第12話/フォーリンエンジェル
間も無く悪魔が俺の前に着陸して、牛とバティンの元へ歩み寄った。
「ったく、どこをほっつき歩いてやがったんだ。フルカスの旦那」
「バティンさんにザガン君じゃん。久しぶり。いやーそれがさ、ちょっと気分転換に闇市うろついてたら面白い物があって……」
「あー、やっぱいい。旦那は喋り始めると止まらないんだったな。続きはこのガキを殺してからだ」
牛の悪魔——名はザガンとか言ったな——が俺を指差した。
それに合わせて、フルカスが俺と一瞬視線を合わせた。
彫りの深い顔立ちに、起きてるのか寝てるのかよく分からない細い目。雪のように白い髪は綺麗に切り揃えられているが、前髪だけ異様に長いのが特徴的だ。
一見して優男である。大鎌を担いでさえいなければ。
フルカスは細い目を更に細めて、楽しそうに微笑んだ。
「殺す? へえ、面白そうな事やってんじゃん。これは……ジワジワ体力を奪って長い間楽しむ感じのスタイルなの?」
いや怖えよ。どんな勘違いだよ。
「僕も仲間に入れて?」
子供のような無邪気な笑顔でそう言うフルカス。
「ダメだ。旦那に手柄を横取りは……」
フルカスの顔から笑みが消えたと思うと、持っていた大鎌でザガンの左腕を切り落とした。
「ぐあっ!」
次は右腕、両足首とザガンを解体していく。
ザガンは四肢が切断されダルマになった。それでも辛うじて息をしているが、奴には抵抗する力すら残っていない。
それにも関わらず、フルカスはザガンの体に大鎌を何度も突き立てた。
「え? 何でダメなの? 何で僕は仲間外れなの?」
肉を切り裂くおぞましい音と、絶え間なく上がる血飛沫。白い髪を赤黒く染めながら、フルカスはザガンに語り続けた。
「ねえ教えてよ……って、あれ? 死んじゃった?死んじゃった! 死んじゃった! ……クッ……クククククク」
そこら中に切り刻まれた脳やら内臓が飛び散り、生物としての原型を留めずに息絶えたザガンはサアッと黄土色の砂に変化した。鎌を振り血を払ったフルカスは、血に濡れた顔をバティンに向けた。
「クククククク……バティンさん、どうしよう。笑いが、クク、止まらないんだよ……。そうだ、バティンさん。バティンさんは、僕を仲間に入れてくれるよね?」
「お、おうもちろんじゃ」
バティンは一も二もなく了解した。そりゃそうだよな。目の前で部下を惨殺されてしかも狂気じみた笑顔向けられてるんだもん。
「それじゃ早速……」
フルカスが俺に向かって笑いかけたと思ったら、大鎌が眼前まで迫っていた。
「うおっ!」
俺は咄嗟に体を仰け反らせて避けた。
直後、フルカスの背中の影からバティンが刺突を繰り出し、俺は完全にバランスを崩した。
足がもつれて地に膝をつけてしまった。
「やっべ……」
座り込んだ俺の前で、目を見開いて大鎌を振りかぶるフルカスの姿がスローモーションに映った。
ただ、スローモーションになるのは視覚だけで、動きが速くなる訳ではない。今の俺には、このままゆっくりと死を受け入れる事しか出来ない。
死神の鎌が近付いてくる。死ぬ。
あと少しで頭が真っ二つになる所で、俺は覚悟を決めて目をギュッと瞑った。
その時、俺の前に一陣の風が吹いた。
その直後、高い金属音が響き渡った。
…………あれ、俺生きてる。
訳が分からず目を開けると、両端に刃が付いた薙刀ともつかない奇妙な長槍で、フルカスの大鎌を防いでいる黒岩さんの背中が見えた。
「ふん!」
黒岩さんは大鎌を押し返し、フルカスは黒岩さんと距離をとった。
「黒岩さん! 助けに来てくれたんで……」
俺は立ち上がって黒岩さんに駆け寄ったが、黒岩さんは俺の方を見ようともせずに沈痛な面持ちで地を睨んでいる。
「黒岩さん……どうしたんですか?」
心配になった俺は声をかけたが、黒岩さんの代わりにフルカスが俺の疑問に答えてくれた。
「クロイワサン……? ああ、あっちの世界ではそう名前を変えたんですね。お久しぶりです、“元”総長の堕天使ルシファー」
あちらの世界での都合のため、来週の投稿はお休みさせていただきます。焦らしてるみたいですみません。




