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 セリーヌとエミリアが正式に生徒会役員として任命され、数日が経った。

 学校内でその発表がなされた時には、生徒だけでなくその親世代まで巻き込み、社交界は大きな騒ぎとなった。

 だが、王立学校卒業を前に王子がようやく婚約者候補を二人に絞ったと受け取られ、その反応は概ね好意的なものだった。

 そもそも、ニ十歳を目前にして婚約者が決定していなかった今までがおかしかったのだ。

 王族の重要な任務として、確実に子孫を残すというものがある。後継のいない王族というのは、国を不幸にする。次期国王をめぐって、国を荒らす内乱に発展することが多いからだ。

 ゆえに王太子ともなれば生まれた時から婚約者が決定しているのが普通である。

 だがウィルフレッドがその例に反してどうして今まで婚約者を決定せずにいたのかと言えば、それは隣国であるシモンズ王国との外交関係に原因があった。

 ウィルフレッド王子が生まれた頃、ゲームの舞台であるサンサーンス王国は、隣国であるシモンズ王国と血で血を洗う戦争の最中だった。王族は他国の王族と婚姻を結ぶのが普通である。だが戦争中のサンサーンス王国と関わり合いになることを嫌ったのか、周辺諸国から結婚の申し入れはなく、決定は延期された。

 その後戦争はサンサーンス王国の勝利で幕を閉じたが、両国とも戦争の爪痕は深く、国力が落ちていた。

 ゆえに周辺諸国からの侵略を恐れたシモンズ王国は、国力低下から諸外国の目を逸らすためサンサーンス王国との王族同士による婚姻によって国交復活をアピールしようとした。折よく王の妾の中に王子と年の近い王女がいたというのもある。生まれたセリーヌ女王は、実際には王子だったわけだが。

 だが、この申し出をよく思わない者もいた。サンサーンス王国宮廷の大物であるユースグラット公爵である。

 公爵率いる一派は王国内でも一番の権勢を誇っており、国王ですら容易く無視できる存在ではなかった。

 そして公爵は、戦争に勝ったにもかかわらずどうして敗戦国の姫を娶らなければいけないのかとこの婚姻に反対した。

 そして公爵は、国力が下がっていることにも配慮し、貴族と王族との結びつきを強めるため己の娘とウィルフレッド王子が婚約すべきだと迫ったのである。

 王族は王族と結婚するという常識を無視したこの申し出には、国王も驚愕した。

 勿論ユースグラット公爵の無茶な申し出に反対する一派もいて、そのトップは王子に何かあれば次期国王が見込まれるミンス公爵であった。彼は、この婚約によってウィルフレッド王子とライバルであるユースグラット公爵の国内での権力が強まることを恐れたのである。彼の真の目的は、ウィルフレッド王子が生まれるまで王位継承権一位であった息子に、王位を継がせることであった。

 そして国王は、この次期王太子妃問題で両公爵の板挟みとなった。

 そこでまったくの異例ではあるが、王子の意志を尊重するとして王太子妃候補の決定を先送りにしたのである。

 この頃のウィルフレッドは、まだ十にも満たない頃であった。

 娘をウィルフレッド王子の婚約者にしそこなったユースグラット公爵は、その代わりとして息子のジョシュアを友人として王子の元に送り込み、ミンス公爵の目的を察していた王もまた、これを了承した。

 そして十年の時が経ち、戦争の傷跡は完ぺきとはいわないまでもかなり癒えた。

 人々は次期王太子妃の決定という喜ばしいイベントを、待ち望んでいた。



   ***



 セリーヌだけを生徒会に入れては角が立つということで、エミリアの生徒会入りは意外なほどあっさりと決定した。

 ここ最近のエミリアは熱心に授業や補習に取り組んでいるので、その態度の改善も評価されてのことらしい。

 このことを知らされると、エミリアは大喜びで私に礼を言いに来た。

 あまりにも目を輝かせて何度もお礼の言葉を口にするものだから、こちらの方が恐縮してしまったほどだ。

 実際に決定したのは王子とジョシュアであると何度も言ったのだが、そもそも自分が態度を改めるきっかけになったのは私だからと、涙目になっていた。

 かつて取り巻きをしていた相手にこんな風に言われるとは思ってもいなかったので、思わず挙動不審になってしまったのは許してほしい。

 それでも、かつて見下していた相手に素直に礼を言えるようになったエミリアに、私は好感を抱いた。

 エミリアにはまだ知らされていないが、生徒会役員入りした女子は実質私とエミリアのみである。

 彼女も生徒会に入れると決断したということは、ウィルフレッド王子は彼女を妃として迎えるつもりなのかもしれない。

 王子の考えはまだ聞かされていないが、正直なところアイリスが王太子妃になるよりはかなりマシである。

 そんなことを考えながら、その日私は一人で生徒会室にいた。

 ジョシュアは教師に呼び出されたとかで珍しく席を外しており、私は一人で黙々と書類の山を片付けていた。

 セリーヌとエミリアが正式に加入するまで、まだ少しの時間がある。

 セリーヌは既に着替えなどで生徒会室に立ち入っているようだが、五人体制を本格化させるには新しく机を運び入れたり色々と準備があるのだ。

 私はできればそれまで、生徒会の仕事における分かりやすい仕様書を作りたいと考えていた。

 それさえあれば、私たちの代以降の生徒会にも、きっと役立つはずだからだ。

 更にウィルフレッドとジョシュアの卒業が迫っていることを考えると、世代交代への準備は早めに進めるに越したことはない。

 来年はセリーヌかエミリアを会長にして、私は会計などの地味だが実力の示せる役職がいいのである。

 そんなことを考えていたら、閉まっている扉からノックの音が響いた。

 入室を了承すると、部屋の中にセリーヌが入ってきた。彼女を通した見張りの騎士が頬を染めている。私は彼に憐れみを覚えつつ、立ち上がってセリーヌを出迎えた。

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