第2話/上手いことはぐらかされてることに気付いてない人
「何の用……。単なる日本観光だよ。それを言うなら、なぜドイツ生まれだったはずの狼男の直系の子孫の君が日本にいるのかな? って話」
「うーむ……それは…………って、そうじゃなくて何でこの学校に来た? 俺を追って来たのか? チッ、厄病神とはよく言ったモンだぜ。俺がいると平和に暮らす一般人を闘いに巻き込んで――」
「そんな事より、桃瀬さんって君のコレ?」
俺の言葉を遮り、ヴラドは小指をピンと立てた。
「なっ……⁉︎ 桃瀬が俺の彼女な訳ないだろ!」
「それにしては僕の『挨拶』を随分嫌がってたようだけど? ……ハッ! ひょっとして一方的な愛? 叶わぬ恋に身を焦がす三軍男子の気持ちはだんだんと黒く歪んできて……!」
「うるせー! 誰が三軍だ! じゃなくて、単なる幼馴染みだ、幼馴染み!」
「用具室着いたよ」
ヴラドにおちょくられていたら、いつの間にか用具室まで着いていたようだ。
適当に机を見繕ってさっさと部屋から出る。
結局ヴラドに机を持たせて(よく考えたら男二人で机を運ぶ必要がなかった)教室に戻ると、クラスの女子がわっと寄って来た。
「ヴラド君おかえりー!」
「分からない事とかあったら、私達に何でも聞いてねー!」
「重いでしょ? 机持ってあげる!」
「力仕事は男の役目。レディにそんな真似させないよ」
「キャーステキー!」
ただの自己紹介でクラスの大半の女子を味方に付けたヴラドは、女子に囲まれて揉みくちゃにされてながら机を窓際後ろまで運んだ。男は顔だってはっきり分かんだね。
「ああそうだ。職員室に重要書類をもらいに行かないといけないんだった。……困ったな、職員室の場所が分からな――」
「教えてあげるよ、一緒に行こう!」
眉毛を下げて困った表情をするヴラドに、ここぞとばかりに女子どもがグイグイとアプローチしていく。職員室くらい自分で行けやコノヤロー。臭い演技しやがって。「雪沙」だって一人で行ってたぞ。
「ありがとう、助かるよ」
とかなんとか言いながら、ヴラドとヴラド親衛隊達は教室を出て行った。
「……何だアイツら」
嵐が過ぎ去った静寂が訪れ、俺は呆れてため息をついた。
「ね、ねえ灰」
と、隣に座っていた桃瀬に声をかけられる。振り向くと、桃瀬は居心地悪そうに手をぎゅっと握っていた。
「さっきはその……助けてくれてありがとね。とっても嬉しかったよ。嬉しかったんだけどね……」
そこまで言って、桃瀬は俯いた。俺は桃瀬の言わんとしている事を理解して拳を固く握り締めた。
「ああ。分かってる。二度と繰り返さない、あんなの」
「私も。二度とあんな灰見たくない。約束だよ? 指切り、しよっか」
「は、はぁ⁉︎ 良いよそんなの。ガキじゃないんだから」
桃瀬が遠慮がちに小指を立てた。やらねーよ。何が悲しくて高校生にもなって指切りげんまんを歌わなければいけないんだ。いつまでも子供扱いしやがって。
「……そうだね、もう灰も子供じゃないんだ。うん、じゃそういう事で! 一時間数学だけど、中間テスト終わったからって寝ちゃダメだよ?」
「へいへい……。て言うか、お前と隣になると授業中に寝ただけでシャーペンで脇腹刺されるから安心して寝れないんだよなぁ……。お前のその世話焼き癖って言うかお節介ってどうにかならないの?」
「毎度私に脇腹突っつかれて授業中に奇声あげてるもんね、ふふっ。それに、私の性格のことなら灰もよく知ってるでしょ?」
「ああ。伊達に幼馴染みやってる訳じゃないからな。桃瀬のお節介を直すのは太陽を西から昇らせる事より難しい。つまり不可能!」
アニメキャラの決め台詞のようにビシッと桃瀬を指差しながら言い放った。
「何よそれ〜! でも正解!」
桃瀬も俺の真似をしてビシッと俺を指差した後、なんてね、と恥ずかしそうに頬を掻いた。
「……フッ」
この変なノリや桃瀬の仕草に、俺は思わず笑みを零した。
「もう、笑わないでよ!」
笑われて怒った桃瀬がぷくっと頬を膨らませた。口をつぼめ、文句ありげな上目遣いで俺をじっと見る。
「お前、幼稚園児かよ……! クク……ハハハ!」
「幼稚園児じゃないもん! この…………あっ」
ムキになってる桃瀬は、俺の頭を叩こうと手を振り上げたが、それをゆっくり下ろした。
「ハハハ……どうした? やり返さないのか?」
「なんかさー、灰の笑った顔見るの久しぶりだなぁって」
「なんだそれ。俺ってそんなに笑わないか?」
「いや、そんな事ないよ。灰、高校生になってから笑う回数が増えた。でもそれも、なんて言うか、ちょっと悲しそうな微笑み顔で、心の底からの笑顔じゃないなぁってずっと思ってた」
だから嬉しいの、レアな生態を観察出来て、と桃瀬は微笑んだ。
「俺は珍獣かよ」
「そー言う事じゃないでしょ〜! この珍獣!」
「って自分で言ってんじゃねーか」
「あ、ホントだ」
俺のツッコミに桃瀬もまた、えへへと笑った。
「ふええ、これが幼馴染み……。僕の入り込む隙間がない……」
と、遠くの方で疾風宮が呟いた、らしい。




