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第13話/リスペクト

 

 俺は場を駆け抜けた。


 疾風宮達の所に向かおうとするが、案の定アモンが立ち塞がる。


「言ったはずです。邪魔はさせないと」


 レイピアを構えながらアモンは言う。


「……まずはアンタからか」


 俺は鉄パイプを握りなおして、ゆっくり間合いを詰める。アモンは腰を落として前傾姿勢になる。突進攻撃のつもりか。


「ヤァッ!」


「!」


 脚のバネをフル活用した高速の突きが繰り出される。心臓一点を狙った一撃を俺は咄嗟に身をよじって躱す。


「ハッ!」


 俺が体勢を立て直すのを待たずして、横薙ぎの斬撃が心臓を追尾する。


「うわっ!」


 俺は思い切り後ろに跳び退き、後転で受け身をとる。


 ――刺突は躱されてもすぐに横薙ぎの斬撃に切り替えられる。


 とある漫画で得た知識が無ければ、間違いなくレイピアの餌食になってしまっただろう。

 たかが細剣と馬鹿にしてはいけない。その細身の形状から、攻撃の種類は刺突だけだと思われがちだが、殆どのものには刃があるため斬撃も可能なのだ。……確かに刺突より優先度は低いが。


「どうしました? 早く私を倒さないとお仲間が間に合いませんよ?」


「やってくれるねぇ……!」


 俺は呪文を詠唱する。


「エクスプロージョン・フレイム!」


 アモンの足元で直径約一メートルの魔法陣を展開させ、思い切り爆発させた。

 地響きにも似た爆発音がして、熱風が激しく吹き荒れる。


「わあー!」


 呪文詠唱から魔法発動までの僅かな間で回避出来なかったアモンは宙を舞い、ゴミのようにザザンと地面に転がる。俺はアモンの生死を確認するために、奴の元へ歩き出す。


「……うわ」


 俺は思わず声を漏らす。

 爆発の衝撃でアモンは服や皮膚が所々裂け、右脚が丸々吹き飛んでいたのだ。


 脚を奪われた痛みで顔を歪めているアモンの顔を覗き込むと、その苦悶の表情が笑顔に変わった。


「なーんてね」


 アモンは目を開き、仰向けの状態からとは思えないほど速い刺突を繰り出す。


「ッ!」


 アモンの刃は、油断して反応が遅れた俺の胸を突き刺した。


「ちぃっ!」


 俺は血の滴る胸を押さえて後ろに退く。

 アモンはふふふと笑い、レイピアを使って片足だけで器用に起き上がる。


「あなたには言ってませんでしたっけ。私の身体は『痛み』が『快感』に勝手に変換されてしまうんです。それに……」


 アモンはレイピアを松葉杖のようについて片足で気張る。すると、無くなったはずの右脚がニュルンと生えてきた。


「このように、少し魔力を集中させれば脚だって再生します。即ち、今の攻撃で私が受けたダメージは……ゼロです」


 アモンは得意げに言って、全身の傷も治した。


「チッ……時間稼ぎか。だったら」


 俺は右腕を突き出す。


「バーニングフレイム!」


 右の掌から放たれた炎は、容赦なくアモンのレイピアを腕ごと飲み込む。


「火傷もなかなか刺激的ですね。ですが、このレイピアは鋼製ですので、この程度の温度と時間では液化しませんよ」


 燃えている右腕を見ながら、あくまで冷静に俺にアドバイスをするアモン。ナメてんのかコラ。


「……フン」


 俺は手を閉じて炎を消した。


「ああ、もうやめちゃうんですか? あと一時間くらいやっても良かったのに」


 ただれた腕を再生させながらアモンは言う。


「アンタは余裕ぶって俺の炎を避けなかった。それがアンタの敗因だ」


 俺は鉄パイプでアモンを指してそう言い放つ。


「申し訳ないのですが、そんなハッタリでは私は騙せませんよ」


「後で泣いても知らねーぞ」


 言い捨て、俺はアモン目掛けて突進する。


「隙だらけですね! ハッ!」


 アモンは一瞬で溜めを作って、心臓一点を狙った光線のような突きを放つ。


「見切った」


 確かに刺突は速いが何度も見て目が慣れた。もはや止まって見えるレイピアの刀身目掛けて鉄パイプを振り下ろす。


 パキィン!


 甲高い音が響き渡り、アモンのレイピアが真っ二つに折れる。切っ先はくるくると宙を舞いサクッと地面に突き刺さる。


「……そんな……どうして?」


 折れた愛刀を見て呆然とするアモンに俺は言い放つ。


「言っただろ? アンタは余裕ぶって俺の炎を避けなかった。それがアンタの敗因だって」


「鋼製のレイピアが工業用の棒切れなんかに……」


「鋼は熱に弱い。これ探偵検定三級レベルの知識」


「嘘…………」


 現実を受け入れられなくて地面にヘタリ込むアモンに、俺は解説する。


「鋼はその強靭さが売りだが、熱脆性ねつぜいせいが顕著に現れる。一定の温度になると突然衝撃値が小さくなり、その結果鋼のレイピアは脆くなる。ちょうど鉄パイプでブッ叩いたら折れるくらいに、ね」


 授業中にコッソリ読んだ“魔女っ娘みるくは私立探偵!”の第二、三話辺りで出てきた知識だけど、と心の中で舌を出す。


「私の……愛刀が…………」


 アモンはレイピアの持ち手を抱き抱えてうわ言のように呟く。戦意喪失かな。


「……だから言ったろ、後で泣いても知らねーぞって」


 俺はそう言い捨て、アモンの表情を確認する事なく疾風宮の元へ駆け出した。


参考文献

・https://ja.m.wikipedia.org/wiki/レイピア

・https://kotobank.jp/word/熱脆性-111365

・https://www.weblio.jp/content/青熱ぜい性

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