第10話/剛速コンビ
間も無く俺達の前に突き刺さるように着陸し、轟音を交えて土煙を上げた。
「……姉貴、魔法石を盗られないように頼んだ」
俺は土煙の中の影を睨みつけたまま、姉貴に宝石箱を投げ渡した。
「フッ、誰にモノ言ってる? 舐めてんのかコラ……ってアレ? ちょっと?」
姉貴の異常を聞き付け俺が振り返る前に、「ヴン!」という音が鳴った。
後ろを見ると、そこに姉貴はいなくなっており、光る魔法陣の残骸が残されていた。
「誰が……黒岩さんか! 姉貴をどうしたんですか⁉︎」
「ああ、心配ない。か弱いレディに避難してもらったまでさ。今頃は無事に現世に帰っているはずだろう」
何だ、そんな事か。
姉貴には攻撃要員として残って欲しかったけど、確かにその方が安全かも知れない。
魔法石がね。別に姉貴の安全を心配してた訳じゃない。全然違うからね。
「黒岩さん……姉貴はレディなんかじゃないですよ。魔法でなら俺とタメ張れる力持ったただの戦闘狂です」
「そうか……。フッ、私は本当に人を見る目が無いな……」
黒岩さんはなぜか急に顎に手を当て、しみじみと遠くを見つめた。何言ってんだこの人。
「何を楽しそうにお喋りしてやがる! 緊張感のない奴等め!」
俺を追ってきた悪魔の一人が、痺れを切らしたような野太い声を上げた。
視線を向けると、身長は二メートルを超えそうな筋骨隆々の大男が拳を振り上げて殴りかかってきたのが確認出来た。明確な殺意を湛えた大きなモーションのパンチとは対照的に、パーティグッズの被り物のように無表情な牛の顔が、不気味さと恐怖を醸し出している。
「――ッ!」
俺は、重戦車の一撃に等しいそれを紙一重で躱し、つんのめった奴の首筋に
手刀を叩き込んだ。
ゴッ!
「痛って……」
寸分の狂いなく首筋を捉えたはずなのに、手がジーンと痺れ、代わりに悪魔がニヤリと笑った。
何だコイツ。攻撃が全く通らない。この体の硬さは、まるで鉄の鎧を着ているようだ。
「ん? 今なんかしたか?」
「別に。牛がいたからちょっと戯れてただけだ」
ジンジン痺れる手を押さえながら、喰えない笑みを浮かべる牛の悪魔に軽口を返した。
「強がらない方が、身のためじゃよ」
突然、頭上から諭すような爺さんの声が聞こえた。と思ったら、俺は右に大きく体を逸らしていた。
その刹那、俺の頭があった場所を、謎の爺さんが凄いスピードで飛び抜けて行った。何で躱せたかなんて聞かないでほしい。生存本能か、野性の勘だ。
「ほう……。本能だけで儂の“超速”を躱したか。素質はあるな、坊主」
音もなく着地した爺さんは、長いヒゲを指でつまんだ。
上下白のタキシードに、古風な片眼鏡。
一昔前の怪盗のような出で立ちだ。
「お前ら……結社の悪魔だな? 宝石箱を取り戻しに来たって所か。たった二人とは、俺も舐められたもんだな」
「面白え。試してみるか?」
安い挑発にまんまと乗った牛の悪魔が、指をゴキゴキ折って威嚇した。
俺は無言で微笑み、かかって来いと手招きした。
「おらぁ!」
俺の態度にブチ切れた牛の悪魔が猛スピードで突進して来た。牛の悪魔は、勢いのまま腕を大きく振って右の拳を繰り出した。
「遅い」
素早さは捨てて攻撃力重視のスタイルなのか知らないけど、どんなに凄い攻撃でも当たらなきゃ意味ないんだぜ。知ってた?
完全に拳の軌道を読み切った。次に、これからの動きをシミュレートする。
左にステップを踏み、闇……いや、炎の拳打を顔にお見舞いしてやる。
「何か忘れておらんか?」
左の耳元で爺さんが囁く声が聞こえた。
背筋が凍りつきながらも左を向くと、すぐ近くに不気味に笑う爺さんの顔があった。
「うわぁ!」
俺は反射的に爺さんに突きを繰り出した。
だが爺さんは、残像が残るほどの速さで身を引き、難なく突きを躱した。
「よそ見してんじゃねえ!」
牛の悪魔のデカい拳が眼前に現れた。爺さんに気を取られている隙に、避けられない間合いにまで侵入されてしまったみたいだ。
「ぐはっ!」
渾身の一撃をモロに受け、俺は大きく仰け反った。
足を踏ん張って倒れるのをなんとか防いだが、口の中に血の味が広がり、殴られたダメージが確実に蓄積された。
「オラ、さっきの威勢はどうしたァ? ヘッ、ナメた事言いやがって、口ほどにも無え野郎だぜ」
牛の悪魔が、得意そうな顔で俺を嘲った。
俺はそのヘラヘラした不細工な顔に、口に溜まった血を吹きかけてやった。
「うわっ! 汚ねえなこの野郎!」
牛の悪魔は、俺の胸に手を当て突き飛ばし、腕で顔を拭った。
「教育が足りないみたいだな。もう一発!」
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