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011


「そうか……お前はまだ入学する前だったな」


 明らかに何かを語り出しそうな言い回しに、私はどうしようか悩んだ。

 そろそろ暗くなりかけているし、予算の内容に問題がないのなら帰った方がいい気がする。

 別に早く帰りたいわけではないが、ジョシュアと二人でいるところを誰かに見られると面倒なことになる。

 しかしそんな私の考えなどお構いなしで、ジョシュアは語り始めた。


「殿下は……ウィルはこの学校に入学した時、王族であることを理由に入学したばかりでありながら会長に就任することになった。だが、いくらウィルが優秀でも勝手も知らない生徒会長など務められるはずがない。そこで苦肉の策として、ウィルを名目上の会長にし、副会長が実質的に会長の仕事をこなすことになった。当時の副会長は最高学年で最も人望のある生徒で、彼自身王家に忠実な家の出身だったのでそれがうまくはまった。問題が起きたのはその翌年のことだ」


 つまり私が――シャーロットが入学する前ということか。


「俺たちが第二学年になった年、最高学年にはミンス公爵家の子息がいた」


 それだけで、何が起きたのか私はおおよその見当がついた。


「なるほど。その方が王子ではなく自分が会長になるべきだと言い出したのですね? ミンス公爵家が王家から枝分かれしてからまだ百年も経っていません。ミンス公爵家の御子息なら、ウィルフレッド殿下と王位継承権の順位も大きく変わらないはずですから」


 私の推測は当たっていたようで、ジョシュアはかすかに目を見開いた後苦々しそうに頷いた。


「驚いたな――その通りだ。まあ有名だからな。あの男が隙あらば王位を奪おうとしているというのは」


 ジョシュアは忌々しそうに言った

 そんな彼の家も公爵家だが、ユースグラット公爵家が王家から分岐したのはもう何百年も前の話だ。

 それに彼個人もウィルフレッド殿下に心酔しているし、はっきり言ってミンス公爵家の存在は目の上のたんこぶなのだろう。


「そしてあの男は、会長としての勤務事実のないウィルを会長から下ろそうとした。だが、喩え学校の中とは言え、公爵家の息子をウィルより上の立場に置くわけにはいかない。そこで俺とウィルが実際に生徒会を運営する必要が出てきたわけだ。」


「そ、それは大変でしたね」


 思わず同情すると、ジョシュアは皮肉そうに鼻で笑った。


「別に。俺たちは入学前から帝王学をたたき込まれているから、やってみたらむしろこれだけかと呆れたぐらいだ。学生の自治を実現する組織と謳ってはいるが、実際には失敗してもいい場所で将来の予行練習をさせられているようなものだな」


 彼の言い分は、なんとなく分かる気がした。

 日本で私が通っていた高校だって、生徒会役員というのは受験の時内申点の足しになるぐらいの価値しかなかったし。

 生徒による自治を実現したいなんて考える役員はおそらくいなかったはずだ。


「だが、皮肉なことにどうにかなってしまったことの方が問題だった。どうせすぐに泣きついてくるだろうと高をくくっていたいたあの男は、自分の思い通りにならないと知って俺たち以外の役員や執行委員に嫌がらせを始めたんだ。生徒会が正常に機能しなくなり、やむなくウィルは一度生徒会を解散することになった。そして同じ轍を踏まぬよう、できるだけ俺たちだけで運営することにしたんだ。それからもう二年になるか」


 ついさっきまでジョシュアに抱いていた苦手意識を忘れて、私は素直に二人に対して同情した。

 王位継承権を持つ公爵子息が本気で邪魔しようとしたら、逆らえる貴族などいなかったに違いない。

 これが宮廷内でのことなら大きな問題になったはずだが、ことは子供たちが通う学校内でのことである。

 ついでにいうと、王子とジョシュアがどうにかできてしまったから、ことが表面化しなかったのだろう。

 人手不足だとかなんだかんだ言いながら、今日までどうにか生徒会を運営できてしまったから。

 しかし年齢が上がるに従ってウィルフレッド殿下の公務が増えてしまい、その負担がジョシュアにのしかかっているということか。


「もっと早く助けを求めればよかったのに」


「何か言ったか?」


 呆れて呟いた声は、彼には届かなかったらしい。

 本当に不器用な男だ。ミセス・メルバが無理矢理にでも私に補佐するよう命じた理由が、やっと分かってきた。


 それにしても不思議なのは、ゲームにミンス公爵の名前など一度も出てきたことがなかったということだ。生徒会の人数が少ない理由も、ただ単にウィルフレッドが人気すぎて人選に困ってというある意味平和的な理由とされていた。

 そんな陰湿な事件があったというのも初耳だ。


 ――あれ? でも確かゲームの設定では……。


 ゲームでは、ミンス公爵ではなくジョシュアの父であるユースグラット公爵が、娘であるエミリアをウィルフレッドに輿入れさせることで姻戚としての権力を握ろうとしていた。もしエミリアが男の子を産めば、次期国王の外戚になれるからだ。

 ところがウィルフレッドルートではその野心が災いして、一族どころか我が家まで巻き込んで没落することになる。

 一方でその辺りの設定はジョシュアルートにも生かされていて、ユースグラット家の没落と同時に窮地に追い込まれたジョシュアが、主人公のアイリスの機転によってユースグラット公爵として認められ、その父は蟄居という大甘裁定が下されるのだった。

 ライバルキャラでありジョシュアの妹であるエミリアは、ヒロインに手を出そうとした咎で僻地の修道院へ送られ、取り巻きをしていたモブ――つまりは私もその巻き添えになっていたはずである。

 命は助かるだろうが、できれば修道院送りも遠慮したいものである。

 それにしてもと、私はため息をついた。

 ジョシュアは若いのに、なんとも苦労性で一人でしょい込むタイプのようだ。

 こんなにウィルフレッドに尽くしているのだから、できればゲームのジョシュアルート同様、彼には救われて欲しいと私は思った。

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