第14話/弱いままじゃ
狼月くんと黒岩さんがプレートアーマーと戦っていたその頃。
「混沌の過去より我等を見護りし悠久の大地よ。人型を成しその豊穣なる力で我を守護せよ」
ブカブカの黒ローブを見に纏い、口元は包帯でぐるぐる巻きにした背の低い男……ハーゲンティは、古びた魔道書片手に呪文を唱えた。すると、地面がボコボコと湧き上がり人の形を形成していく。
「我の前に姿を現せ…………泥人形」
ハーゲンティがそう唱えた時には、彼の前に身長二メートルは超えるゴーレムが立っていた。ゴツゴツとした全身は土色で、頭はあるものの顔が無く、表情は伺い知れない。
「ゴーレム…………あいつらを…………殺せ」
ハーゲンティが骨と皮だけの指で疾風宮とフュルフュールを指差した。ゴーレムは何も言わず彼等の元へ歩き出す。
「来やがれこの泥人形が!」
「フルフールさん⁉︎」
疾風宮より先にフュルフュールがゴーレムに突進していく。
「…………」
ゴーレムはフュルフュールに気付き、大きく腕を振りかぶる。
「遅え! 喰らえ!」
フュルフュールはゴーレムの背後に回り込み右手から雷の矢を放つ。
バチッ!
確かに矢はゴーレムの背中に命中した、が……。
「…………?」
何事も無かったようにゴーレムはゆっくり振り返った。
「効かない……⁉︎」
狼狽えるフュルフュールを叩き潰すが如く、ゴーレムは丸太のような腕を振り下ろす。
「わわっ!」
フュルフュールは後ろに飛び退き間一髪でスクラップを免れるも、バランスを崩して尻餅をつく。
その一歩先でゴーレムの腕が地面を殴る。轟音が響き土煙はもうもうと舞う。ゴーレムは腕を引き、フュルフュールを狙ったパンチを繰り出す。
「クッソ……まだだ!」
フュルフュールが立ち上がりながらゴーレムの体に小さな稲妻を落とす。無論効かずにゴーレムに殴り飛ばされる。
「ふぎゃ!」
フュルフュールは踏まれた猫みたいな声を上げて吹き飛んでいった。
「…………」
ゴーレムは膝を曲げたかと思うと、吹き飛んだフュルフュールの元へ一足飛びで向かった。とどめを刺そうと腕を振り上げたゴーレムの手前を、一陣の風が吹いた。
「フルフールさんは僕が守る」
風魔法の加護を受けて高速移動した疾風宮がゴーレムの前に立ち塞がる。驚いたフュルフュールは僅かに体を起こした。
「バカ野郎! 俺なんか放っておいて逃げろクソガキ!」
「守られるだけじゃ、弱いままじゃ嫌なんです」
疾風宮はそう言い、右の掌を翳す。
「ガストブロー!」
浮かび上がる魔法陣から風が吹く。だがゴーレムは岩のように微動だにしない。
「やっぱダメか……なら受けてみろ、新技!」
疾風宮は腕を交差させて小規模な竜巻を作る。
「鎌鼬!」
竜巻に巻き上げられた小石が、勢いに乗って次々とゴーレムに向けて発射される。貫通こそしないものの、掠った小石はゴーレムの体を切り裂く。
その姿はまさに不可視の鎌。超常現象鎌鼬である。
だが……。
ゴーレムは地面から土を取り込んで削れた体を瞬時に回復させる。そして疾風宮にもパンチを繰り出す。
「ぐはっ!」
疾風宮は後ろのフュルフュールを巻き込み派手に吹き飛ぶ。
「おえっ……」
腹部を殴られた疾風宮は苦しそうに嘔吐く。その疾風宮にぶつかって吹き飛ばされたフュルフュールは顔を上げられないほどにダメージを負っている。満身創痍の二人に対して全身の強靭さを保つゴーレム。
「あーあ、情けねー!」
突然、この絶体絶命の状況を嘲笑うような声がゴーレムの後ろから聞こえた。
ベリアルだ――。
「ベ、ベリアル、テメエ始めからこれが目的で……!」
「だーい好きな妹を殺した奴が目の前に立ってるのに、指一本触れられないなんてお前はとんでもねえゴミ兄貴だなァ! ハハハ! 弱いくせにしゃしゃってんじゃねえよ! このゴミが!」
「んだとコラァ!」
自分の全てを否定したベリアルの罵声に激怒したフュルフュールは、地面に手をつき気迫で上体を起こした。
だがベリアルは醜いものを見るような視線を向け、フュルフュールの肩を踏みつける。
「力が無いと何も護れない。消えろ」
絞り出すような声でそう言い、一歩退がりゴーレムに「殺れ」と命令した。ゆっくり二人の方に歩くゴーレムに顔は無いが、光の加減でニヤリと笑ったように見えた。
「クソ……。こんな所で終わりかよ…………」
「……フルフールさん。僕が合図したらゴーレムの拳に雷魔法のエネルギー弾を撃ってくれませんか?」
絶望して覚悟を決めるフュルフュールに疾風宮はそう頼む。
「なんでだよ……。俺達の力じゃ倒せないって事、嫌と言うほど知ったじゃねえか」
「合図した瞬間、僕もフルフールさんと同じ所に風魔法のエネルギー弾を撃ちます。さっきのは一人ずつ戦ってたから太刀打ち出来なかったのであって、二人で力を合わせて一点集中で攻めればチャンスは……まぁ五分五分でしょうね。どうせダメでもともと。……もし諦めなければ、奇跡が来ても掴み取る事が出来るんです」
「そうか……。面白え、俺も乗ってやるよ、そのバカみたいに明るい最後の希望に」
フュルフュールが疾風宮の顔を見てニヤリと笑った。疾風宮もそれに応えて笑い返す。そして、前に向き直りゴーレムと対峙する。
「…………」
ゴーレムが無骨な拳を振り上げた。彼等の策など知る由もなく。
「…………ッ、今だ!」
疾風宮が叫び、二色の光弾はゴーレムの拳に命中し――ゴーレムの拳は粉々に吹き飛んだ。
「うおっ、マジか!」
「やったぁ!」
「…………⁉︎」
大成功を収めて歓喜のガッツポーズをするフュルフュールと疾風宮。それと対照的に現実が受け入れられずに粉砕された拳を見つめるゴーレム。
「これは……もしや」
「ワンチャンあるぜ!」
すっかり自信の付いた二人は、怪我の痛みはどこへやら立ち上がる。
「さーて、さっきは随分と調子に乗ってくれてたじゃない、ゴーレムくんよォ!」
「君に奇跡は……残念ながら起こらない
先週の金曜日は休んでしまってすみませんでした。




