第8話/正直に言ってみな! 先生怒らないから!
「俺は犬じゃねぇ。狼男ナメんな」
俺は周りを見回した。
すぐ前を秘書やら幹部級の奴等が睨みを効かせ、数えきれないくらいの雑魚悪魔達の肉壁が俺の周りを取り囲んで逃げ場を塞いでいる。
「さて、と。侵入者。大人しくそれ、返してもらおうか。今なら許してやる」
「総長」が、凶暴な笑みを湛えて手招きした。全く、何で先生と悪役は見え透いた嘘を吐いちゃうのかな。
「やだね」
俺は服に隠していた宝石箱を右手に持ち替えた。
「そうか、残念だな……。じゃ、何か希望する死に方や受けてみたい拷問はあるか?」
言葉とは裏腹に、大して残念そうじゃない総長。……この「総長」って言う呼び方やめるか。記憶が正しいなら、魔闘結社のボスの名前は……。
「俺は死なない。死ぬのはお前らだけだ。総長。いや、堕天使ルシファー」
ちょっと動揺を誘ってみた。
するとどうだろう。ルシファーが俯き、体を小刻みに震え出させたじゃないか。他の悪魔達も凍ったように動かない。
ルシファーが顔を上げた。ギリシャ彫刻のような顔が小刻みに震え、真っ赤に染まり上がっている。
「…………けるな」
「あ?」
「ふざけるな‼︎ この俺とあんなカス野郎を間違えやがって! 良いかクソガキ、俺の名前はベリアルだ! あのカスはヘマやらかしたから俺が永久追放してやったんだよ! もう許さん。クソガキ、人の形でここから出られると思うなよ!」
ヤバいヤバいなんか地雷踏んじゃった。
名前を間違えられたからか、ルシファーと間違えられたからかどっちか知らないが、悪魔達も殺気立っている。
「お前ら!」
そのひと声で、雑魚の悪魔達が一斉に飛び掛かってきた。
迫り来る黒い波は、俺の目にはスローモーションに映った。よく分からんが、アドレナリンとやらが出ているんだろうな。
俺は、左の掌を前にかざした。
「ダークネスキャノン!」
闇の波動は、ゴオッと空気を切り裂いた後、飛び掛かってきた悪魔達を蹴散らし、姿も残らぬように焼き払った。
これで、ダークネスキャノンが通過した空間がトンネルのように開いた。
俺は体を縮こめさせてその間を突進し、袋の鼠からの突破に成功する。走ってきた俺の眼前にあるのは二階へと繋がる螺旋階段と、終わりが見えないカーペットの廊下。
どっちに逃げるのが得策かな……。
「逃すか! 二階封鎖! お前らも位置に付け! 防衛コマンドΕだ!」
ああクソ、選択肢が消えちゃったじゃねーか!
廊下に逃げ込む事を余儀なくされた俺は、仕方なく赤い一本道を飛ぶように走った。もしストップウォッチがあったなら、俺は過去最高のタイムを叩き出していただろう。
魔界でいつもより身体能力が高くなっているからなのか、全く疲れる気配が無く、常に最高速度をキープしている。
威圧的に俺の後ろについて来る何十ものけたたましい足音が聞こえ、心臓の鼓動が高まり、鬼ごっこのような興奮を覚えた。
フッ、魔界最大の悪魔連合に追われてるのにこの状況を楽しんでるなんて、俺って奴はイかれて
ヒュッ!
独りカッコつけていると、後ろから一個の石が俺の頰をかすめて遥か彼方へ消えて行った。
危ねえよ、殺す気か! ……はいそうですね。
走ったまま振り返ると、二つ折りにした長い紐の真ん中に革が張られた武器――投石器と呼ばれるヤツだ――を持った下級悪魔四、五人が、悪魔軍の先頭を翼をはためかせ飛んでいた。それらのすぐ後ろにドM秘書がいて、その後ろを数人の幹部と大勢の名も無き雑魚が鬼の形相で飛んでくる。
「外したか……次は当てなさい」
「ハイ、アモン様」
秘書の名前はアモンと言うらしい。
奴等は、アモンに敬礼すると、携えたずだ袋から石を取り出して投石器にセットし出した。
ヤバいヤバい面倒くさい。
四、五人の投げる石を避けるならまだしも、軍勢に追われながら、更に宝石箱を守りつつ全部回避するのはかなり面倒くさい。俺は、一瞬で魔力を集中させて、魔法陣を展開させた。
「エクスプロージョン・フレイム!」
後ろで凄まじい爆音が轟いて、悪魔達の阿鼻叫喚の叫び声が上がった。俺は、爆発の被害状況を確認するために後ろを振り返った。
床と天井に大穴が空き、カーペットは焦げて黒い煙がモクモクと上がっている。追いかけて来る軍勢の数は大幅に減った。雑魚は全滅したと言って良いだろう。
それでもついて来るのは、数人の幹部級の奴等と、一番後ろにベリアルが……いない。
―― 上!
気付いた時には、もう遅かった。
足元でピシッという音が聞こえ、俺の両足が氷漬けになった。
「はい、そこまで」
ゆっくりとバランスを崩す俺の目の前に、白く大きな翼を広げたベリアルが舞い降りてきた。
水曜日はすみませんでした。
次回からは通常営業に戻ります。




