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