第15話/冷酷な戦闘狂
「何度解放しても同じだ! 地獄百墜!」
フルカスは天高く翔び、一気に眼前に迫る。
大鎌がギラリと光り、俺の首筋に襲いかかった。俺は立った姿勢を崩す事なく、最小の動きでそれをすり抜けた。
「そいつはどうかな?」
俺とフルカスがすれ違う瞬間、挑発的に呟いた。渾身の一撃を躱されて、フルカスは初めて動揺の色を見せた。
「……まだだ」
明確な殺意の込もった連撃が降り注ぐも、今の俺には全てが止まって見える。
いかに最小のステップで迫り来る斬撃を回避するか。それだけの簡単な作業だ。
「何でだ……? 何で当たらないんだ? どうして死なないんだ?」
上空にいるフルカスの顔から笑顔が消えた。代わりに、焦りや怒りといった感情が読み取れる。
「何でか教えてやろうか? それは、お前より俺の方が」
俺はタイミングを見計らって地を蹴った。
「強いからだ」
攻撃するために下降したフルカスとのすれ違いざまにそう言い、右の拳で腹を思い切り殴った。奴は防ぐ余裕もなく吹き飛んでいった。勢いが付き過ぎて、たまたまそこで戦いを繰り広げていた黒岩さんとバティンに突っ込んでようやく止まったくらいだ。
……と、冷静に言っているが、実際かなりの追突事故である。
黒岩さんとバティンがボウリングのピンのようにはね飛び、土煙がもうもうと上がる中でフルカスが痙攣しながらぶっ倒れている。派手に爆発しない代わりに、転んで頭を強打した時の地味〜な痛々しさがあり、罪悪感が、うん、特にない。
とまぁ軽く現場リポートしてる間に、俺はフルカスの元へ歩き着いた。フルカスとバティンは、互いに重なりあってぐったりしている。
俺は小さく微笑み、左の掌を奴等にかざした。
「相手が悪かったな、三下供。『ダークネス」
「ちょ待っ! 狼月君⁉︎ 私もいるんだぞ?」
「……あ」
忘れてた。
俺は思いっきり黒岩さんを射程圏内に入れてしまっていた。黒岩さんがそそくさと逃げて安全が確保された瞬間、俺は渾身の暗黒砲を放った。
「うらぁ!」
「!」
フルカスは咄嗟にバティンの首根っこを掴み、強引に引き寄せて盾にした。バティンは一瞬で蒸発したが、その間にフルカスは上空への避難に成功する。
「ッ……! てめぇ……!」
仲間をアッサリ犠牲にして、自分だけは助かる。
まぁこんなの、普段仲間を持たない俺が言えた義理じゃないだろう。だが奴の、人を人だと思わない冷酷な性格は、さすがの俺でも結構引いた。
「君とはいつか、決着を付けなけれればいけないみたいだね。それじゃ!」
フルカスは頭上でニヤリと笑い、翼を広げて暗い空目掛けて矢のように飛んでった。
漫画なら「キラリーン☆」とか効果音が付いてるだろうが、そんな事は全く無い。
「追っ手は片付けたようだな」
背後から黒岩さんの声がして、安心感からか戦闘の疲れがどっと出た。
俺は、ゆっくり振り向いた。
「……黒岩、さん……。帰りま」
バタッ
短くなりました。すみません。
次回完結します。




