第1話
初めまして。山犬ごんと申します。
初めての投稿となり拙い所ばかりではありますが、読んで頂けたら幸いです。
「ああ、死んだわコレ」
衝撃の後に浮遊感を感じ、俺は死を確信した。
そりゃあ車ごととは言え、崖から落ちて無事な奴ぁいないだろうな。死亡事故の多発箇所だったはずだし。
なんでこんなことになったかなぁ。
走馬灯のように今感じている浮遊感をもたらした経緯を思い出す。
今日は休日で、職場と自宅の往復に飽き飽きした俺はドライブへ出かけた。
中古で買った2Lターボかつ四輪駆動のスポーツカーはいつも通りの唸りを上げ、崖に沿って作られた山道を軽快に駆け抜けていた。
中途半端な趣味ばかりの俺にとって唯一と言っても良いアクティブな趣味であるドライブは、久しぶりなこともあって気分爽快だった。
普段はロボットもののアニメを見たりゲームをしたり、インドア趣味ばかりでマンネリ化しちゃってたからな。
たまに行く当てもなくぶらりと車でドライブウェイを流す程度、サーキットへ行くことも無く峠を走る訳でも無い中途半端な趣味だが、俺にとっては十分な気分転換になり、お気に入りの趣味だった。
いつも通るコースでちょうどカーブが多い所へ差し掛かった時だったか。
いきなり壁の陰から現れたのは、世界的にも有名なスポーツカーだ。
名前くらいしか知らないが、GTRとか34とか呼ばれているお高い車だったはず。
問題はその車がカーブを曲がり切れずに対向車線、つまりは俺の目の前へはみ出してきているということだ。
「っ!!」
人間、心の底から驚いた時は声が出ないらしい。
しかも、思いも寄らない行動をしてしまうようだ。
なぜそんなことをしてしまったのか、俺は対向車を避けるようにハンドルを切っていたのだ。崖へ向かって。
そこからは冒頭で述べた通りだ。
ガードレールを突き破って崖から飛び出し、浮遊感に包まれている。
俺、死んだら縮退炉を搭載した巨大ロボットへ転生して悪者相手に無双するんだ……。
『ランダム選別による転移者の確保に成功。自己犠牲による善行ボーナスを獲得しました。希望の固有スキルを生成……成功。続いて転移を実行します。』
おいおい、幻聴まで聞こえてきちゃったよ。
浮遊感は続いており、岩場がぐんぐんと迫って来るのが怖すぎて目をつぶる。
退屈な人生だったけど、それなりに楽しめたかな。
と、視界(といっても目をつぶっているから真っ黒なんだが)が突然白く染まる。
岩場に激突した衝撃で脳がおかしくなったか?
それとも天国に着いたのか?
身体に違和感や痛みはない、というか浮遊感も消えている。
立っているのか座っているのかも分からない、妙な感覚を感じている。
『あなたは行方不明の予定者からランダムで選別される転移者に選ばれました。ご希望の固有スキル:マジカルエンジンを付与され別次元の世界へ転移されます。良い旅を』
また幻聴だ。良い旅を?何を言ってるんだ。
ここが死の旅の終着点こと天国じゃないのか?
身体に感覚が戻って来た。仰向けで寝転がっている、かな?
視界も真っ白から少し落ち着いている。昼間の屋外くらいだろうか。
恐る恐る目を開く。やはり屋外のようで、空や木々が見える。
「生きてるな。なんでだ?」
現実を認識したからか、やたらとチクチク主張してくる草の感覚を煩わしく感じながら身を起こす。
身体の具合を確認しながら、周囲の状況も窺う。
木々の生い茂った田舎だな。少し離れたところに土がむき出しになった獣道が見える。
見回す限りでは電柱や街灯が見えない。
それどころか建築物さえも全く見当たらない。とんでもない田舎なのか?
緑の匂いが濃く、空気が澄んでいる。
田舎の祖父母宅へ遊びに行ったとき以来だろうか。
すぅ~、はぁ~。
思わず深呼吸する。思考を落ち着けるためにもちょうど良かった。
そういえば幻聴が転移者に選ばれたとか言ってたな。てことは、ここは異世界なのか?
転移ものとか転生ものとかよくある小説だと思っていたんだが、まさか自分の身に降りかかるとは。
まぁ、死なずに済んだと思えば棚からボタ餅だな。
両親や友人たちは悲しんだり探したりしてくれるかもしれないし、それには申し訳ないと思う。
だが帰る手段が分からないどころかそんなものが存在するのかも不明な以上、生き延びることを優先しなくちゃならんな。
まずは身の周りを確認しよう。
お読み頂きありがとうございました。
今後もご愛読頂けたら幸いです。