第1話/とある結社の円卓会議
魔闘結社の刺客を退けていく狼月。だがベリアルには秘策があった。秘策とは一体――。
今後の方向性をじっくり考えていたら金曜日の更新を休んでしまいました。
薄暗く、怪しげな雰囲気を醸し出している会議室のような部屋。その中央に置いてある巨大な丸テーブルを魔闘結社の幹部達が囲んでいた。
「さっさと終わらせましょうや、こんなの。こちとら研究時間返上して来てんだから」
腕まくりをした白衣の中年男が、ぶっきらぼうに言い放った。
「俺はまだアイツの事を総長として認めた訳じゃねーぞ。隙あらばこの俺がぶっ殺す」
バタフライナイフをせわしなく手で弄んでいる危険な雰囲気の漂う男が、誰に言うでもなく宣言した。
「帰りてー…………」
緑のフード付きパーカーに身を包んだ背の低い男がボソリと呟いた。
「こんな面倒くさい会議なんてやめて、俺様に行かせろよ。結社最強の俺様がパパッとぶっ潰してきてやるからさ」
と胴間声で言うのは、机の上に足を投げ出したチンピラ崩れのような大柄な男だ。
「ブネさん、何度も言わせないでください。結社最強はこの僕です」
その隣に座る白髪の青年が、何気ない一言に笑顔で、だが素早く反応した。
「何だと? なんなら今から試してみるか?」
「ブネ、フルカス。静粛に。会議中ですよ」
ベリアルの側近であるアモンが厳しく注意して、二人の間に流れていた不穏な空気は取り去られた
「フン! 命拾いしたな、小僧」
「……ふふ」
忌々しそうに鼻を鳴らすブネに対してフルカスは楽しそうに笑った。
「会議も何もいらねえよ。たかが人間のガキ一匹に大げさなんだよお前らは」
「自分の力に慢心してるとそのうち足元掬われるぜ、お前さん。ガープやザガンみたいな小物はさておき、あの“超速”のバティンと錬成のエキスパートのハーゲンティが殺られたんだぞ。十分警戒に値する相手じゃねえのかい」
「研究室に篭ってるガリ勉博士が知った口を利くな」
「口の利き方には気をつけな、ヒヨッコ。お前さんとは潜り抜けた修羅場の数が違うんだ。戦況を考えずに刃物振り回すだけならそこらのゴブリンでも出来るんだぜ」
「誰がゴブリンだ!」
怒ったバタフライナイフ男は、白衣の中年に向けてナイフを投げた。中年はそれを難なく避ける。
「パイモン。会議中です。バタフライナイフを投げないで下さい」
またかというような表情でアモンが注意した。
「爆破されたのが副本部だったのが不幸中の幸い、ですね。それに、本部の存在はまだあの人たち知られてないようですし。ねっ、アモンさん?」
「そうですね……」
フルカスがアモンに笑いかけるが、アモンは相変わらず眉間に手を当ててため息をついている。
――私は動物園の飼育係になった覚えはない!
と、カツリカツリと会議室に響く足音。一同、一気に緊張が走る。
「ベリアル様……戻って来られたんですね……」
魔闘結社総長のベリアルは豪華な上座にどっかりと腰かけた。
「狼男の元には『アイツ』を向かわせた」
「そ、それって……!」
「まさか……『アイツ』が動き出したと言うのか!」
サラリと言ってのけた『アイツ』という言葉に、場が急に張り詰めた空気になる。
「今度はこっちから挨拶してやる。『魔界最大の悪魔連合』を敵に回した事を存分に後悔させてやろうぜ」
ベリアルはニヤリと口の端を上げた。
* * *
「えーと、噂で知ってる奴もいるという思うが、ウチのクラスにドイツから転入生が来る。それじゃ早速挨拶してもらおうか。お前ら、歓迎してやれよ」
いつも通り始まった朝のH・Rのいつも通りをぶち壊すように、担任の教師がそう言った。
ざわっと揺れる教室。
俺はこの光景に既視感を覚えた。
「まさか、ね」
だが、教卓の前に立った転入生を見て思わず息を飲む。
「どうも、おはようございます。ドイツから来ました、ヴラド・ヘルブラウ・ツェベッシュと言います。日本語はまだ勉強中です。気軽に声かけてください。よろしくお願いします」
顔からは想像出来ないような流暢な日本語でヴラドは自己紹介した。
クラスの、特に女子はヴラドに目線が釘付けだ。無理もない。当然のように背は高く、すらっと伸びた長い脚やら、日本人には真似出来ない彫りの深い顔やら、それらが合わさって初めて似合う金髪後ろ結びやら。その顔で何千人の女を食ってきたのやら。
「はい、よろしくね。席は一番後ろの窓際にするか。机を運ぶからこの後用具室に来なさい。桃瀬、お前のすぐ後ろの席だから色々教えてやってくれよ」
教師はまたもや聞き覚えのある台詞を口にし、「よろしく」とヴラドの背中をポンと叩いた。
ヴラドは気さくに会釈して、女子の視線を浴びまくりながら俺の方に歩いてきた。と、思ったらヴラドは桃瀬の前で立ち止まった。
「桃瀬さん。改めまして、ヴラド・ヘルブラウ・ツェベッシュです。これからよろしくお願いします」
「うん、よ、よろしくね」
ビックリしている桃瀬の前で恭しく膝をつき頭を下げるヴラド。そうして、流れるように桃瀬の手を取り、手の甲に口付け――
「ヴラド君、だっけ。俺は狼月。用具室に机を取りに行くの手伝ってやるよ」
する直前、俺は咄嗟にヴラドの手首を握り、桃瀬の手から振りほどいた。ヴラドの手首からミシミシと骨が軋むような音が聞こえるが、まあ気のせいだろう。
「そうなんだ。狼月君、よろしくね。じゃあ早速用具室行こっか」
ヴラドは笑顔をキープしたままそう言い、廊下に向かった。俺もそれに倣う。廊下に出てドアを閉めると、ヴラドはふうと息をつき、こう言った。
「驚いたよ。まるで、あの人の若い頃を見ているようだ。お爺さんによろしく、狼男くん」
「……ヴァンパイアがこの学校に何の用だ」




