第8話/頭脳戦
「地獄千墜……」
天空からの稲妻の如き斬り下げと、地を抉る低空飛行の斬り上げ。まるで無限を描くように高速飛行するからそう名付けられたのだろう。さっきは神出鬼没の刃の餌食になったが、タネが分かれば避けられる。
「上等だ、全部躱してやる」
余裕が出来たからか、顔に自然と笑みが浮かぶ。
――不自然なまでに余裕。漠然とした違和感がある。
ふと冷静になって考えてみると一つだけ不自然な点が浮上する。
――なぜフルカスはアッサリと地獄千墜の解説をして、手の内を見せたのか?
うっかり喋ったとは考え辛い。フルカスがそんな迂闊な奴だと思えないし、戦いにおいて相手に技の特性を知られる事が致命傷だと知っているはずだからだ。どこの世界に「今からカーブ投げるねー」と宣言する野球の投手がいるだろうか?(いや、いない!)つまりはそういう事である。
じゃあなぜ教えた? 余程自信があるのか? なぜそんなに自信がある? 技の特性さえ分かっていれば回避する対策も取りやすい。そうすれば回避率も……。
と、ここまで考えて俺の脳はある恐ろしい仮説を弾き出した。
――フルカスが俺の回避パターンを研究、解析していたとしたら。
躱す体捌きの傾向や確率をさっきの地獄百墜で見て、対策を練っていたとしたら……。
――地上戦はヤバい。
全身に鳥肌が立ち、俺は本能で後ろに跳びながら両手から闇の炎を噴射する。そのまま飛んでテニスコートのフェンスの上に乗る。俺が0.1秒前に立っていた空間が大鎌で斬り裂かれた。
「へえ、力だけだと思ってたけど君って頭も切れるんだ」
フルカスが地上から俺に声をかける。
「おいおい、酷いこと言うねぇ……。俺を何だと思ってる訳?」
「純粋に褒めてるつもりだよ。回避パターンを適用させない為に空に逃げたか……。ちょっとヒントあげ過ぎたかも」
少し残念そうにフルカスは頭を掻いた。
空中戦をしている限り、フルカスは対陸の地獄千墜を使用出来ない。逆に、一度地上戦に持っていかれたら俺の回避パターンの対策をしているフルカスに瞬殺される。
要は、いかに相手の本領を発揮させないか、だ。
「…………っと」
そんな事を考えているうちに、フルカスがこっちに飛んできた。俺はフェンスを蹴って勢いをつけ、闇の炎で空を飛ぶ。
「フフ、良いよ良いよ面白くなってきた!」
翼をはためかせて、フルカスは楽しそうに叫んだ。……あの戦闘狂怖すぎる。
俺は手頃な樹の上に乗った。と、俺を追いかけてフルカスがすごいスピードで飛んでくる。
「俺の体、あと少し持ってくれよ……!」
そう呟き、俺はフルカスから逃げる。追うフルカス。俺は、動物の本能で空中をあらゆる角度で縦横無尽に飛び回る。フルカスは俺を追いかけ、たまに空中で攻撃の応酬をしたりする。
が、空中での戦いにおいて全くの素人だった俺は、早くもフルカスに圧される。……考えてみれば、フルカスは地獄千墜を繰り出せる程の飛行技術を持っていた。
「チッ!」
俺は舌打ちをして、元居たテニスコートに突き刺さるように着陸した。フルカスもそれに続く。
「僕の勝ち、だね。楽しかったよ」
フルカスがギラリと大鎌を光らせる。地獄千墜をやるつもりだ。死を連想させる刃はさながら死神である。
……解説してる場合じゃねぇ。死ぬやつだ、これ。考えろ、考えるんだ。この状況を打開する方法を。俺は定期テストの時よりも頭をフル回転させる。
――奴に地獄千墜を放たせないようにするには。
――空を飛ばせない、大鎌を使わせない。……翼を折る、大鎌を奪う? 無茶だ。
――いっそ命乞いの真似でもするか? 機嫌をとるか? すべらない話でもやるか? それともあえて怒らせるか?
「……あ」
思いついちゃった。この状況で地獄千墜を封じる作戦。……一歩間違えれば死ぬけど。
「せめて良い断末魔の叫び声をあげてね。……行くよ」
「ちょ〜っと待ったァ!」
俺が両手を上げて大声を張り上げると、フルカスが済まなそうに微笑んだ。
「おっと、ごめんごめん。僕としたことが、遺言を聞くのを忘れていたよ。何かな?」
おいおい……。俺が死ぬ事は確定事項なのか。
俺は少し傷ついたが、悟られまいと嫌味っぽく笑ってみせた。
「今まで戦って感じたけど……お前って大した事ないな。あの一緒にいたブネとか言う奴の方が強いんじゃねーの?」
フルカスの顔から笑みが消えた。
「……何が言いたい?」
「だーかーらー、ヴラドと戦って手負いの上に素手の俺を大鎌で、しかもカッコつけた必殺技を使って必死になって倒そうとする所がスマートじゃないの。お前が俺を満身創痍にしたみたいに見えるけど、ほとんどヴラドにやられた傷だし、お前からは一発しか喰らってないからね?その点、ブネを見ろよ。あいつは己が身一つでヴラドと立派に戦ってるぜ」
「うるさい……! これから死ぬ奴が負け惜しみを……!」
「それだよ! 今にも死にそうなガキ一人相手に、お前は武器が無いと殺せないのか⁉︎ 全力を尽くさないと殺せないのか⁉︎ このクソ雑魚が! もしこれが“結社最強”のブネさんだったら武器なんかに頼らずに自分の腕だけで殺すだろうなァ! “結社最強”のブネさんならなァ!」
俺は声を枯らして、フルカスの顔を覗き込んで挑発する。
「黙れ! この僕があんな汚らわしい動物より弱い訳がないだろう! 良いよ、そこまで言うなら証明してあげるよ。素手で君を殺してあげよう」
フルカスは顔を歪めてギシリと笑い――ポイっと大鎌を投げ捨てた。
――この時を待っていた!
「もらった!」
俺は捨てられた大鎌に火焔砲を浴びせる。
ゴウ!
柄は一瞬で蒸発し、刃も砕けて四散した。
「ハッ! しまった!」
我に帰ったフルカスが声をあげるが、もう手遅れ。大鎌は砕けた刃を残して無残に転がっていた。
「…………そうか、怒りで精神に揺さぶりをかけたのか……」
「そー言う事。まぁ、なんだ。悪いけど、さっき言ったの全部嘘」
得物を破壊されてフルカスは戦意喪失したらしく、天を見上げてうわ言のように呟いた。俺も体力限界に近かったから、素手で挑まれたら叩き伏せる自信あんまり無かった。
「俺の勝ち、だな。 楽しかったぜ」




