第6話/固茹で卵
昨日の更新は完全にド忘れしてました。本当にすみません。
こんなどうしようもない僕ですがこれからも見捨てないでくれると嬉しいです。
「……ふう」
桃瀬のおかげでなんとか理性を取り戻した俺は、立ち上がりながら軽く息をついた。そのままヴラドの方に向かう。
「ほれ」
俺は大の字になって倒れているヴラドに手を差し伸べた。ヴラドは嬉しいような、寂しいような目で俺を見て、手を強く握った。
「ありがとう。僕はもう桃瀬さんから手を引く」
「……そうか」
「…………ところで、もし良ければ僕も君達の仲間に」
とヴラドは言いかけてやめた。警戒した顔で辺りを見回す。何事かと思ったが、湧き出る邪気を感知して全てを理解する。
「友情ごっこはもう終わりましたか?」
声の主を確認する為に振り返ると、そこには白ローブの白髪青年と、縦縞スーツにワイシャツの第三ボタンまで開襟させたチンピラ崩れのようなガタイの良い大男がいた。チンピラ崩れの方はともかく、白髪青年には見覚えがある。
魔闘結社の戦士フルカス。コイツが姿を現わすということは――。
「フルカスとその他一名。言っとくが魔法石なら渡さねえぞ」
「おや、覚えていてくれたの? 嬉しいな。久しぶり、狼男くん」
フルカスがにこりと笑いかける。と、その隣のチンピラ崩れが不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「フン! 結社最強の俺様をその他呼ばわりしたことを後悔させてやるからな!」
「ブネさん、結社最強はこの僕ですって。現に、総長からの指名で戦った回数はブネさんよりあるんですよ。威勢だけのブネさんと違って腕を認められてるんですかね」
「だからァ! それはたまたまだって言ってんだろ! 数字がどうであれ真の実力は俺様が圧倒的に最強なんだよ!」
なんか勝手に喧嘩が始まってしまった。そのままヒートアップして潰し合えば良いのに。ヴラドと戦って俺はもう限界寸前なんだけど。
「ね、ねぇ灰。あの人たちって……」
桃瀬が俺の背中に隠れながらそう訊いた。
「心配するな。お前は俺が守ってやる」
怯える桃瀬を安心させるように答える。答えになってるかな、いや、なってないな。
「賑やかしい悪魔達。一体何の用かな? まさか、君達も転校なんて事は無いだろう? 君達まで来たら座席が足りないよ」
ヴラドは、わざと戯けてみせる。
「またまた〜、惚けないで下さいよ。総長の命令を忘れたんですか? 狼男を殺せって。総長の命令は絶対ですよ。しくじったら最後、待つのは死のみ、です」
「はて、君こそ勘違いしているようだけど、僕は君達の派閥ごっこに参加した覚えはない。僕はただ、『僕にメリットがある場合にのみ一時的に結社に力を貸す』という契約でルシファー……今はベリアルだったっけ? と同盟関係を結んでいるだけだ」
「へー、そーなんですかー……なんちゃって。実はここまで想定内。こうして裏切った時の為に僕達はここに来たんです。――あなた達を消す為にね」
フルカスはニコリと笑い、空間中に転移魔法陣を展開させて得物の大鎌を取り出した。
「一緒に遊びましょう」
「知らないようだから教えてあげるけど、闇を得た吸血鬼は怪物最強。敵に回すなんて愚の骨頂だよ」
「楽しみですね、その余裕が何分持つか」
フルカスは楽しそうに大鎌の刃を光らせた。ヴラドのこめかみには脂汗が浮かぶ。
ヴラドは俺と戦って間違いなく消耗しているはずだ。対してフルカスは俺の知る限り相当な猛者。さっきのフルカスではないが、負けるのは時間の問題だろう。
「……よく分からんが助太刀してやる」
俺はヴラドの肩を軽く叩いた。
「何を言っているんだ、君は強制参加だよ」
……ちょっと格好つけようとしたのに、ヴラドの冷静なツッコミによって全部ぶち壊された。なんだろう、このやり切れなさには
『これでいい、釣りは要らねえ』(キリッ)
『いえ、お客様……二十円足りてませんけど』
『え…………』
に通じるものがある。……もう二度とハードボイルドごっこなんかやらない。
「手負いの狼男、おまけに“怪物最強”と噂される『夜帝』、吸血鬼。こいつらを倒せば俺様が結社最強になれる……! よし……!」
声のデカいチンピラ崩れが小難しい顔でブツブツ呟いている。取らぬ狸の皮算用という諺が脳裏に浮かんだ。
「ブネさん。必死に計算してますけど、そういう浅知恵の事を『取らぬリザードマンの皮算用』って言うんですよ」
フルカスがまるで小さな子に言い聞かせるように言った。それにしても、魔界に『取らぬ狸の皮算用』という諺がある事に驚きだった。
「うるせえ! 黙れクソガキ、訳分かんねえ事言いやがって! これは浅知恵なんかじゃねぇ。今から証明してやらァ! 『牙龍天醒』!」
叫ぶように呪文を唱えると、ブネの全身が激しく発光した。まともに見たら目が潰れそうなその光を避ける為に、俺達は手で顔を覆いながら顔を背ける。
「ギシャアアアアアアアアアアッ‼︎」
と、耳を劈く何かの鳴き声で俺は目を開ける。そして眼前に広がる景色を見て、驚愕した。
そこには、全長十メートルはある巨大な龍が凶暴な笑みを湛えて俺を見下ろしていた。筋肉だけでできた屈強な身体はまるで幾星霜もの間雨風に晒され研磨された大岩のよう。爬虫類のように無機質な顔に、燃えるような赤い皮膚。地面に沈む太い二本足はさながら丸太だ。
「おいおい……。冗談キツいぜ…………」




