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第4話/あんた何しに外出たの?

 

「って、行き止まりじゃねーか!」


 道の奥から、チャラ男の情けない声が聞こえてきた。


 かかったな。


 ここは俺のホームタウンだぜ。ここら周辺の道なら、俺の方が百倍知ってる。追いかけるふりをしながら、お前をここまで誘導してきたって訳。

 俺はゆっくり歩いて奴の退路を塞いだ。引き返すための道だけ守っておけば、どうせ逃げられやしない。


「ふぅ。よくやってくれた、ありがとう」


 後から追いついてきた自転車に乗った黒岩さんと、その後ろでグロッキーな疾風宮。グロッキーなのは、黒岩さんの速すぎる運転のせいだな。


 黒岩さんは、自転車を押しながら奴がいる袋小路に歩く。金髪チャラ男は、黒岩さんの顔を見て更に狼狽えた。


 車一台通れるかの狭い路地に、俺と疾風宮と黒岩さんが並び、チャラ男を完全に包囲する形になる。


「よく分からないからとりあえず生け捕りにしておきましたよ。後はもう、煮るなり焼くなり好きに殺っちゃって下さい」


「やだなぁ。私がそんな残酷な事する訳ないじゃないか」


「……本当に煮て焼いて殺しそうだから怖いんですよ。っていうか、そのチャラ男、何したんですか?」


「彼は何もしてない。ただ、少し誤解をしているだけだ」


 俺と黒岩さんは、数メートル先にいる、動物園の熊みたいに落ち着きの無い袋小路のチャラ男に視線を向けた。袋小路チャラ男は「ひっ」と小さく悲鳴を上げる。黒のチノパンから伸びるウォレットチェーンが、奴の震えに応じてジャラジャラと音を立てる。


「嘘だ! あんたは、力欲しさに結社を裏切った俺の事を消しに来たんだろ! そうはさせねぇぞ。俺ァ、絶対逃げ切ってやる……!」


 よく分からんがヤケを起こしたチャラ男は、正面からの強行突破を試みた。

 つまりこっちに向かって突進してくる。

 俺は小さくため息をつき、狭い路地でも使える炎魔法を詠唱する。


「ピラー・オブ・フレイム」


 魔法陣はチャラ男の足元の数歩先で展開され、道を阻む激しい火柱が立ち昇った。それ以上動くと黒焦げになるぜ。


「熱っち、くそォォォ! 『ポゼッション』!」


 チャラ男は、足を緩める事なく呪文を詠唱した。全身が薄い黄色に発光する。


 奴は、幽霊のように火柱をすり抜けた。そのまま疾風宮の方に突っ込んでくる。何が起こっているのか分からない俺の隣で、黒岩さんは息を呑んだ。


「いけない! 疾風宮君、逃げるんだ!」


「え?」


 疾風宮は、困惑した表情で黒岩さんを見る。

 するとチャラ男の全身が突然、粉砕した。粉微塵の一粒一粒が、まるで意思を持った生き物の群れのように疾風宮に襲いかかる。


 ――憑依。


 気付いた時には、もう遅かった。


「うっ、うぁぁッ! わあぁぁぁぁぁッ!」


 疾風宮の周りを無数の光の粒が渦を巻く。あまりの光景に、俺達はただ立ち尽くして様子を見る事しか出来なかった。


 光の渦が止んだ。


 疾風宮は、震える自分の手を見て笑っている。口の端に笑みを湛えて、黄色に染まった瞳で勝ち誇ったように俺達を見る。


「ヒャハハハハハハ! 憑依成功だぜ! こいつの身体に入っておけば、あんたも手出し出来ねえだろ!」


「クッ、待てフュルフュール! 私は攻撃する気はない! 全て君の誤解だ! だから、その子を開放しろ!」


「そーですかって見え透いた罠にかかる馬鹿がいるかってんだ! コイツは人質だ。俺は、絶対逃げ切ってやる! ……あいつのためにも」


「私は君を消しに来た訳じゃない。なんなら、結社から追放された身だ。――じゃあ何で追い掛けて来たって? それは君と取引がしたかったからさ」


 黒岩さんは、なんとかフ……ヒュ……ルフールを引き止めた。何で黒岩さんこんなの言えるんだよ。日本人には難しすぎるっつーの。


「私達と組まないか? 君だって、このまま独りで逃げ続けるのは大変だろうし、私としても、結社の奴等と互角に渡り合える人材が必要なんだ。――いや、強制はしない。まぁ、明日までに考えておいてくれ」


「……フン」


 疑わしげに鼻を鳴らすと、疾風宮の瞳の色が黄色から黒に変わった。疾風宮は頭を抱えてへたり込んだ。意識が入れ替わったんだな。


「うっ、んん……あれ?」


 唸っていた疾風宮は、突如キョトンとした表情になった。そんな疾風宮に罪の意識でも感じたのか、黒岩さんは一歩前に出た。


「済まない、疾風宮君。面倒な事に巻き込んでしまって。……ところで疾風宮君、悪魔祓い師(エキソシスト)の知り合いいる?」


「いませんよそんなの! 僕を何だと思ってるんですかぁ⁉︎」


「……じゃあ狼げ」


「いませんよ。逆に何でいると思ったんですか? そもそも俺、友達とかあんまりいないんで、ハハ。……あ、そうだ。取り敢えず結社から風と炎の魔法石をって来たんで、俺の家来ませんか? 親なら、両方とも買い物に行ってて夕方まで来ませんよ」


「……凄い事をさらりと言ってのけるんだね、君は。そうだね、炎の魔法石を保管すると共に、疾風宮君に風の魔法石を返さないと」




 十分後。


「えぇ……何こいつら。って言うか、ロールケーキは?」


「しまったァァァァァァ!」


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