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 私の名前はアイリス・ペラム。

 貴族の中では最下位にあたる男爵の娘だ。

 でもそんなことはどうでもいい。なぜなら私はこの世界の主役だから。

 こう言うと痛い女みたいに思われるでしょうね。

 でもこれが真実なの。

 ここはスマートフォン向け恋愛シミュレーションアプリ『星の迷い子』の世界で、私はユーザーの身代わりとなる主人公キャラってわけ。

 地球の人間ならまずありえないピンク色の髪も地毛よ。この世界では珍しくもなんともないという設定だけど。んなあほな。

 どうして私がこんなことを知っているかと言えば、それはゲームが配信されていた日本からの転生者だからに他ならない。

 そのことに気付いたのは、十歳のときよ。

 思い出したときには何が何だか分からなかったけれど、冷静になって狂喜乱舞したわ。だって私が主人公なんだもの。つまり将来は約束されたも同然。

 王子を攻略すれば王妃だって夢じゃないし、他の攻略キャラだって負けず劣らず魅力的だ。

 私がこのアプリをダウンロードしたのは、死ぬ少し前のことだった。

 歩きながら夢中になってプレイしていたら、うっかり赤信号の歩道の飛び出して轢かれちゃったのよね。

 それはそれで悲しいけど、この世界の中でも主人公ポジションに転生できたからもういいの。

 それよりも大事なのは、私がまだ全員のシナリオをクリアし終えていなかったってこと。

 というかメインであるウィルフレッドルートしかまだ攻略できていなかった。

 私の一押しは、彼の乳兄弟である公爵子息のジョシュア様だったというのに!

 最初に攻略対象キャラを選ぶ時、とりあえずはメイン攻略キャラであるウィルフレッド様を選んだのが敗因ね。まさか彼を攻略し終わった直後に、死ぬなんて思ってなかったんだもの。

 そういうわけで、他のルートのシナリオを覚えていないのが悔しいところだ。

 フルコンプさえしていれば、その記憶を元に無駄のないルートで攻略対象キャラを全員落とせたというのに。

 でもまあ、今まで数多の乙女ゲームをプレイしてきたんだから、きっとどうにかなるでしょ。

 この世界に生まれ変わったからには、主人公であることを生かして最大限楽しもうと思う。

 目指すは攻略キャラ全員クリアのハーレムエンド。

 全員の顔と名前は分かってるんだから、きっと余裕よね。

 ただ一つ気になっていることがあって、それは、『星の迷い子』に実装されていた世にも珍しい『ライバルシステム』。

 攻略対象キャラ一人につき、必ず一人邪魔をしてくるライバルキャラがいるの。

 これは実際にシナリオを進めてみないと誰だか分からないシステムになってたから、私はウィルフレッドルートのライバルであるエミリア・ユースグラットしか知らないってわけ。

 いうなれば悪役令嬢ってやつ?

 赤の縦ロールっていうパンチのある外見をしていて、きつめな顔立ちに「おーっほっほ」とか笑っちゃうテンプレートな悪役ね。

 私の推しであるジョシュア様の妹っていうのが、より一層ヘイトを感じさせる。

 彼女にはぜひウィルフレッドルートのシナリオ通り、父親の謀反に巻き込まれて没落してもらいたいものだ。

 あれ、でもそうなっちゃうとジョシュア様も連座させられちゃうのだろうか。

 そのあたりはジョシュアルートの詳細が分からないのが痛いな。

 ウィルフレッド様もジョシュア様もどちらも攻略したいだけに、難しいところだ。


 そんなわけで、人生勝ち組確定だとばかりに、私は心躍らせて王立学校に入学した。

 領地ではお姫様みたいな扱いだったけど、王都までくると貴族もいっぱいいてそうはいかない。

 しかも私の実家は男爵位だし、目上の貴族の失礼にならないようにと、お父様にはしつこいほど言い聞かされた。

 私はこの世界の主人公なんだから大丈夫って言ってるのに、お父様は心配性なのだ。

 入学式で偶然(・・)ウィルフレッド様に出会うイベントも無事こなしたし、学校内を走り回って攻略対象キャラとは全員と挨拶できた。

 これでハーレムエンドはばっちりよと思ってたんだけど、そう簡単にはいかなかった。

 なにせウィルフレッド様以外の好みやよくいる場所が分からないのだ。だからキャラクターを探している内に一日はすぐ終わってしまうし、イベントを起こすのも容易ではなかった。

 授業をサボっている攻略対象キャラを探していると結果的に自分も授業をサボることになってしまうし、でも最低限パラメーターをあげておかないとジョシュアルートはクリアできないし、途中で少しくじけそうにもなった。

 どうしてこの世界にはリセットボタンがないんだろう。

 一日攻略対象キャラの誰とも出会えなかった日など、朝に戻って一からやり直したいと何度思ったことか!

 そうこうしている間に、私は二年生になった。

 一年生は地道にパラメーターをあげたり親密度をあげたりする期間で、本番はウィルフレッド様とジョシュア様が最高学年になる今年だ。

 山場はなんといっても、卒業記念パーティーのダンスシーンとエミリア婚約破棄イベント!

 前世の知識を総動員したドレスも発注しているし、今からその日が待ち遠しくて仕方ない。

 ただ気がかりなのは、ジョシュア様とまだ碌にイベントの一つも起こせていないこと。

 ツンデレな設定が私的には大変ツボなジョシュア様だが、ツンなだけあってなかなか親密度をあげるのが難しいみたいなのだ。

 話しかけてもいつも忙しいからとあしらわれてしまうし、一体どうしたらいいのか……。


 そう悩んでいたある日、登校したら衝撃的な場面に出くわした。


「わたくしたちは執行委員として、新たに生徒会役員となったシャーロットを全面的にバックアップしていきますわ!」


 なんと悪役令嬢のエミリアが、見たこともない女性との手を取ってこんな宣言をしているではないか。

 生徒会役員と言えば、女生徒なら誰もが憧れるウィルフレッド様とジョシュア様を独り占めにできるポジション!

 私もなんとか潜り込もうとしたけど、ジョシュア様は相手にすらしてくれなかった。

 こんなに可愛い後輩が手伝いたいって言ってるのに、あの人ちょっとおかしいんじゃないの?

 改めてエミリアの向かい側にいる生徒をよく見たけれど、見覚えのない地味な女生徒だった。

 きらびやかなキャラが多いこの学校にあって、すぐに埋没してしまいそうな外見をしている。


(盲点だった! ライバルキャラと言うからにはエミリアみたいにアクの強いキャラデザだろうと思ってたのに!)


 どうやら、ジョシュアルートのライバルキャラは彼女と考えて間違いないようだ。

 しかも、主人公にこそ相応しい生徒会役員には彼女が選ばれたという。

 こうしてはいられない。私はさっそく、彼女にとって代わるための策を練り始めたのだった。


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