第15話/逆転・逆転・大逆転
「…………!」
我に帰って激しい怒りを覚えたゴーレムは、拳を再生させてフュルフュールと疾風宮に襲いかかった。
「よし、次は」
「左膝行こうぜ」
「了解!」
フュルフュールと疾風宮はまたもやエネルギー弾を発射して、今度はゴーレムの左膝を撃ち抜いた。膝から下が一気に吹き飛ぶ。
――予想通り。
ベリアルはニヤリと笑った。
だがそんな事など知る由もなく、フュルフュールと疾風宮は、崩れ落ちたゴーレムと対峙しながら
「クソガキ、これ行けるぞ!」
「そうですね、フルフールさん!」
「俺の名前はフュルフュールだけどな」
などと軽く掛け合いをしている。その間に、ゴーレムは苦しそうに右脚を再生させて立ち上がった。
「そろそろトドメに……あれぇっ⁉︎」
突然、疾風宮は素っ頓狂な声を上げた。怪訝に思ったフュルフュールが疾風宮の視線の先を辿っていくと、そこにはゴーレムがもう一人立っていたのである。
「二人……。何人来ても俺達は止められないぜ!」
ゆっくりと歩くそれを見据えながらフュルフュールは言った。
「行くぞクソガキ! 『心臓』!」
脚を再生して初動が遅れたゴーレムの胸を二色の光弾が撃ち抜いた。
「…………!」
ゴーレムは地面に膝をついて、砂がこぼれ落ちる胸を押さえた。やはり心臓は修復に時間がかかるようだ。
追いついたもう一人のゴーレムに、フュルフュールと疾風宮は素早く目配せして右腕に光弾を撃ち込む。
「…………!」
突然右腕を粉砕されて驚いたゴーレムを、フュルフュールと疾風宮は得意げに見る。
「ハァ……ハァ……へへへ。見たか! 俺達の底力!」
「ハァ……ハァ。息、上がってますよ。フルフールさん」
「オメーもな。……ハァ、……ハァ」
魔法を使う事に疲れてきた二人は、まるでそれを誤魔化すように軽口を飛ばし合う。
「そろそろ終わらせ……ってまた増えた⁉︎」
今度はフュルフュールが驚いた。なぜなら、ゴーレムがまた新しく一人増えていたからだ。
「ま、まさか……ああっ、もう一人遠くから走ってくる!」
疾風宮もまた新しいゴーレムを見つけ、思わずその方向を指差した。
「…………」
なんとか心臓を再生させた最初のゴーレムがゆらりと立ち上がった。
「なっ、何だコレ……」
「二対、四…………⁉︎」
フュルフュールと疾風宮が驚いて固まっている隙に、四人のゴーレム達は続々と集結してくる。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
殺す、とゴーレム達は雰囲気で語っていた。
「嘘……だろ。これから四人相手にする体力なんて残ってないぞ」
「…………同じく」
ゴーレムはたった一人でフュルフュールと疾風宮を圧倒した。それが四人に増えるとなると……なぶり殺しになるのは目に見えている。
「終わった……」
「済まねえ、メアリー……」
フュルフュールと疾風宮がぎゅっと目を閉じ覚悟を決めたその時。
四人のゴーレム達の足元に魔法陣が浮かび上がった。その刹那、火山の噴火の如く猛烈な炎が吹き出し、ゴーレムを呑み込んだ。
「…………⁉︎」
ゴーレム達は訳も分からず一撃で砂と化し、ザザッと砂山を残した。
「よく耐えてくれた。お陰で間に合った」
「か、灰君!」
ゴーレムの巨大な残骸の間から見える狼月の姿を見て、疾風宮は歓喜の声を上げた。
「お前の助けなんか無くても……いや、その、悪いな。助かったぜ」
そう言いながらフュルフュールはそっぽを向き、照れを隠す。
「そんな…………馬鹿な。このぼくが錬成したゴーレムをたった一撃で…………」
と、その向こうでハーゲンティが肩を落とすと同時に恐れを抱く。
「だが狼男…………! これには勝てまい」
ハーゲンティは一人そう呟き、口を高速で動かしてボソボソと呪文を唱える。
すると、ハーゲンティの全身が、更地の土を取り込んでみるみる巨大化していった。ボコボコという異常な音が狼月の耳を刺激して異変を感じ取り、振り返る。狼月はその姿に目を見はった。
「な、なんじゃありゃー! 巨大ロボかよ⁉︎」
狼月が叫んだころには、ハーゲンティは全て呪文を唱え終え、全長三メートルは超える異形の武装ハーゲンティに変化していた。
「狼男……死ね」
武装ハーゲンティは狼月に、当たればタダじゃ済まないような大きなパンチを繰り出す。
「この泥団子野郎!」
狼月も負けじと炎を宿した拳をハーゲンティの拳にぶつける。
バァァン!
「うわぁぁぁっ!」
ハーゲンティの装甲は粉々に吹き飛び、当のハーゲンティも衝撃に耐えられずに絶命した。
「なんだ、あっけないな」
狼月は粉砕されたハーゲンティを見て落胆する。
「灰く〜ん! 助けてくれてありがとう〜!」
疾風宮が半泣きで狼月に飛びついた。
「うわやめろ! やめろって!」
狼月はやんわりとそれを振り払った。
「とんだ邪魔が入ったな…………」
突然、後ろから声がする。振り返ると、不機嫌な表情のベリアルが、アモンと一緒に立っていた。
「いつぞやは俺の名前を間違えやがった狼のガキ。お前とはいずれ戦う気がするぜ。だがお前は俺に勝てない。お前がルシファーなんかの『犬』をやっているうちは」
「俺は別に黒岩さんの犬になったつもりはない。それに、たとえそうであったとしても俺はお前をぶっ倒す」
「お前には何も見えていない。だからお前はガキなんだ」
ベリアルが吐き捨てるように言い、アモンに「行くぞ」と声をかけて踵を返す。
「狼男さん。今日の恨みは一生忘れません。次会った時があなたの命日です」
狼月は別れ際にアモンにビシッと指を指された。
金曜日に投稿出来ずすみません。次回こそ月曜日投稿します。




