相棒幼女と激しい接吻
アイリが泣き止んでから、私達は二匹目の紅鋼熊の写真を撮り、魔石を抉り出してから残った死骸を雪に埋めた。その際、後ほど回収する時のために目印も付けておく。
それらの作業が終わってから森の外に出ると、既に日が沈む頃であった。
「これは近くの村に泊まった方がいいな。紅鋼熊の死骸の運び出しも頼みたいし」
「そうね。討伐を知らせてこの魔石を見せればきっと歓迎されるわ」
泣き腫らして目が赤いアイリ。彼女が手に持つ袋の中には大きな魔石が二つ入っている。先程、紅鋼熊から抜き出したものだ。
「これ、いくら位になるのかしら」
「天然魔石でこの大きさは中々無いからな。買取で50万、末端で100万といったところじゃないか?」
普段魔法杖等の魔道具に使用する魔石は人工魔石である。魔力純度は低く使用方法も限定されるが、安価で且つ大きさや魔力量を均一に出来るため、魔道具での使用に向いている。
それに対して天然魔石は、大きさは不揃いで質もバラバラな為、量産される武器等の魔道具での使用には向かないが、希少金属の練成や万能薬の精製等、様々な用途に使用できる。更に、大きく良質なものは大規模な魔術等にも使えるため需要も高い。
「まあ報酬の二百万は魔石代込みだがな。…それより村には温泉があるという話だ。汗もかいたし体も冷えたから丁度いいな」
「……そんなこといってまたスケベなこと考えているのでしょう。混浴はしないわよ?」
アイリにジト目を向けられる。
心外だ、下心など少ししか無かったのに。…まあ、とりあえず普段の調子に戻ったように見えるので良かった。
私がそんな風に思って笑っているのを見ると、彼女は少し恥ずかしそうに視線を落とした。
「……まったく、こんな貧相な体を見てなにが嬉しいのだか」
「何を言うんだ。小さいものは大きいものとまた違った良さがあるんだ」
「はぁ、バカね」
「それに、アイリに体型など関係ないさ。アイリの美しさは内面から溢れてくるからな」
「……バカ」
そんな会話をしながら、私達は魔工馬に乗り近隣の村へ向け出発する。確か3キロ程度の距離であったから、ゆっくり進んでも二十分程度で着くだろう。
薄暗くなった道を魔工馬でゆっくりと進む。この辺りの道は近隣の村で整備しているのだろうが、所々窪みなどがあるので足元には注意が必要だ。せっかく凶悪な魔獣から無事に生還したのに、落馬してここで大怪我など負ったら目も当てられない。
アイリは、行き掛けと同じように私の正面を向いて、抱き付くような体勢で馬に揺られている。行きと少し違うのは、アイリが頬を私の頬に押し付けるように密着していること。腕の力も心なしか往路より篭っているように感じる。やはり未だ少し不安定なのかもしれない。しばらくはしたいようにさせよう。
私は彼女を安心させるために、手綱を持っていない左手で強く抱き返し、背中を撫でた。
アイリと共に戦うようになってもうすぐ8年が経つが、その間、今回のように命の危機を感じたことは何度もあった。そしてその度に二人でこうして生還を喜びあってきたのだ。
「…グレン」
「どうした?」
「いつもの、しましょう?」
「……乗馬中だから後にしないか?」
「ダメ、がまんできない」
「………分かった、いいぞ」
私が応じると、アイリは即座に唇を押し付けてきた。それも普段より強く。こちらは魔工馬の操縦をしなければならないというのに、激しく唇を吸ってくる。先程は「したいようにさせよう」などと考えていたが、次第にそうも言っていられなくなってきた。
「…ッ、っぷはぁ!アイリお前、騎乗中なんだから舌はやめろ!……むぐっ!」
アイリが強引過ぎる。
こんな彼女はこの8年間で何度かあった。思い返すと、それは決まって私が無茶をした時だ。
仕方が無い、なんとかこのまま事故を起こさぬよう魔工馬の操縦を続けよう。
二十分程度で到着するはずの村への道に倍以上の時間を掛けながら、私達は平原の道を進んだ。