第7話/傾向と対策は超重要。ここテストに出るぞ。
『なんだか空が曇ってきましたね、フルフールさん』
疾風宮は、教室の窓から頬杖ついて外を見ながら意識に問いかける。
『ああ。なんだか胸騒ぎがする。まぁ、俺はフルフールじゃなくてフュルフュールなんだけどな』
フュルフュールの返事を聞きながら疾風宮は窓を開ける。
「風が…………泣いている……」
疾風宮の呟きは、風が揺らした樹々のざわめきによってかき消された。
* * *
「おいおい……。冗談キツいぜ…………」
俺は思わずそう呟いた。ヴラドとの一戦で負った怪我は相当なハンデだし、向こうだって同じはずだ。いくら俺と吸血鬼でも、お互い手負いで戦闘不能寸前なので相当苦労しそうだ。
何より――。
「抜け駆けはズルいですよ、僕も混ぜて下さい」
フルカスが子供のような笑顔で大鎌を撫でた。何より、コイツの参戦が一番キツい。
「狼月君、どの位動ける? 僕はどこかの感情を制御できない馬鹿に殴られまくったせいでボロボロなんだけど」
俺に背中を預けたヴラドが皮肉交じりに言った。
「それを言うなら俺も少女を狙うどこかの変態に鉄パイプで殴られまくって死にそうなんだけど」
ヴラドと俺は同時にそっぽを向いて「フン!」と鼻を鳴らした。
「ちょ、ちょっと二人とも! ケンカしてる場合じゃないでしょ!」
桃瀬が俺の頭をはたいて仲裁に入る。にしても、本当にキャラがブレないなぁ、桃瀬。
何の気なしにヴラドの方を見る――いない。
「ヴラド⁉︎ どこ行った――」
緊迫した呼びかけを、肉と肉がぶつかる音が遮る。音の方を見ると、龍の太い尻尾を必死に受け止めているヴラドがいた。
「やれやれ……狼男と言えども所詮は子供か。僕がいなかったら今頃君達はこの尻尾の餌食になって全身バラバラだったよ」
「――ヴラド⁉︎ お前、身体は大丈夫なのか⁉︎」
俺の問いかけに、ヴラドは額に汗を浮かべながらぎこちなく口の端を上げて笑ってみせた。
「狼月君、桃瀬さんは君が護れ。この超美少年の僕から奪い取ったんだ、僕の代わりに、僕の分まで。その代わり……!」
ヴラドの腕に力が入る。
「感謝しな、君は僕が死なせない! 何があっても君が桃瀬さんを護りきれるように、君を護る盾になってやる!」
好きだった娘は愛を拒絶したというのに、身体はとっくに限界を迎えているはずなのに、裏切れば安全が保障されるのに。
この男は貫いてみせる、自分の筋を。
俺は龍の尻尾に飛び蹴りをかまし、龍をぶっ飛ばした。
「ヴラド! 死ぬんじゃねーぞ!」
「ハア、冗談は顔だけにしてくれ、狼月君」
「うるせえ! 誰の顔が冗談だ!」
せっかく心配してやったのに、失礼な奴め。
プイッと踵を返すと、いつの間にか目の前にフルカスがいた。
「さて、こっちも始めましょうか」
「うわビックリした……ヒトの背後取っておいて、お前はブネみたいに不意打ちとかはしないのか?」
「不意打ちはフェアじゃない。僕はブネさんみたいな汚い真似はしないんです。ゲームは正々堂々やるから面白いんですよ。それに――」
視界からフルカスが消えた。
「そんな事しなくてもあなたに勝てるから」
圧倒的なスピードでフルカスは俺の背後を取る。俺は固まったように一歩も動かない。抵抗するのを諦めたって? 違う。
「うわああああッ⁉︎」
フルカスがすごい勢いで上に吹き飛ばされる。
「お前が速さを誇示する為に敵の背後に回る事は前回の戦いで学習した。悪いが対策取らせてもらったぜ。なんせ、傾向と対策は学生の必須スキルなんでね」
種明かしすると、実は前もって俺のすぐ後方に魔法陣を貼り付けておいたのだ。上に逃がさないように、闇魔法の破壊光線が火柱よろしく天に突き刺さる魔法を、ね。
「なるほど……腕を上げましたね、狼男君」
フルカスは上空から声を投げる。……まだ生きてたのか。殺すつもりで撃ったんだけどな。
「次は僕のターンだね」
フルカスが、ゾッとする声で言った。上空からの攻撃……? 傾向と対策は――。
――あの技が来る。
「桃瀬! 出来るだけ俺から離れろ! あとできたら物陰に隠れてろ!」
空から降り注ぐ斬撃の雨を思い出した俺は、桃瀬に向かって叫んだ。
「物陰なんて……ひええええええ」
桃瀬の、なんとも間の抜けた悲鳴が聞こえる。桃瀬がどこにいるかなんて確認している暇はない。
――地獄百墜が、来る。
身構えた瞬間、上空にいたはずのフルカスが眼前に迫る。
――来た!
上空から急降下し素早く斬りつけ空に戻る、を繰り返す神速の悪夢。地獄百墜が。
とは言え、二度も喰らっている技。集中して見切れば全回避も不可能ではない。
「うおおおおおおおッ!」
俺は雄叫びをあげ、機関銃の一斉掃射に等しい斬撃の雨を我ながらの超反応で躱していく。
「なっ……⁉︎ これを全部避けるのか、君は⁉︎ とんでもない学習能力だね。クク、楽しませてくれるねえ。……やっぱり、ゲームはこうでなくっちゃ」
地獄百墜を止め、心から戦いを楽しんでいるフルカスの声。
「ハア……ハア……ハア……」
自分でも息が荒くなっているのを感じる。そろそろ限界か?
「君の成長のお礼に、地獄百墜の進化形を見せてあげるよ」
フルカスが信じられない事を口にした。
「地獄百墜の、進化形だと⁉︎ アレがまだ強くなるというのか……!」
本気で驚いた俺のリアクションに満足げに頷いたフルカスは、また上空向けて急上昇。と、稲妻の如く俺めがけて急降下。これは躱す。ここまではいつものと同じ。
攻撃を躱されたフルカスは地面スレスレまで低空飛行し、鋭く弧を描いて俺を容赦なく斬りあげる。
「ぐあっ!」
低い距離からの斬撃に反応しきれなかった俺は、大鎌が血で染まるのを許してしまった。
フルカスは休む間も与えずに上空を旋回して俺に飛んでくる。
「何だこの動きは……!」
それを紙一重で躱しながら問うと、意外にもフルカスが攻撃をやめて答えてくれた。
「地面ギリギリを飛ぶ飛行技術と、上空での鋭い旋回が相まって、上空からの斬り下げと低空からの斬り上げを可能にしたのさ。地獄百墜改め地獄千墜」




