第3話/雷使い
ともかく、見てしまったし、声も掛けてしまったからには見逃す訳には行くまい。俺は気になっていた疑問をぶつける。
「意外だな、お前がそういう漫画読んでるなんて。なになに、タイトルは……『魔女っ娘みるくは私立探偵!』…………なんじゃこりゃ」
表紙を覗き込んで唖然とする俺に、恥やらイメージやらキャラ設定やら諸々全てを捨てた疾風宮が小さく咳払いをした。
「これは、有名作家の阿伏兎 璃子さんが描いてる最新作なんだよ。で、探偵モノに魔女っ娘を取り入れたなかなか斬新な設定がウケて空前絶後の大ヒットを記録している今注目の漫画なんだ。それで」
「あーうん分かった。もう良い。じゃ」
疾風宮が魔女っ娘なんとかについて熱弁し始めそうになる手前で、俺は場を後にした。
が、俺の肩を疾風宮がガシッと掴む。
「もうちょっと話をさせてよ。それで登場人物なんだけど、ロングヘアーの優しい天然お姉さん・ベリィ、金髪ショートのボクっ娘・レモンに、モノに残された感情を読み取る“残留思念感応”の能力者であるこの漫画のゆるふわ系主人公・みるく。どのキャラも可愛いんだけど、僕の推しキャラはやっぱり――」
「お前の推しキャラ事情なんかどーでも良いわ!」
俺は、振り返りながら肩に乗った手を跳ね除けた。
「ええ…………」
疾風宮はしゅんとして、跳ね除けられた手を引っ込める。……やめろ。捨てられた子犬みたいな目でこっち見んな。
人の心ってやつは面倒くさいな。
「……まぁ、ちょっと読んでみたくなったけど」
「え、ホントに⁉︎ 」
疾風宮が目を輝かせた。本当分かりやすいなコイツ。
「じゃあ明日にでも第一巻を貸してあげるよ! あ、でもなるべくページが折れないようにと、表紙に傷が付かないようにそこだけ注意して読んでね」
「へいへい……」
布教活動に成功したからか、階段を降りる疾風宮は嬉しそうだ。その無邪気な背中に、俺は質問をぶつけてみる。
「ところでさ、俺、昨日の放課後に魔闘結社行ってきたんだけど。それについては何か無いのですか? というか、お前よくヒトが命張ってるかも知れない時に漫画なんて買えるよな。緊張感とか無いわけ?」
この質問に、疾風宮は立ち止まる。
変な事訊いて怒ってるかな、とか思っていたら、振り返ってニッコリ微笑まれた。
「なんか、灰君なら全部信じられて、任せられるなって。だって、僕達友達じゃん?」
喧嘩腰を想定して後悔してたのに、肩透かしを食らった気分だ。結構ストレートに言ったつもりだったんだけどな。
「そーかい……」
そこからは、無言で階段を下りる。
一階に降り、俺は店を出て疾風宮はレジで会計をする。
前までならこのまま帰ってたが、今日はなんとなく疾風宮を待ってみる。店の前に立ち、通り過ぎる自転車をぼんやりと眺めてながら深呼吸。
優しく髪を撫でる風が心地よい。
と、ウィーンという音と共に自動ドアが開き、疾風宮が出てきた。そのまま小さな駐輪場に向かう。
「明日、第一巻を学校で貸してあげるよ。じゃーね」
「ああ、また明日――」
「おーーい! そこにいるのは狼月君と疾風宮君じゃないかー!」
遠くから、けたたましい足音と、いつの間にか聞き慣れたおっさんの声が聞こえた。
「「黒岩さん⁉︎」」
俺と疾風宮は同時に後ろを振り返った。
まばらに見える通行人の中で、黒スーツの不審者と金髪ロン毛の細目チャラ男が壮絶な追いかけっこをしている。通行人は明らかに怖がっている。まぁ、ヤーさんの抗争に見えなくもないから、無理もない。
「頼む、そいつを捕まえてくれ!」
必死に追いかけながら、黒岩さんは息も絶え絶えに叫ぶ。
チャラ男は土煙を上げて、こっちに向かって一目散に走っている。俺はチャラ男の前に立って退路を塞ぎ、右手に魔力を集中させた。
「お安い御用で。『フレイム――」
「どけガキ!」
チャラ男は腕を一閃して、そこから俺に雷の矢を放った。
「!」
間一髪で横に飛び、攻撃を躱す。二、三度転がって、その反動で一気に立ち上がった。
チャラ男はすごいスピードで俺の横を通り過ぎていった。一瞬振り返ったと思うとまた腕を振り、雷の矢を乱れ撃った。
「うわっ、クッソ……! 行くぜ疾風宮! 付いて来い!」
俺は、疾風宮が自転車にまたがるのを確認する事なく走り出した。
チャラ男め、狼男の身体能力ナメんな。
奴は狭い路地をめちゃくちゃに曲がっている。強引に振り切ろうとするつもりだ。
すると後ろで、チリンチリン! と自転車のベルが激しく鳴った。
「コルァァァ! 逃げられると思うなよ!」
黒岩さんが鬼の形相で自転車をめっちゃシャカシャカ漕いでいる。何なのこの人。乗り物乗ると人格変わっちゃうの? 黒ずくめと巻き舌が相まって、更にヤーさんっぽくなってるからマジでやめろよ。
「ヒェッ、怖え……」
チャラ男は怯えて、更に加速した。左右に分かれた丁字路交差点を右に曲がる。
「って、行き止まりじゃねーか!」
「魔女っ娘みるく」が重要な伏線だったり、物語に大きく関係する事はありません。完全に僕の趣味です。




