第8話/K.O.
臭いを辿って来たのは工場から一キロもない空き家。頼む、間に合ってくれ……。
臭いはこの部屋で消えている。ドアを開けようとするが鍵がかかっていて、開かない。
「くそっ」
俺はドアから一歩下がり掌をドアノブに向けた。
「エクスプロージョン・フレイム!」
鍵はドアノブごと爆発し、俺はドアを蹴り倒した。
俺が見たのは磔にされた桃瀬と、その首を斧で切ろうとしているミノタウロスだった。
「灰! 助けに来てくれたんだね!」
桃瀬の顔がパッと輝く。頬には涙がつたった跡があった。
「ミノタウロス! 桃瀬に何をした!」
「マダ何モシテネーヨ。今カラ解体ショーガ始マル所ダッタガナ」
ミノタウロスは持っている斧を振りかざした。
解体ショー、だと……!
ふざけるな……!
「殺す」
邪気が全身から湧き出て髪の毛を揺らす。
俺はミノタウロスに飛びかかり、爆発的な蹴りと拳を叩き込む。またしても隙だらけの背中に回り込み、回し蹴りを決める。倒れて地を滑るミノタウロス。
俺は右腕を左腕で押さえ、呪文を唱えた。
「フレイムキャノン!」
しかし、炎の威力は前よりかなり劣っていた。
「グヘヘヘ……銀ノ弾丸ガ、マダ効イテイル。ソンナ炎ジャ俺達怪物ハ殺セナイゼ?」
チッ、やっぱ駄目か。
撃たれた傷も完全に治ったわけじゃないし、銀の弾丸を喰らったから魔力がいつもより下がっている。今の俺にはドアノブを壊す程度の火炎魔法が限界だ。
ゆらりとミノタウロスが立ち上がった。
やばい。来る。
そのでかい図体からは想像もつかない様な素早い動きで俺に殴りかかってきた。避けるのは簡単ではなく、当たればひとたまりもない。
俺は頑張って避けているが、こんなその場しのぎがいつまでも続く訳もなく、とうとう一発喰らってしまった。吹き飛ばされ壁に背中を打ち付ける。
いつもだったらこんな攻撃躱せたんだが、魔力が弱まっている今、そうはいかない。
二、三度咳き込むと口の中で血の味がした。
俺は血を吐き捨てると、立ち上がった。
「来いよ。俺が相手だ」
「魔力ヲ失ッタオ前ナド、タダノ人間ニ過ギン」
俺の事を完全に舐めているミノタウロスはゆっくり近づき、アッパーカットを放った。昼のフレイムナックルを根に持っていたんだろう。
一瞬空を飛び、地面に叩きつけられた。
「ぐはっ……」
格闘ゲームの負けた方の気持ちが少し分かった気がした。
倒れた俺の頭を掴み無理矢理立たせると、至近距離から蹴りが来た。全く反応出来ず、まともに受ける。
俺の身体はまた宙を舞い、叩きつけられた壁を突き破って庭に転がり込んだ。
ゴフッと血を吐き感じる。
やばい死ぬ。