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「な、なにを言われたと言われましても……他愛もないことですわ」


「だから、何を言われたと言っているんだ! 他愛のないことでも何でもいい。大人しく喋れ」


 激高という言葉がお似合いなジョシュアの顔は、色白なのでまさに般若のごとくという形容が相応しいような気がした。

 そのあまりの形相に、隠し立てするのはよくないと判断した私は、なるべく穏便に今日あったことを告げる。


「ええとー……セリーヌ様に放課後どのようなことをしているかとの問い合わせがありましたので、ミセス・メルバにお願いして有志への特別授業を行っていただきました」


「それが、『忠告』と一体どうつながるのだ」


 私は、セリーヌから忠告を受けたなどと余計なことを口にした少し前の自分を恨んだ。


「ええーと、それは……」


「はっきりとしろ。でないと後で後悔する羽目になるぞ」


 間近で凄まれ、これ以上答えを引き延ばすのは無理だと思われた。


「た、大したことではありませんわ。ただ少し、疑われてしまったのです。ウィルフレッド様の婚約者を決めるにあたって、エミリア様の有利になるような怪しい集会を開いているのではないかと……」


「なんだそれは?」


 ジョシュアが呆れたような顔をした。

 私も、自分で言っていてなんじゃそらという気持ちだったので、深く頷く。

 魔法があるような世界観ではないのだから、どんな集会を開こうが王子の婚約者決めに対する影響は皆無だろうに。

 だがそれは一方で、そんな些細なことが気になってしまうほどセリーヌの陣営が不利な立場に置かれているという意味でもある。


「もちろん、見られて不味いことなどないですからいつもの補習にご参加いただきましたよ。なんとか納得していただけたのか、セリーヌ様たちは大人しくお帰りになられました」


 そういえば、改めて考えてみるとセリーヌが大人しく引き下がり過ぎのような気がしないでもない。

 だが、彼も自らの派閥におされているだけで、本当に婚約者候補として勝ち抜きたいという思いはないだろう。

 なにせ、結婚などしては自分が男であることを隠し切れなくなってしまうのだから。

 ゲームのストーリーだと、セリーヌは最後主人公への真実の愛に気付き、事故に見せかけて死ぬことで女としての自分を殺し、髪を切って男として主人公を迎えに来るというストーリーだった。

 百合属性のない私でも――いや、むしろないからかもしれないが、迎えに来た彼の男前ぶりはなかなかにくるものがあった。

 すっかり毒気が抜かれたのか、拘束を止めたジョシュアは頭痛をこらえるようにこめかみをおさえため息をついている。


「そういう時は、俺を呼べばいいだろう」


 ここで、信じられないような提案がなされた。


「え、なんでですか?」


「なんでって……」


「私がセリーヌ様に何をされようが、別にジョシュア様には関係ありませんよね? 特に殿下やエミリア様の派閥に不利益になるということもございませんし。むしろジョシュア様を間に入れたらより一層面倒なことになりそうですわ」


 言ってしまってから、思わず口をおさえる。

 あまりにも突拍子がない話なので思わず素が出てしまったが、今のは明らかに言い過ぎだった。

 いくら真実とは言え――なおかつ実行すればより私の立場が悪くなるような提案だったからといって、流石に言い過ぎだった。

 ジョシュアもこれは予想外だったのか、呆気にとられたような顔で私を見下ろしている。


「お、お茶が冷めてしまいましたわね。よければ淹れ直しますわ」


「あ……ああ、いや……」


 ジョシュアがフリーズしている間に、私は帰宅してことを有耶無耶にすることにした。

 せっかく休憩したのに帰るというのも妙な話だが、あんな失言の後では一緒に仕事をするなど無理だ。

 幸い重要度が高い仕事は処理し終わっているので、残りは持ち帰るなりなんなりすればいいだろう。

 私は使用人部屋に立てこもり、ジョシュアのためのお茶を淹れ直すと、自分は書類の束をもって生徒会室を出た。


「お先に失礼します」


 そう声をかけてもまだ、ジョシュアがフリーズしたままだったことを、ここに申し添えておく。


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