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第7話/ノリツッコミ

 

 中身を確認する暇は無い。宝石箱ごといただいて、さっさとトンズラだ。俺は、そよ風のように悪魔達の間を縫って宝石箱まで近付く。

 その自然な動きに、気付く者は誰もいない。


 よし……あと二メートル。


 鼓動の高鳴りを鎮めるように落ち着いて歩を進めると、突然「ピシッ!」という音が、一階の部屋全体に響いた。

 今までの熱気が嘘のように冷め、冷気が頰を撫でる。


 何が起こった?


 俺は視線を巡らせ、燃えていた観葉植物の鉢が、近くの悪魔ごと氷漬けにされているのを確認した。


 悪魔達の怯えた視線を辿ると、天使のような白装束に身を包み、左手の指に大きな指輪をはめた長髪の美青年に行き着いた。その男は眠そうな目で悪魔達を睨みつけ、ガリガリと頭を掻いた。


「ギャーギャーうるせーよお前ら。爆発魔法なんて日常茶飯事だろ。いちいち騒ぐんじゃねー」


 不機嫌な声でそう言い捨てると、悪魔達は時が止まってしまったかのように硬直した。


 その中で、サッと男の前に秘書風の女が出た。

 後ろでアップにした一つ結びに、ダークスーツを思わせる騎士甲冑。クールビューティーな顔に、赤い眼鏡がよく映えている。

 その女は、申し訳なさそうに頭を垂れた。


「すみませんでした総長。部下の無礼をお許し下さい」


「やだ」


「ひゃああああああ!」


 男は、お使いに行くのを断る子供のように「やだ」と言い、何のためらいもなく秘書の両足を細く尖った氷柱で串刺しにした。

 自分の命もボスの気分次第、か。組織怖え。


 俺は、「がふぅ!」とか「ぬひょー!」とか叫び声を上げている哀れな秘書に背中を向け、魔法石があるであろう宝石箱に手をかけた。


「やめて! やめないで! もっとやって! 総長様ぁ〜!」


 ……お前ドMかよ。心配して損したぜ。

 心なしか「総長」とやらも楽しんでいる気がする。社長と秘書のカップルかよ。爆ぜろ。


 奴等の特殊な性癖を知って脳の容量を無駄遣いしてしまった俺は、宝石箱を服の中に隠した。不自然に腹が膨れて違和感を禁じ得ないが、仕方ない。

 俺は、総長と秘書のやりとりを怯えながら見ている悪魔達に気付かれないように出口へと


ドンッ


「痛え」


 どうも前方不注意の悪魔の一人(一匹?)とぶつかったようだ。ぶつかった悪魔はビクッと跳ね上がり、恐る恐る振り返り、俺と目があった。


「あ、すいませ……誰お前?」


 うわああああああああああ!

 ヤバいヤバいヤバいヤバい!

 俺は、全身から冷や汗が噴き出つつも、引きつった笑顔で会釈してみせた。


「ど、どもッス。新入りッス。よろしくッス」


「そっか。よろしく……な訳あるか!みんな!侵入者だ!」


 最悪だああああああああああ!


 この悪魔の余計な一言に、静かだった周りがざわっと揺れた。


 ああ……もう少しで無事に帰れたのに……。


「何、侵入者だと⁉︎」


「侵入者⁉︎」


「そんなのどこに……あいつだ! 殺せ!」


 一人の悪魔がこっちを指差し、それに連呼してその他大勢が一斉に俺を見る。一糸乱れぬ動きに、「バッ!」と効果音が付きそうだ。

 俺の頰を一筋の汗が伝い、刺すような視線を全身に受ける。今の俺に出来る事はただひとつ。


 逃げろ〜!


 俺は回れ右して、一目散に出口へ走った。


「者共! 総員突撃です! 侵入者を生きて返さないで下さいよ!」


 情けない嬌声をあげていたドM秘書が、悪魔達に上司らしく張り詰めた声で命令した。切り替えの速さは大したものだが、せめて鼻血拭けよ。百人隊の如く押し寄せる悪魔の波に、俺は叫び出したくなるのを必死で堪えて逃げた。


「逃しません!『ブロケード』!」


 秘書がそう叫ぶと、開け放たれていた出口の扉が一瞬発光し、バタンと大きな音を立てて閉じた。


「行くぜジジイ!『ダークネスキャノン』!」


 解放の呪文を唱えなくても闇の魔法が使えるようになった俺は、閉じた扉に暗黒砲を撃ち込んだ。


 だが……。


 正面からまともにダークネスキャノンを受けて木っ端微塵になるはずの扉が、なぜかビクともしない。

 何の変哲もないただの扉にここまでの強度があるなんて、あり得ない。立ち止まる俺の背中に、秘書が勝ち誇った声を投げつけた。


「フフ、どうです? 驚きましたか? 私の部下が持ち帰った闇の魔法のサンプルを解析して開発した特殊防壁。闇の魔法を吸収して、更に強度を上げる優れものです。あなたには絶対に破れない仕組みになってるのです!」


 チッ、昨日の奴か。余計な真似しやがって。って言うか解析早すぎだろ。魔闘結社スゲー。


 いや、感心してる場合じゃない。闇の魔法を吸収して強度が上がるって事は、闇より威力が劣る炎の魔法じゃ扉は破れない。でもな。


 俺はゆっくりと振り返り、余裕の笑みを浮かべた。


「哀れだな。この程度で俺を閉じ込めたつもりか」


「哀れなのはそっちの方です。もはや負け惜しみしか言えないなんて。弱い犬ほどよく吠えるってのは本当だったんですね」


「俺は犬じゃねぇ。狼男ナメんな」


 俺は周りを見回した。

 すぐ前を秘書やら幹部級の奴等が睨みを効かせ、数えきれないくらいの雑魚悪魔達の肉壁が俺の周りを取り囲んで逃げ場を塞いでいる。


次回水曜日の投稿はお休みさせていただきます。すみません。

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