第1話/昔の夢
魔法石の奪還に成功する狼月達。
そんな彼等の前に「裏切り者」が現れて……。
タイトルにかなりネタバレ感がありますが、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
『カイ、ホントに良いのかよ? オレたち怒られないか?』
気付いたら目の前に五、六歳の男児がいて、俺にひそひそ声で話しかけてきた。そいつは、好奇心と恐れの混じった目でこっちを見ている。
俺は、辺りを見回した。
獣の気配すらしない、土臭くて薄暗い――俺が魔法の練習をする時に使う裏山だ。
えーっと……、何だこの状況。
『へーきへーき。絶対バレないから。それに、お前言っただろ? ウチのとーちゃんが魔法使うの見たいって』
謎の状況について考えを巡らせて答えに辿り着く前に、俺の口は勝手に言葉を発していた。だが、まるで教科書を朗読するように、言葉に感情が一切伴っていなかった。
本当に何だこの状況。
『うーん……。まーそうだね。ここまで来れば戻れないっしょ! よし、行くぜカイ!』
好奇心には勝てなかったのか、ガキはいたずらっぽく歯茎を見せた。その無邪気な笑顔に応えてやりたくなるが、あいにくの事、俺はどこに行けば良いのかさっぱり分からない。
『よし、じゃあ“ビコウ”を続けるぞ。左だ』
俺は、何もしないという自分の意志と反して強制的に左を向いた。数メートル先に、歩いている親父を発見する。
――これは。
言うなれば自分が主人公のVR映画を観ているような、それでいてどこか不自然な……。
少し考え、俺は確信する。
――これは夢だ。
そして、俺はこの映画の結末を知っている。
ピタリ、と俺は立ち止まった。
この後主人公の父親は、待ち伏せしていたとある結社の戦闘員達によって襲撃される。(それが魔闘結社なのは言うまでもなく、過去に親父が結社の兵士の約半数を殲滅した事を恨んでいる、らしい)
父親は、もはや軍と呼ぶに等しい数の戦闘員を相手に善戦も出来ずに、ヒトとしての原型をとどめぬくらいにズタズタにされた。奇跡的に一命は取り止めたものの、これが彼が怪物退治を引退した一番のきっかけとなったのだった。
そのイザコザに巻き込まれて、主人公の親友は主人公の目の前で死んだ。
グチャリ、と何かが落ちる音がした。
音がする方を振り返ると、ガキ――しんちゃんの頰の肉が黒く変色して、血と共に地面に落ちた。
『何でだ? 何でオレを殺した? 何でオレをあんな場所に連れて行った?』
怨念のこもった視線で俺を睨むしんちゃん。頬骨が見る間に風化して、喋る毎にぼろぼろと崩れ落ちた。
『…………やめろ』
俺は思わずそう言っていた。
『オレは……もっと生きたかった。なのに……』
『やめろ』
顔中の肉が剥がれ落ちた親友は、肩を震わせて目をこする。文字通り血の涙を流し、しゃくり上げるたびに歯が抜け落ちる。
『お前のせいで………。お前のせいで、オレは死んだ!』
血まみれの両手からのぞく憎悪に満ちた二つ目から、俺は目を逸らした。
『やめろ! やめろヤメロ止めろ‼︎』
目を閉じ耳を塞ぎ、俺は絶叫した。
――オマエノセイデ、オレハ死ンダ。
あの日以来、友達を作ることを自分に禁じた。
* * *
「ろ……やめろ…………ん?」
意識が覚醒した。
どうやら、長い夢から醒めたみたいだ。
俺は、ズキズキ痛む頭を掻いて布団を剥いだ。服は昨日のと同じだ。
「あ、起きた。おはよ」
聞き慣れた声がする方向に視線を向けると、勉強机の回転椅子に座った姉貴がスマホ片手にこっちを見ていた。
「ん、ああ。……って、俺どれだけ寝てた?」
すると姉貴は顎に手を当て、しみじみとどこか遠くを見つめた。
「そーだな……。あんたが倒れて今日でちょうど三ヶ月目になるのかな……」
「えっ⁉︎ マジで? 俺そんなに寝てた?」
「馬鹿お前嘘に決まってんだろがそんなの。一晩だけだ。バーカバーカ」
姉貴に「バカじゃないのこの人?」みたいな感じで笑われた。クソ、本気で信じてた二秒前の自分を殴りたい。
「なっ……。そ、それくらい気付いてたし! アレだよアレ、ノリツッコミ?」
「嘘吐け。さっきのは本気にしてた顔だった。何年あんたを騙してきたと思ってんだ? お姉さんには全てお見通しなんだよ、無駄な抵抗はやめろこの馬鹿」
チクショー覚えてろよ。いつか絶対ギャフンと言わせてやるからな!
その「いつか」は永遠に来ない事を早くも悟りながら、俺は話題を変えた。
「そーだ、ところで昨日の宝石箱には何が入ってた?」
姉貴は、スマホから顔を上げずに答えた。
「炎と風。他には何も」
「へー、そっか〜。ところで、そのスマホ俺のだよね? 何してんの?」
「気付くの遅い。ほれ」
姉貴は、俺の鳩尾めがけてスマホをぶん投げた。
「ごふッ!」
見事なまでにクリーンヒット。……殴るぞこの野郎。
俺は、姉貴を睨みつけながらスマホの電源を入れた。アニメキャラが微笑むロック画面に表示される、凄まじい数の通知メッセージ。
通知は全部桃瀬からのもので、
〔クラスLIME招待しといたよ!〕とか、
〔入っといてね!〕とか、
〔生きてる? 返事くらい返してください!〕とか、
〔……ごめん、うるさい?〕とかなんかそんなん。
後は嫌がらせとしか思えない量のスタンプとか。
「……なんじゃこりゃ」




